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チュニカの市街にて



あれから数日後。

ニトーシェは家路を辿るゆるい坂道を降りながら大きなため息を付いていた。登城し騎士団長に今回の報告を行ったところ、ガジマ国との外交問題も有り、王へ謁見しての報告を求められたのだ。


「レイズバン様の事を聞かれてもな…。」

「まぁまぁ。ウーズ伯爵を撃退したって事で褒賞も出るのですから、良いじゃないですか。」

「お前のお気楽さには救われるよ。」


横で歩みを進めるパティーナは、今回の件で昇格し5級魔道士になれたのだ。棒給が上がると言って素直に喜ぶパティーナに、ニトーシェは苦笑する。


「魔族との戦いを通して私は魔法に関して考えを改めた。積極的に魔法を強化していきたい。パティーナ、力を貸してくれるな?」

「勿論ですよ!そう言う私も力不足を実感しました。あの時ボウとかいう魔道士が中級や上級を使っていたらと思うと、安心出来ません。」


魔族の恐ろしい魔法威力に関しては魔術師団へも直接報告を行った。魔法嫌いで有名だったニトーシェの言は説得力十分で、今後国の魔法使いの力を高めていく事がチュニカの緊急課題となっている。



なだらかな山を利用して作られた半城塞都市チュニカの街は、王城を頂点に南に拡がっている。王城後ろに有るチュニカ湖…カルデラ湖から傾斜を利用して上水を引いた為そうなったのだ。


「役目ご苦労!」

「お疲れ様です!」


無言で敬礼を返す警備兵に声を掛けて、お堀の跳ね橋を通過して行く。王城から1km程の所に城壁が有り、内側は上級区として貴族の小邸や高級店が集まっている。この中は身分が不確かな者は入れない。


お堀外に有る騎士・兵士用厩舎で自分達の馬に騎乗し、ニトーシェとパティーナは話しながら馬を進める。平時は壁内の騎乗は早馬を除き禁止されており自邸へ行く者か登城する者のみ馬車を許されている。


ここから一般街が2km程続き街の外だ。ここでの騎乗移動は騎士隊と憲兵、一部貴族等以外許されていない。糞害と馬車や通行人の妨げになるからだ。一般や商用の馬車は街の外輪部に有る馬屋が管理しており、そこは農場の牧場と繋がっている。


「ん?何だあれは。」


街の中心地から少し南、一般街付近で何やら揉めている様子が見られる。少年と数人の成人男性達が言い争っているようだ。



-----------



「だからワザとじゃねーって言ってんだろ!」

「そこを責めているのではありません。」


ローブを羽織った少年の背後にはボロを纏った6、7歳程の少女が倒れており、傍らには小さな桶が転がって水が流れ出していた。状況から見て男性が少女を転ばせてしまったのだろう。


「なぜ女の子を助け起こし謝罪しないのですか?」

「そんな汚いガキ知った事か!」

「情けない。貴方は男ではないのですか?」

「なんだと!?」

「ガキが偉そうによ!」


(ほう。)


ニトーシェ達が通りの反対側で見守っていると、その少年は数人の大柄な男性を物ともせず、言い切った。話しながら少年は少女を助け起こし、小桶を拾って手渡している。


「何をしている!」


背後から少年を蹴ろうとした男を見て、ニトーシェは思わず声を上げた。ビクッと動きを止めた男は、振り返って青ざめる。


「ヤベ!栄光の騎士だ。」

「冗談じゃねえこんな事で。」

「あ!おい、待て!」


男達は後ろ暗い事でもあったのだろう、大通り脇の路地に走り込んで逃げ去ってしまった。ニトーシェ達が馬で追うわけにも、追う程の状況でも無かった。そこに少年が少女の手を引いて寄って来る。


「助かりました。ありがとうございます。」

「いや、その子は大丈夫か。」

「どうだろう、お嬢ちゃん大丈夫かい?」

「うん。」


(するとこの少年は、見知らぬ少女の為に怒ったと言うのか。中々出来る事では無い。)


「私はニトーシェと言う。少年、名は?」

「ニトーシェさん…ヒロです。」

「さっきのはタチが悪そうだ。困ったら私の名を出して、その辺の騎士や兵士を頼れ。」


ニトーシェは薔薇の紋章入りのネームカードを渡す。それを受け取る少年は、薄汚れたローブの下に、見た事も無い黒軽鎧を着けていた。もう一度ニトーシェに礼をいい頭を下げると、少女の手を引いて何処かへ消えていった。



-----------



「それでマーヤちゃんはどこに向かってたのかな?」

「こっち。冒険者ギルデ!」

「じゃあ一緒に行こう。それ、お兄ちゃんが持とうか?」

「ダメ!私が持って行くの。」


先程男達に溢された水は、城のお堀からすぐを流れる上水路まで行きマーヤが自分で小桶に汲み直した。そうしてから、ヒロはマーヤと一緒に街の外に近い冒険者ギルドに行った。


冒険者ギルドは石造りのしっかりした建物で中は広く、様々な服装・装備の人達がいた。一階部分の奥に幾人かの女性が座る長いカウンターが有り、マーヤはそちらに歩いて行った。


「マーヤちゃん!」

「エルポお姉ちゃん~!」


一番奥に座る女性がマーヤに呼び掛け手を振り、ヒロ達はそこに行く。マーヤが手に持った小桶を女性に渡すと、女性はマーヤに銅貨10枚と空の小桶を渡した。


「いつもありがとうね!マーヤちゃん。」

「まいどアリ、です!」

「マーヤちゃん、こっちの人は?」

「ヒロお兄ちゃん!え~とね…。」


(エルフだ!初めてお話し出来るかも。あっちじゃ稀に見かけても、いつも大勢の人に囲まれて写真撮ってたから…。)


ヒロが上がって色々考えてる間に、マーヤはそのエルフ女性にさっきの事を話していたようだ。


「ヒロさん!マーヤちゃんを助けてくれてありがとう。お姉さん感心したわ。」

「こんな小さな子を、放っておく人がいる方がおかしいんですよ。」


(へえ。男の子じゃない。)


片眉を上げて微笑むと、ヒロを気に入ったようで、女エルフは名乗った。


「いいねヒロさん!私エルポーリン。よろしくね!見ない顔だけど冒険者じゃ無いわよね?」

「違います。そういや冒険者ってどうやったらなれるんですか?」

「興味ある?」


「ねーねー、何のお話しぃ?」


マーヤを放っておいた事に気付いて、二人はその話を止めた。ヒロはマーヤを彼女の家まで送って行く事にする。


「ごめんねマーヤちゃん。今日もお疲れ様。ヒロさん後でまた顔出してよ、ね?」

「解りました後で。…じゃ、マーヤちゃん行こうか。」

「うん!エルお姉ちゃん、またね!」


マーヤは街の外編部から西に、裏路地を避けなるべく大きい道を選んで歩く。小さな路地は行き止まりも多く怖い人がいる事もあるから、とヒロに話した。


中央通りから外に向かうにつれ段々と建物は汚く小さくなり、マーヤが案内してくれたのは一番大外に有るバラックで出来た粗末な建物だった。辺りには粗大ごみが放置されており、建物の向こうは低木が生え、更に向こうには草原が広がっている。


「マーヤ、そいつは誰だ。」

「ヒロお兄ちゃんだよ。あのね…。」


ヒロより少し年下と思える、汚い格好をした少年が出て来てヒロを警戒する様に見ていたが、マーヤから話を聞いてやや表情を緩めた。後ろからは何人か子供達が覗いている。


「ヒロさんか。マーヤをありがとう。それじゃな。」

「少しだけ聞いても良いかい?」

「何をだ?」


又もや警戒を露わにした少年に苦笑して、ヒロは話を続ける。


「マーヤちゃんは君の妹なの?それと大人は居ないのかな?」

「なぜそんな事を聞くんだ?」

「また今日みたいな事があってマーヤちゃんが酷い目にあったりしないか…心配に思ったからだよ。」


すると少年はヒロをジロジロ見回した。


「良い鎧着けてるな。お前歳は?」

「12億1千14歳だよ。」

「はぁ!? お前バカにしてんだろ。」

「してないよ。羨ましいかい?」

「何だって!? …いや羨ましくないけど。」


少年は少し毒気を抜かれた様な顔になった。

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