マザーシップにて……ウーズ伯爵達その後
衛星軌道上のマザーシップに戻った。
今はあの時着ていた学生服で、腕組みをしながら宙に横たわる。青い惑星をバックに、脱ぎ捨てたスペース・ディテクティブ・スーツが浮遊している。
眼下に見降ろす陸地は僕の知らない物。だが人類が生息しているのは幸いだった。父さん母さんと舞が、ここに来て居るかも知れない。
「次元踏破先にマザーがいてくれて良かった。正直不安だったんだ。」
『 レイズバン !ヤット ゴウリュウ デキマシタ!』
これからの方針を考える。首にかけた薔薇飾りのネックレスが煌めいた…そうだ、ニトーシェさん達の暮らすチュニカから始めよう。
「先ずは現地調査をして別次元から来た人間が居ないか確認しよう。マザー!潜入調査用に原住民の衣服を用意してくれ。」
『ピピッ!リョウカイ 。ドノヨウナ ミブンヲ エラブカ ニヨリマスガ、コノヘンガ フサワシイ フクソウ コウホデス。』
ホロスクリーンに、原住民の衣服を身に付けた自分の姿が浮かぶ。しかしなんだこれは。
「マザー。これじゃよく解らないよ。左手を頭上に掲げ…そうそう、右手は腰に。深淵を見つめる表情で……解らない?あっそう。」
『ホンワクセイハ サイオニクス、マホウガ ソンザイシマス。ダイゴジュッシュソウビ ヲ オススメ シマス。』
確かに。雨が降ってる中に傘もささずに行くのはバカのやる事だ。雨自体はどうでも良いが、風邪を曳く可能性もあるからな。
「解った50種でいくよ。剣も魔法もあるらしいから目立たないよう…ゴッド・ハイペリアル・ナイトでいこうと思うんだが、どうかな。」
『エネルギーハンノウ カラ、ホンセイデハ ジュウカキ オヨビ ナイネンキカンガ ミトメラレマセン。ハイペリアル・ナイトハ ソノ…。』
「ああ、両肩にマイクロ・サイクロトロニック・レールガン付いてるもんな。じゃあ…。」
僕は「真実の書アカシック写本」のページを捲り、マザーと打ち合わせを重ねていく。目立たず原住民に溶け込み、最低限の能力ある装備……。規約はアバウトではあるが、なるべく現地文明に影響を及ぼさないようするのがスペース・ディテクティブ。正体を誰にも悟らせないのは基本中の基本だ。
「そう言えば魔族の2人はどうなった?」
『サイオニック セイメイリョク オウセイ。ソセイ二 セイコウ シマシタ。タダ…。』
「蘇生したなら充分だろ?記憶を読み取って、奴等の居住地近くに放してやってくれる?」
『リョウカイ シマシタ。』
「じゃあ、バイオニック・エグゼキューション・サムライは…。」
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あの事件から数日後、チュニカに国境を接する伯爵領の中心にある城の自室で、ウーズは独り鬱々と酒を飲んでいた。ガジマ国各地から集めた高級酒だが…酔えない。
「伯爵様!伯爵様ぁあああ!」
「騒々しいぞ。今がボウ爺とガッシュの喪中だと解らんのか?お前とてボウ爺には…。」
「それが…お2人がご帰還なさいました!」
「何だと!? 今どこにいる!いや行く!」
薄いカーペットの敷かれた石床を急ぎ足に、ウーズは彼等が待つと言う応接間に向った。自室の有る塔から階段を降り、ガラス窓の回廊を幾つか抜ける。貴族らしくないが外を飛んで移動したい…気持ちを抑えるのが大変だった。
「ウーズ様!」
「殿!」
「おぉボウ爺!ガッシュ!よくぞ無事で。」
涙を流し、二度と無かったはずの再会を喜ぶ三人。二人は気付くと城の裏手にある丘陵地に寝ていたという。しかしボウ爺とガッシュの顔色は今一つ冴えない。付き合いの長いウーズはそこに気付く。
「どうしたのだお前達。どこか痛むのか?調子が優れぬとか…。」
「いえ。すこぶる快調です。」
「ですが…ご覧下さいじゃ。」
ボウ爺が袖を捲ると、切断された右腕が九十度曲がって付いている。ガッシュの胸部も三十度程曲がって付いていた。
「お前達!そ、それは…。」
「問題無く動きますし痛みも有りません。訓練すれば、再び戦えるようになるでしょう。」
「復活に悪気など無いじゃろうです。ですが…。」
ウーズは2人に頷いた。冷や汗が額を伝うのが解る。これで問題無く動く…そんな治療の出来る者がいる事が恐ろしいのだ。それを行ったのはあの光る鎧の男らしいと聞く。
「もう良い。とにかくもう一度二人とこうして話せるだけで、私は満足だ。」
「ウーズ様。」
「この上ないお言葉ですじゃ…。」