蒼く輝く鎧の男
「ほっほっほ。お嬢ちゃんは素質が有りますね。しかしその程度では次は……何!? 」
ボウ爺がそれまでの笑顔を消して、瓦礫の方を見やる。
「どうしたボウ爺。流石のボウ爺も遂にフェミニストに目覚めたか?」
「いえ…あちらから、一瞬ですが膨大な魔力を感じたのですじゃ。」
「私も感じました。」
瓦礫の奥の影になった暗いところに、ポウッと見た事も無い青い光が灯る。現代でいうLEDのようなタイトな光だ。
「「「!」」」
ピポリ♪…キュィーン
この世界では誰も聴いた事がない電子音を響かせ、青い明かりが次々に灯り人型を成してゆく。やがて人型はガラガラと瓦礫を押し退けて立ち上がった。
「ボウ爺、なんだアレは!」
「私めも…初めて見ますじゃ。」
ガチャンガチャンと重い音を立ててその人物は近付いて来る。陽の下にも関わらず、全身を覆うその鎧のあちこちに、青い光が流れ瞬いていた。
「何者!? 」
『何者だと?人に火球ぶつけといて、第一声がそれか!?』
「いや、それはお主を狙ったのでは無い。そこの…その物達を狙ったら弾きおったのじゃ。」
ボウ爺の指差す先には鎧姿とローブ姿の女性が2名、息も絶え絶えに立っていた。足元には多数の騎士が転がっている。それを見た男の兜の目の部分がギンッ!と白く光った。
『双方武装…争いには理由があるのだろう。しかしだ。女性をなぶるなど、男の風上にもおけん!』
その兜の目が光ったと同時に、3名の魔族は飛び退って身構えていた。男?奇妙なエコーがかった声からして男だ。男は握り締めた右手に左手を合わせ、そこに刀身があるかの様に滑らす。
『シャイニング・ホーリー・ディメンション・ブレード!』
「なんだと!? どこから剣を!いや、あの輝きは何だ!? 」
「お下がり下さいウーズ様!この男は危険です!」
「魔力の剣!とんでもない魔力ですじゃ!」
キシュゥウ…バチ!バチバチ…。
男はいつの間にか光輝く剣を手にしており、それは空気中のゴミが触れる度、パチパチと音を立てる。
「皆飛空せよ!ボウ爺、空より魔法を放つのだ!」
『させん!』
「なに!? 消えたじゃ…グギャアアア!」
消えたと思った男は、ボウ爺の眼前に現れその右腕を杖ごと切り落とした。切断面は焼ごてを当てた様に痛み、出血こそしていないもののボウ爺は転げ回ってのたうった。
「ボウ爺!」
「ボウ殿…おのれ!」
ガッシュが空中から落下の勢いを利用し、男に真正面から斬りかかる。体重を乗せた重い一撃、避ける事しか出来ない筈だった。しかし男はそれを下から迎え撃つ。ジャンプした。
『とぉうっ!』
「まさか!」
なんと男は5m程も飛び上がったのだ。ガッシュは奇跡の様な反射で男の剣に合わせたが…。
「ぐ!? ゴホッ…そんな、剣ごと…。」
「ガ〜〜ッシュ!」
男の剣はガッシュの身体を剣ごと、胸の部分で真っ二つに断ち切っていた。ガッシュが落ち、続けて男が着地。そこに横合いから火球が飛来する。
『ぬぅううん!』
ボウ爺が歯を食いしばって放った火球が、男の剣に絡め取られるように消える。
「ウーズ様ぁあ!どうかお逃げ下さい!爺めが時間稼ぎをしている内に!」
「し、しかし!」
「お願いですじゃ!帰って皆に、こ、この男の脅威をお伝え下さいぃいい!」
(大戦を生き延びたボウ爺が!中級魔法を撃つ事も出来ないだと!? くっ…せめて支援に。)
「グギャアアアアアアア!? 」
ウーズが放った火球を男はその光る剣に絡めると、それをボウ爺に向けて放った。それを見たウーズは大きく顔を顰めると、自領目指して一目散に飛び逃げた。
ウーズ「はぁはぁ…。恐ろしい…我等3人がかりでこれか。ボウ爺…ガッシュ…。」
ボウ爺は魔導師団長、ガッシュは騎士団長で公私共に付き合いも深く、正にウーズの懐刀だったのだ。
いつかこの仇はとってやる。しかしそう言えない程の恐怖がウーズを支配していた。軍ならともかく、個としては今戦った3人がベストメンバーだったのだ。調子に乗って人間領なぞ来なければ良かった…。