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ニトーシェの危機…レイズバンとの再会



『ピピ!レイズバン。マーク シテイタ ニトーシェ 二 サイオニクスハンノウ アリ。』

「なんだって?」


マザーが重力発生させると、浮遊していた僕の身体がデッキに緩やかに降りていく。両脚が地に着いたところで丁度1Gになり、同時に目の前に100インチ程のホロスクリーンが現れた。


「なんだ。あれは訓練だよマザー。」

『ソウデシタカ。デスガ オオカミ ノ ハイゴカラ、サイオニクスアニマルガ セッキンチュウ。ダイジョウブ デスカ?』

「あ〜ちょっと心配だね。念の為行ってくるよ。」


おそらく狼を餌にしているのだろう、マジックスライムが2匹、ニトーシェさんに接近している。全く、なんで一人で出ているんだ?


-----------


「ファイヤボール!…フンッ!」


ニトーシェは小さな火球を撃ってから狼の首を断つ。5匹はいた群れの牽制には充分役立つ魔法だが、それがダメージを与えるには至っていない。


(実戦を通じて延ばせればと思ったが、そう甘くも無いな。)


私邸裏手の林から更に奥、森に入る前の狭い草原はニトーシェの格好の訓練場所だった。兎などの小動物を餌にすれば狼や熊などが集まってくるのだ。しかし彼女は、森の奥から魔獣が出現する事を軽く見ていた。


ボッ!

「なに!? 」


いきなり狼の背後から大きな火球が撃ち込まれて来た。ニトーシェはそれを辛うじて盾で受ける事が出来たが、半端ない衝撃と魔法継続力だ。数発も受ければ、熱で盾を持っていられなくなるだろう。続く火球が背後から来たのを横転して躱すと新たな敵が見えた。


「マジックスライム!何でこんなところに?」


(アイスボールで盾を冷やしながら…いや保たない。奴らは3級魔道士並みの火球を放って来る。私では熱を相殺出来ない。)


いつの間にか狼は消えている。魔獣と言えど火球の連撃は出来ないので、このタイミングでニトーシェも逃げるべきだろう。スライムは背が低いので接近に気付かなかった。


(幸いスライムは脚が遅い。加勢を連れて引き返し、これらを討つ。)


放置すればニトーシェ邸またはチュニカ市民に被害が出るだろう。素早く反転したニトーシェだが、そこに第三の火球が飛んで来た。三匹目がいたのだ。何とか盾で受けたが、ガントレットを通して高熱が伝わる。


「ぐっ!」


『とぉーーう!』

「なん…!? 」


キュンキュキュン!

マジックスライムがいると思しき場所に、空から光の矢が走る。エコーがかった声のする方を振り返ったニトーシェの眼前に、蒼い光りに輝く鎧の男が降り立った。


「レイズバン殿…。」

『む!失礼!』

「へぁ!? 」


盾と剣を持ったままのニトーシェを抱え、レイズバンは軽々とジャンプした。重力を無視したかの様に3m程も飛び上がると、その下を火球が通過する。


(凄い!幾ら私が軽いとは言え、装備合わせれば80kgは有るぞ!)


着地しニトーシェを立たせると、又もやレイズバンは右手に持った杖から光の矢を放ち、ジュッと何かが焦げる音がした。最後のスライムを倒したのだろう。


『お怪我は無いですか?ニトーシェさん。』

「あ…あぁ、大丈夫です。」

『間に合って良かった。幾らお強いと言っても、こういう事も有ります…。』


今後は一人での行動は控えて下さい、と続けるレイズバンの言葉にニトーシェは素直に頷いた。また助けてくれた王子様…。


「ありがとうございます!それにしても、どうやってこの状況を…。」

「たまたま見ていたのです。…あそこから。」


レイズバンは青空を指差す。


「はぁ…。」

(星の王子様!? いやこの人なら…。)


軽く背中を押され、ニトーシェは邸へ戻る白樺林の中をレイズバンと並んで歩き始めた。落ち葉をザクザク踏みながら歩く。もう会えないかと思っていた王子様、これがまたと無いチャンスとニトーシェは気付く。


「あの…レイズバン殿。その強さを見込んでお願いがあります。」

『……。』

「どうか私に稽古を付けて頂けないでしょうか?私は弱い…。」


するとレイズバンは急に立ち止まる。兜越しで表情は伺えないが、何か考え込んでいる様だ。LEDめいた蒼い光が走る鎧。考えを妨げぬようしながら、ニトーシェはそれをとても格好良いと思って眺めた。


(いやニトーシェさんは今のままでも充分強いんだが、装備が貧弱で魔法対策が出来ていないだけなんだよな…。)


「め、ご迷惑だったら…。」

『いや。』


(ここはアレだ。ヒーローらしく)


『貴女は、何の為に強さを求める?』

「何の為に…。」


レイズバンとの繋がりを持ちたくて稽古を願ったニトーシェには、思いもよらぬ問いかけだった。騎士だから、というのは違うだろう。いや騎士とはどうあるべきか…。考えながらニトーシェは再び歩き始めレイズバンも横を行く。


「考えた事も有りませんでした。私は病没した兄の代わりに、幼少時から騎士を目指すように育てられました。」

『お兄さんの代わりに…』

「そうして気付けば騎士に。少し魔法が使えたばかりに“栄光の騎士”とされ、国中を走り回って悪と闘ってきたのです。」


(いや装備の事聞いたつもり…。僕は勝手に色んな騎士をやって来たけど、普通は王様に任命されるんだよな。実際何が求められるんだ?)


『教えて下さい。貴女の考える騎士とは?』

「……。」


国の為というのも違う。任務を通じてニトーシェには理想の騎士像が出来ていた。それは…。


「味方を、民を、弱きを守り救う騎士。」

『防御重視か…。』

「え?」

『あ、いや。その為には“栄光の騎士”を辞める事になっても?』


(いやこの装備じゃダメだよ。ニトーシェさん専用装備が必要だ…。)

(くっ……。さすがレイズバン様、物事の本質に斬り込んでこられる!そうだ、私は…私の理想とする騎士にならねばならない。)


「はい。」


ギン!

ニトーシェが答えた瞬間、レイズバンの兜の目の部分が白く輝いた。鎧の蒼い輝きが強くなる。


『解りました。』

「では!…。」


願いが叶い喜ぶニトーシェ。レイズバンの目も鎧もすぐ元に戻った。


「嬉しい!天にも昇る心地です!」

『そうか飛行能力…。』

「え?」

『あ、何でもありません。』


話しながら歩き続けていた二人のすぐ先で道は途切れ、小さな練兵場とニトーシェ邸が見えた。もう外敵が来ても助けを呼べるだろう場所。二人は立ち止まる。


『ヒロと言う冒険者を知っていますね?』

「え!知っていますが。」

『実は彼は私の知人です。私の準備が出来たら彼を通じてニトーシェさんに連絡します。』

「ヒロが!? わ、解りました!」

『それと魔法に関しては彼から教わって下さい。言っておきますので。』


ニトーシェが頷くと、それでは、と林の方に戻って行くレイズバン。


(も、もう少しお話したかった。)



と、数歩歩いて立ち止まり戻って来る。


『そう言えば首飾りのお礼がまだでしたね。』

「え?…そんなつもり…。」

『これを身に付けて下さい。貴女に何かあれば、これが私に知らせてくれます。』


どこからかか取り出した首飾りにはチュニカには無い文字“R”が刻まれ、そしてそれはレイズバンの鎧と同じく銀色に蒼い光が薄っすら輝いていた。


「こ…れは?」

『私の紋章です。それではまた。』


今度こそレイズバンは林の奥に歩いて行く。その姿は遠ざかるにつれ透明になってゆき、気付けば消えていた。


「レイズバン様……。」


真っ赤になったニトーシェが残った。

彼女も解っているのだが、恐らくレイズバンはネックレスを交換する意味を理解していないだろう。


この国の貴族は、女児が生まれた時にオリジナルネックレスを一つだけ作る。それは婚約を承諾した証として渡されるのだ。そして男性が女性に自分のオリジナルネックレスを渡す事により婚約が成立する。貴族には一夫多妻が認められているので男性の物は唯一とは限らないが。


「それでも嬉しい…。」


出来ればレイズバンに着けて貰いたかったが、それは望み過ぎだ。ニトーシェはいそいそとレイズバンのネックレスを身に付け…決して外さないと心に誓った。


-----------


「ほぇ〜!そ、それもしや?」


ニトーシェ邸の応接間。パティーナがシャツから覗くネックレスに気付くと、ニトーシェは顔を赤らめて頷いた。


「恐らくレイズバン様はネックレス交換の意味など解っておられないだろうがな。」

「そうなんですか?…それにしても綺麗。自発光?…いや宝石としても凄いですよ。」

「誰かに聞かれたら、レイズバン様の事は黙っていて欲しい。」

「勿論です!でも良かったですね。」


パティーナは心底祝福してくれた。彼女はニトーシェが二度と会えないかも知れないレイズバンに、自分の首飾りを渡した事を知っていたからだ。ニトーシェは続けてヒロの情報を伝える。


「何ですって!? ヒロ様がレイズバン様の知り合いだった?」

「そうだ。そして魔法に関してはヒロから教わるよう言われた。」


大きく二度頷くパティーナ。冒険者ギルド裏手で見たヒロの魔法は異常な威力だった。彼が異世界から来たと知っているのはパティーナとニトーシェだけだが、レイズバンの知り合いと聞くと納得出来る。


「“この世界は魔法が未発達のようですね…。”とか言ってましたからね、レイズバン様。」

「そうだったな。」


ヒロから教われば、二人とも魔族に対抗出来るような魔法が使える様になるかも知れない。憂慮していた魔法の訓練に目処がついて、ニトーシェとパティーナは喜んでいた。そこに執事が現れた…。


「失礼します。」

「なんだ。」

「は。ヒロ様が魔術師団本部から呼び出しを受けた様です。」


「なに!? 」

「何ですって!呼び出したの誰か解ります?」

「第二魔術部隊長イビリウス様と伺っています。」


ニトーシェとパティーナは顔を見合わせる。眉を顰めた顔だ。イビリウスは男爵家の次男で、高慢で庶民を好き勝手に扱う事で有名な男だ。ヒロが只の冒険者として呼び出されれば、どんなトラブルが起こるか分からない。


「ドナージュ家が後ろ立てに付いているとした方が良いな。」

「ちょ、ヒロ様が知る前につかまえましょう。」


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