そういやトニー達に連絡してなかった
「あの…マーヤちゃん?」
「誰が口を開いて良いと、いいまちた?」
青空の下、トニーのバラック小屋入り口前でヒロは正座させられていた。無断で1週間も戻って来なかったからだ。チビ達…特にマーヤはプリプリ怒っている。
「ヒロさん。マーヤ街中探してたのよ。」
「俺は大丈夫だって言ったんだけど、チビ達は無茶してるんじゃないかって…。」
「聞いてまちか?ヒロお兄ちゃん?」
「すみませんでした。」
盛大に土下座して謝って、ヒロはやっとこ皆に許して貰えた。立ち上がろうとすると、チビ達が急に小屋の中に駆け戻る。トニーとベスが困り顔に。ヒロが振り返るとカール達がいた。
「情けねーなヒロ。」
「へへ、ガキに土下座だとよ!」
「やっと会えたぜ。」
嫌味は言うもののカール達は寄って来ない。
「お前ら僕が居ない間…。」
「いやヒロ。カール達は急に金を催促しなくなったんだ。」
「それでヒロは居ないか?って何度も。」
「ほう…。」
向き直ったヒロに、カールが少し近付いた。
「お前にクーンツさんの伝言を届ける。」
「なに!クーンツの?」
クーンツがヒロの話を聞いて一か月分“管理費”をプレゼントする、そう言った事をカールはヒロに伝えた。面白くなさそうな表情でだ。
「なんだ、話が解る人じゃないか。」
「そ、そうだ!クーンツさんは話しが解るお人だ。」
「そうだ、俺達が殴られたら止めて下さるんだ!」
ヒロが怪訝な顔でカール達を眺めると、3人とも腫れは引いているものの顔に殴られた傷跡がある。ヒロに気付かれたカール達は、バツが悪そうだ。
「お前良い服着てるな。執事服か?貴族様から仕事貰えたんなら、悪い事は言わねえ。来月からはキッチリ払うんだ。」
「そうだ!」
「分かったな?」
確かに伝えたからな?と言ってカール達は去っていった。背後で見守ってたトニーとベスがヒロに近付く。
「ヒロはクーンツさんに目を付けられたな。」
「そうか?どうでもいいけどね。」
「それよりカールが言ったその執事服?どうしたのヒロさん?」
「ふふふ。良く聞いてくれましたベスちゃん!」
バサァ!
ヒロがマントを脱ぎ捨てると、その下には黒く輝く執事服。ダークブルーのネクタイ、胸下のチェーンもキラめいている。肘を直角に掲げ反対の後ろ脚を引いて礼をした。
「キャーカッコいい!ヒロさん!」
「ヒロお兄ちゃんカッコいいでち!」
「恐悦至極に存じます。」
いつの間にか出て来たチビ達が、ヒロの格好を見て騒ぐ。
「ヒロ。ここじゃ目立ち過ぎる。」
「おっと、中へ入るか。」
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「え?冒険者の職業?」
「そうさ、バトラーと言ってオーラの力でブン殴る男らしい職業なんだ。」
そうヒロが説明すると皆はへー、と頷いた。執事服とか解る者はトニーファミリーには居ない。しかしベスは一つ気になった。
「この前の“何とかを盗みしシーフ”ってのはやめちゃったの?」
「そういやヒロ。何でだ?」
「……。」
トニーとベスが質問するとヒロは黙りこんで暗い顔をし、ふらふらと裏口から夕暮れが始まった外に出る。トニーとベスは心配になって、慌ててそれに続いた。
「試験の時に色々あってね。」
「……。」
「ヒロさん…。」
(思い出してはいけない。そう、ニトーシェさん達とお茶をした風景を思い浮かべるんだ。)
暗く遠い目で、赤く染まった草原の向こうを見るヒロ。優しいトニーとベスは目を見交わし、この話題には触れないでおこうと頷いた。
「いや〜バトラーカッコいいなぁ〜。」
「冒険者って凄いわ!」
「そ、そうかな?」
「「そうだよ!」」
「あぁそれで思い出した。はいこれ。」
「えぇええ!? 」
「マジかよ!」
ヒロは金貨1枚と銀貨50枚をベスに渡す。とんでもない大金だ。二人は目を丸くする。
「こないだの狩で余った獲物を売ったら、結構なお金になったんだ。」
「凄い!でも…。」
「大事に使ってくれればそれでいい。それでベスが仕事に出なくて済むなら、チビ達に色々してあげられるだろ?」
「そうだけど、多過ぎるよヒロさん。」
ベスは銀貨5枚だけを受け取り残りをヒロに返した。こんな大金持っていたら、危なくてしょうがないと言う。
「そっか。じゃあ僕が貯めておくよ。」
「そうしてくれ。ありがたいけど目の毒だ。」
その話が一段付いたところで、ヒロは前に気になっていた水の事を思い出す。あれじゃいつかは虫が湧くし寄生虫だって心配だ。ヒロはとりあえず浄水器を作ろうと、トニーに提案した。
「なるほど。寄生虫は怖いな。そんな物を作れるなら、やらない手は無い。」
「だろう?それに土や砂も取れるから、味も良くなれば歯を傷める心配も減るんだ。」
貧しい暮らしで歯が悪くなる事は致命的だ。何でも食べれなければ直ぐに体力が落ち、それは死に繋がる。トニーもベスも浄水器の威力をすぐに理解してくれた。
「明日木樽を買ってくるから、トニー達は砂や石を集めて欲しい。」
「そんなんで出来るのか?」
「多分ね。後で仕組みを教える。」
もう日が落ちてしまいそうだ。急いで夕食の支度を始め、3人で手分けして肉野菜スープを作る。チビ達も手伝うと言うが、火が危ないので断り、盛り付けをやって貰った。
「お食事好きになった〜!」
「お肉って美味しいね。」
チビ達は1週間前より食べる様になっていた。胃が慣れて来たのだろう、トニーとベスも沢山食べている。食後にヒロは、ストックから追加を取り出して軒下に吊るしておいた。今度は鹿肉だ。




