ヒロ引きこもり……イタイ大作戦で引っ張り出せ!
「まだ部屋から出て来ないのか?もう一週間だぞ?」
「せっかく冒険者になったと言うのに…。」
ニトーシェ邸に連れられたヒロは、与えられた自室で絶賛引き篭もり中だった。あんな大勢の前で、まして美しい女性達に全裸を晒すとは…。
「ヒロ!良い天気だ!外に出ないか?」
「美味しいお菓子が有りますよ!」
(お菓子だって!? 僕のハートはアイントフ星系第5惑星名産品、食べれるクリスタル・パイ生地グラスよりも繊細なんだ!)
クリスタル・パイ生地グラスは噛む度に、ピキピキーン!と美しい音を立てる、凄く脆い食材だ。ヒロは嫌な記憶から逃避しようと、書を捲って確認する。
(何て事。マザーシップにも戻れない!どうやったらそこだけマザーのメモリを…。あぁあ第30種装備以上にしとけば良かった!)
上質なベッドの中を、ヒロは身悶えしながら転げ回っていた。当然部屋の鍵は掛けて。
「仕方ない、この手は使いたく無かったが…。」
「どんな手ですか?ニトーシェ様?」
「それはだな…。」
執事や召使い達に指示を出し、ニトーシェはパティーナと配置に付く。
(きゃぁあああああああ!? )
「む!? 女性の悲鳴!いや騎士達もいるこの屋敷で、何かおかしい。…ふ、これは孔明の罠。三国志を読破している僕の智略、舐めるなよ?」
(ひぃいいい!? やめてぇええええ!? )
(ヘッヘッヘ!大人しくしな!)
しかし騒ぎは一向に収まる様子が無い。罠だ罠だと言い聞かせても、ヒロは気になって仕方ない。その内静かになった。
「まさか!? 女性が何かエッチな目に?…いや考え過ぎ…だがもし!もしも…。」
(やめて!脱がさないで恥ずかしい!)
仕方ない。ヒロは扉をちょっと開け廊下の様子をキョロキョロ伺う…誰も居ないようだ。声がしたのはホールの方だったか?
(やめて!私が代わりに…。)
(ヘッヘッヘ!魔法使いの…。)
「パティーナさん!? い、いかん!これは罠では無い!」
廊下を走りホールへ抜ける角を曲がると…何者かに横合いからタックルされた!構わず走りながら腕を掴んで振りほどこうと…柔らか、女性?
「イタぁ〜い!」
「ニトーシェさん!? やっぱり罠だったか!」
ヒロは掴んだ腕に軽く力を込め引き剥がそうと…。
「イタっ!い↓た↑い↓ぃ〜!」
「え!? そんな…。」
ニトーシェの「イタイ作戦」発動である。ジェントルな男性がこれを女性にやられると、どうにも力を入れられない。捕まった時点で負け確定の恐ろしい作戦だ。
「ちょ!」
「イタっ!」
「………。」
「………。」
(くっ…何という高度な罠。まさか騎士であるニトーシェさんがこの様な…。侮っていた。)
その内パティーナやメイドもやってきて、ヒロは完全に拘束される。力づくは「イタイ」で全て潰された。
(この女性達があの時代にいたら、歴史が変わっていたに違いない。四国志いや五国志か?)
「騙し討ちすまないヒロ。だがアレはダメだ。」
「そうよ。妹さんや子供達!放っておいていいの?」
「!!」
(そうだよ、何をしていたんだ僕は!女性達に全裸を晒したくらいなんだ!こんな美しいニトーシェさん達に…見られた…くら、い。)
一瞬上を向いたヒロだが、パティーナとニトーシェの顔を見ると赤くなり、段々下を向いて床を見つめてしまう。
「気持ちは解らんでも無い。私だって同じ事があったらショックだったと思う。」
「そう!解るわよ?」
「ニトーシェさん…パティーナさん。」
ヒロは気が付けば衣装部屋に連行されていた。周りはニコヤカなメイドさんばかり、あちこち掴まれて逃げ出せない。
「そこでだ。気分転換をしよう。」
「ヒロ様だって解らないように変装してさ。」
「変装…ちょっと惹かれますね。」
ニトーシェとパティーナはチラっと目を見交わした。この辺がツボなんだな、と。
「変装と言うとスパイですよね?地味なシャツに地味なトレンチコート…勿論色は地味かつシックな黒で統一して…。」
(あ〜。)
(え〜と…。)
装備や衣装に拘りが有るのは何となく承知していたが…ここは更に知恵を絞る必要が有る。
「いやそのね?地味過ぎると返って目立ってしまうのよ。その…地味でもヒロ様はセンスが光っちゃってるから。」
「え!? センスが光ってる?」
ヒロの口元が微かに綻んでいる。もう一押し…。
「兵法にな…。」
「ほう兵法!? 」
「木の葉を隠すなら森の中、というのがあってだな。」
「それ聞いた事有ります!そうか兵法だったのか〜。勉強になります。」
うんうん頷くヒロに微笑んで、ニトーシェは手筈通りメイド達に任せる事にし扉を閉じた。
(ちょ!? 脱がさない…。)
(イタっ!)
(あ…あ…恥ずかしいんです!)
(い・た・い〜!)
しばらく衣装部屋がワタワタしていたが、やがてヒロはメイド達に連れられて応接室にやってきた。
「こんな薄っぺらいシャツ。白って目立つじゃないですか?それに…髪を上げてしまうと、敵がいたら顔を覚えられてしまう!」
(ほ…う。)
(うひょ〜♪)
かなりイケてる貴族風の服装をした少年が、そこに立っていた。両手はメイドが「イタイ作戦」で押さえて離さない。手を握っているメイドの顔が赤くなっている。
「いやほら、貴族風の私達を護衛して街に出る場合、それが「木の葉」の格好なんだ。」
「ちょっとメイド達に聞いてみようか?ねー、ヒロ様全く目立たないよね〜?」
「「「非常に地味で〜〜す!」」」
「むぅ…解りました。で、その手は何なのでしょうニトーシェさんパティーナさん?」
「男性がエスコートするのは常識だぞ?」
「そうそう。」
無論掴んで部屋に戻さない工夫だが、ヒロは歳近の女性と手を繋ぐのはちょっと嬉しい。素直に手を繋いで外出した。




