冒険者試験後半…ヒロ激チン
「ここからはギルドのスーパー魔術士である、俺サイミアド様が試験してやる。」
「スーパー魔術士ってイイですね!」
「お!解ってるねお前…ヒロか!シックな装備といい、才能有りそうだな。」
(シック?)
(えぇ!? 冒険者ってあれでシック?)
サイミアドと名乗った男は、どう見てもレースカーテンにしか思えない物をマントのように肩留めしている。その前にはヒロを含め4人の少年少女が立っていた。
「それじゃこれから魔法の実技試験を開始する!と言っても威力と精度を確認するのが目的だけどな。あれを見ろ。」
サイミアドが指し示す先には5つカカシが立っていた。近寄ると、不燃布が巻かれ何かの護符がベタベタ貼って有る。背後の壁にも魔方陣が書かれ護符が貼ってあった。
「壁には上級魔法でも耐える魔方陣が、護符は対魔耐火だ。だから本来街中じゃ禁止の魔法をここじゃ安心して撃てるってわけだ。」
「おぉお!」
「流石ギルドだ。」
皆が理解した様子を見てサイミアドが杖を持って前に出る。お手本を示すようだ。
ボウ!
20cmくらいの火球がサイミアドの杖先に出るとカカシに向かってゆっくり飛んで行き、一瞬カカシを包むと消えた。
「デケえ!」
「ヤバ!」
「うわぁ、凄い!」
(ふふふ。皆驚いておる。ヒロとかいうのは言葉も出ないか…。良いものを持っているのにな。)
「受験者に私程の威力は期待していないから安心していけ。じゃ1番。」
杖を構えた最初の少年は3cm位の火球をカカシにヘロヘロ飛ばし、ペショっと当たった。
「さすが魔術士志望。良いぞ。じゃ3番。」
次の少女も杖を構え、前者と似たような火球をヘロヘロ飛ばすが当たらない。サイミアドがもう一度チャンスを与えるが、当たらなかった
「威力は良い。しかし当たらぬとな。じゃ5番…お、栄光の騎士候補ニールか。」
ニールは3cm位の火球をカカシにヘロヘロ飛ばし、ペショっと当たった。
「杖も無しに!」
「さすがだなニール!よし、じゃ6番…ん?どうした。」
「ちょっとこの辺の神様とか精霊について教えて貰えませんか?遠くから来たもので…。」
「そうか。少しなら…いいな皆?」
皆頷いたので、ヒロはサイミアドに幾つか質問し、それをメモする。5分も経たず話は終わった。
「よし。じゃ緊張せずいってみろ。」
『天の火より起こりしプロミナその娘ロミナと結ばれし…』
(今時詠唱かよ…?)
(なに?赤いのが…。)
ヒロの周囲に何か赤い光が凝縮し始める。
『そは類稀なる美と力の顕現モエラ。柔らかき炎の衣を纏いし…。』
(精霊!? 初級魔法で…精霊!? )
「「「え?…えぇええ!? 」」」」
赤いストールを閃かせた美しい炎の精霊が顕現した。髪や目は紫色の炎でクッキリしてる。詠唱しながらヒロが挙げた右手に、精霊は微笑んで触れスッと消える。
『…今こそ我と汝の敵を滅ぼすべし、ファイッ!ヤ〜!ボォオ〜〜ル!』
ヒロの右手から、ゴォ!っと青い炎をボール状に纏った精霊がカカシに向かって放たれた。凄いスピードだ。真ん中3つのカカシが瞬間的に消え、火球はそのまま奥の壁に突っ込んでいった。
「「「ブーーーーーーー!? 」」」
ビリビリビリビリビリ…!
『ヒィイイイイイ!』
バキバキバキ…。
壁の魔方陣に触れたヒロの火球は、精霊の甲高い叫びと共に辺りを震わせる。壁がヒビ割れ崩れ落ちたところで、ようやく火球は消えた。
そこにいた全員の目が大きく見開かれ、アゴが外れそうな程口を開けている。皆がボーッとしていると、ギルド外から凄い形相の兵隊達が沢山駆け付けて来た。
「どうした!」
「何が起きたんだ! 」
「見ろ!魔法防護壁が!? 」
不味い状況に気付いたサイアミドとエルポーリンが彼等に状況説明する。やがて皆頷きあって、兵隊達はヒロをチラ見しながら引き上げていった。
「ヒロ!他の属性も使えるって書いてあるけど、ひょっとして…中級や上級も使えるのかな?」
「そりゃ使えますよ。」
(え!? …。)
(それって3級魔道士クラスじゃん?)
「は、ははは!確かに今のは凄かったけど、幾ら何でもそれはハッタリさ。」
ニールが引き攣った顔で笑いながら言う。何かと突っかかるニールに、ヒロはいい加減イラッとしてきた。
「失礼だなニール君。じゃあ今からちょっと本気出す!ターゲットは…。」
何やら上空を見渡し探すヒロ。見つけて指で示す。
「あ!丁度良い。あそこに月が見えるかい?」
「見えるよ。それで?」
「今から魔法であの月を消して見せる。そうしたら…信じられるだろう?」
「つ、月ぃい!? 」
「何バカな事をやってるんだ!!」
声のする方を向くと鎧姿のニトーシェとパティーナが立っていた。でもバカな事って?
(あの人知ってる!)
(栄光の騎士ニトーシェ様!)
(何でここへ!? )
「酷いなニトーシェさん。月くらい僕が消せないと?…見てて下さい。」
「ヒロ?…違う君の事じゃない。」
「え!? 違うんですか?」
まだ話したげなヒロをよそに、ニトーシェはサイアミドとエルポーリンの方に歩み寄った。
「これは試験ではないのか?受験者同士の小競り合いなどサッサと止めろ!」
「すいません!」
サイアミドとエルポーリンは素直に謝った。呆然としてたなど言い訳にはならない。次にニトーシェはニールの方へ歩み寄る。
「お前!挑発するにしても相手を見てやれ。」
「え!…いや僕は。」
「さっきの衝撃は、そこの5級魔道士のパティーナより上。つまり私より遥かに上だ!」
驚愕しうな垂れたニールは、ニトーシェに深々頭を下げた。候補が現役の栄光の騎士にこう言われては、ぐうの音も出ない。
『世が表ならば裏有り。裏即ち闇なれば、闇即ち光故に生ず。天覆う…。』
「な…何を!? 」
笑顔でニトーシェに手を振りながら詠唱を続けるモンドの頭上に、光が渦巻き出す。
(ありがとうニトーシェさん。でもああいうバカは見ないと信じないんです。)
『那由他の光の上に輝く聖輝極大を纏いし大天使!その名もエル・エル・ツインミカエル…。』
光る渦の中に幾つも輝きが生まれ、それは2体の美しい大天使を成した。背には50枚程の翼が有り、白くスパークしながら羽を散らしている。
「「「ブーーーーー!?」」」
(天使!あれ天使だよね!?)
「こ、こ!? ごめん。解った!解ったから〜!」
「まさか……本当に月を!? 」
モンドに向け頭を地に打ち付けて土下座するニール。偉大な存在感の大天使に見とれ、驚愕で動けない者達。
『そは神の怒り翼に宿し、より集まりていや増す輝きを…。』
(何この芳しい香り!? )
(美しい鐘の音が…。)
圧倒的迫力で月を睨む大天使達の眼前に、スパークする翼からレーザーの様なエネルギーが集まり始める。辺りにはコーヒーの様な芳香が漂い、澄んだ鐘の音が幾つも響いている。
「ヒ、ヒロ!月にも女子供がいると思う!いいのか〜?女子供に暴力〜〜!」
ニトーシェ乾坤一擲の言葉だった!昨日街で見かけたヒロの、ジェントルな性格を見抜いたからこその…。
『輝きは煌めきと……何だって!? いかん!」
「何を!? ヒロ!ダメ!それはダメだ〜!」
ヒロは素早く宙に浮かび、大天使達の光の前に両手を広げ立ち塞がる。その時、目も眩む光が大天使達からヒロに向けて放たれた!
「うぉおおおおおおおお!?」
「ヒロ~~ーー!? 」
「ヒロっさぁああん!」
光は30秒程も続いた。皆手で目を覆って防御するがそれでも目が焼けそうに眩しい。ビリビリと空気の震え、乱れた鐘の音とヒロの絶叫が続く。
「あぁああああああああああ!」
(くっ…なんて事。)
(これじゃヒロさんは…。)
やがて何か大いなる者の立ち去る気配がし、光も鐘の音と芳香も消え、皆は恐る恐る目を開いた。
「はぁ〜〜ビックリした。」
「「「「はぁ!?」」」」
(凄い!浮いて…。)
(え…やだあの子…丸…。)
宙に浮いたヒロが目をパチパチやってる。あの大魔法を受けて、ほぼ無事だったらしい。ただまだ目がよく見えないようだ。
「ヒロ…か?いや大丈夫か?」
「えぇえ!? ヒロ…様?」
「ちょ…ヒロさん?」
女性ばかりから呼びかけられ少し嬉しい。ヒロは声のする方へ、ゆっくり宙を移動して行く。ニトーシェとパティーナとエルポーリンの声だ。
「すみません、まだ目がよく見えないのです。」
「そ、そうか。」
「ヒロ様〜!こっちこっち。」
「違うわ、こっちよ〜。」
呼んでくれる女性達を何とか視界に捉えようと、ヒロはいつになく目を眇める。
「うぉお!? 」
「ひぁ!? 」
「ゴホォ!?」
(((ちょ!? なにこのイケメン?)))
「どうしましたか!? 」
なにかあった!? そう思ってヒロが移動速度を僅かに上げると…トンと誰かに当たった感触がある。
「きゃあ!? 」
「いけない!? 失礼します! 」
声からして女性。ヒロは倒れ込む女性の頭を胸に抱き寄せ、倒れながら膝と反対の手で大地をドン!と支える。女性に覆い被さった…大地ドン!完成だ。
「大丈夫ですか!? …あぁニトーシェさんだ。この距離なら見えます…お美しい。」
「あ…あぁ!肌…あぁああ…。」
(ちち近い!…眉を顰め微笑むイケメン。腕の中で名前…。あ!?)
「ほらほら、いつまでもニトーシェ様に乗ってちゃダメだよ。」
「そうですよ!…ヨッコイ…。」
パティーナとエルポーリンが、二人を助け起こすと両側からヒロに抱きついた。
「ありがとうございます!その、とても嬉しいのですが、女性にそうくっ付かれると照れます。…どうして。」
「え、嬉しい?ふふふじゃあ良いじゃん。」
「そうですお姉さんは良いのです!それに…くっ付かないと周りに色々見えてしまいますよ?」
「え!? 色々見え?何が ……は!?」
“名状し難い者アウタースーツ”もマントも消えていた。全裸でオールバックに渋い目つきで笑うイケメン少年が、今のヒロ。大魔法の衝撃で身体が痺れてて気付かなかった。
「おっ……?ふぅ〜〜!? ……。」
「ヒロ!? 」
「ちょwヒロ様ww」
「どうしたのwヒロさんwww」
余りの羞恥プレイに気を失うヒロを、パティーナとエルポーリンは嬉しそうに支え…色々触ってる。ニトーシェは有無を言わせずマントで包んだ。またもや凄い表情の兵隊達が駆け付けて来たが、ニトーシェが大丈夫と言うとため息をついて散っていった。
「気付くまで私のウチで預かりますよ〜?いえいえ、これもギルドの仕事ですw」
頭に虫の湧いたようなエルポーリンは無視して、ニトーシェはヒロを屋敷に連れ帰る。冒険者試験は勿論、合格だった。




