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冒険者試験前半



「冒険者か。現地通過は稼げるし、情報収集にも良さそうだしな。」

『オカエリナサイ レイズバン。サクバンノ ショウジョノ ジョウキョウハ ドウデスカ?』

「お陰様で良さそうだよマザー。そういや未確認だが召喚者がいるらしい。召喚装備と言うのも有るって。」


眼下に広がる蒼い星の見慣ぬ地形を眺めながら、僕はマザーと会話する。召喚エネルギー記録がマザーに有るかも知れないし、衛星軌道上から家族をサーチさせるのも忘れてはいけない。


『ザンネンデスガ レイズバン カラノ ヨビダシガ アルマデ、キュウミンモード デ シュウイ 1キロ ノミ ケイカイ シテイマシタ。』

「それは仕方ないな。召喚エネルギーはサーチ出来る?」

『ジクウヘンイ ハ ソレニトモナウ ジュウリョク イジョウ トシテ ケンチ カノウデス。』


眼下の蒼い惑星がゆっくり動き始めた。昼のサイドに限ってマザーが地表の人物をスキャンする為だ。もし家族をキャッチ出来たら、第3百亜空間通信で僕に知らせる事になっている。


「まぁ屋外しかスキャン出来ないけどな。」

『ピピ!レイズバン モンダイデス! サイオニクスボウガイハ アリ。トウガイチイキ ノ セイサイナ コウガクスキャン フノウ デス。』


街や都市などは魔法のノイズが探知を妨げているらしい。地上活動船で出向けば周囲100km程はスキャン出来るが、それ以上を望む場合はプローブと呼ばれる端末を設置する必要が有るとマザーは言った。


「解ったよマザー。投下地点を教えてくれればプローブをセットするよ。」

『プローブ ノ ユウコウハンイハ ヤク100km デス。シュウヨウナ バショヲ エランデ シジ シマス。マズハ チュニカ デスネ!』


マザーに頷きながら考える。まだ幼いのにトニーは立派だな。マーヤちゃんにしても妹の舞と重なる。…家族探索は大事だが、彼等を見捨てる様な人間じゃ家族に会う資格は無いだろう。



「モウ イクノ デスカ? ソノマエニ アラタナ ソウビヲ オススメシマス。」

「ありがとうマザー。そうだな…。」


例によって「真実の書アカシック写本」を捲り、あらゆる世界から集めた装備を選んでいく。マザーは僕が装備した立体映像を、ホロスクリーンで僕の眼前に出す。


「あぁ…膝を曲げて体重を片足に掛けた姿勢にして。それに髪型!眉毛は完全に隠して…そう目が隠れるくらい。顔は横向きで…そう。」

『コレハ?ボウケンシャ デスヨネ。ソウナルト ナイト ハ ツカエマセン カラ。』

「そうだね。冒険者っぽいのは…7万ページ辺りかな…お!それどうかな?」

「メイジョウ シガタイ モノノカワ アウター スーツ デスネ?ジミデ メダタナイ!」


軽鎧とニトーシェさんに貰ったネックレスをしまい、身体にピッタリした地味な黒革スーツを着用した僕は考え込む。今回は装備に合わせて職業を選ばなければならない。難題だ。


「う〜ん。シーフか忍者系で…魔法も使えて…。」

「カンガエニ ツマッタラ アカシック シャホン ヲ エツラン オススメ シマス。」


それだ。確か5億ページ目辺りに…。



-----------



(おい!何だありゃ?)

(革鎧?の表面に何かシンボルが…。)

(ダメだ。見ていると形が変わっていく。)


「ふふふ。しかし冒険者見習い証の効果は絶大だな。エルポーリンさんに感謝だ。」


証明を見せると、誰何した兵隊が立ち去っていくのだった。何故停められたか兵隊に聞くと、地味な筈の黒革鎧が怪しく見えると言われた。予想外の事態にヒロは悩んだ。


(ふぅ〜っ。しかし黒はシックかつ目立たないオシャレの定番で外せない。そうだ!マントで隠せばいいんだ!)


気付く事…毎日が勉強だ。ギルド近くの路地裏に屋根の無い廃屋が有ったので、ヒロはそこで昼食を取りつつマントの色合いを考える。ついでにマザーの光学探知用プローブ(1cm)をよじ登って土壁に刺した。試験は午後13時30分頃からだ。


(ゴールド!シルバーも捨て難いな。いや同じ過ちを繰り返すな。街の人達の色合いを参考にして…。)


-----------



(おい見ろ!)

(何だあの艶やかなマントは!)


結局自分では決めかね、色はマザーと通信しアドバイスを貰った。昔TVCMで見たリンスの様なツヤツヤベージュだ。


(ジミ!ベージュ ハ ゼッタイニ ジミデ メダチマセン。)


「マザーの言う通りにして良かった。今度は兵隊さんにも停められなかったし!」


昼の交代時間に街の憲兵達はキチンと引き継ぎを行なっていた。黒髪黒目に変わった黒革鎧の少年が街に居る事も。マントに驚き寄って行っても、あぁ…となっただけだった。


「あ!ヒロさん〜!」


エルポーリンが手を振ってくれたのでモンドがそちらに行くと、14、5歳の人達が5人集まっていた。


「あは!冒険者っぽいじゃない!お姉さん好きよ、そう言うキアイ。」

「良かったぁ〜。エルポーリンさんにそう言って貰えて!」


(何だこの男…!?)

(どんだけ目立ちたいんだ!? )


他の受験者がツッコもうとしたところで、奥から40歳程の体格の良い男性が出て来た。頭はツルピカで髭を蓄えている。


「男4名女2名…これで全部だな?エルポ。」

「はい。揃っています。」

「よし。俺が武術試験官のデモイだ。皆ついて来てくれ!」


皆がデモイの後に付いて冒険者組合の裏手に回ると、石塀に囲われた小さな訓練場が在った。1方が空いていて、そこから荷馬車が地下に出入りしている。エルポーリンも一緒に来て、何か書類を持っていた。


「来た順番に渡しますからね。」


エルポーリンが皆に番号札を渡す。モンドは最後に来たので6番だった。皆が札を受け取ると、デモイが訓練所脇にある練習用武器を指し示す。


「始めよう。あそこから好きな武器を選んで、一人でづつ俺と試合してくれ。」


全身革鎧のデモイは盾と木剣を構え、歴戦の佇まいだ。余りスタイリッシュじゃない鎧。だからかな?目立たない。


「1番前に出て。」


武術試験は4名だった。順番にデモイさんと試合う。最初の二人は硬くなっていたようで動きが鈍い。数回打ち合ってデモイさんに剣を弾き落とされる。


「5番!お、栄光の騎士候補ニールだな?期待してるぞ!」

「ご存知とは光栄です。行きます!」


(栄光の騎士候補?)

(凄いな!試験官が名前知ってるって…。)


ニールは2分くらい頑張ってから剣を弾き飛ばされた。


(オォォ!)

(あいつ剣だけでも合格だろう。)


「さすがだな!直ぐに追い越されそうだ。」

「いえ。ありがとうございました。」


「次6番!お、逆手二刀流とは珍しいな。しかしそれ…木刀だが両方大剣だぞ?大丈夫か?」


(ぷぷ…あいつ大丈夫か?)

(上がっちゃったのかな。)


ブォブォブォン!と逆手二刀を振り回してヒロは言う。


「大丈夫です!」

「おぉやるな!じゃ来い!」


キンッ!開始と同時にヒロは、左でデモイの木刀を跳ね飛ばし、右を首際に停める。


「「「オォォオ!? 」」」」


「君凄いな!試験で負けたのは初めてだ!」


(イケてる装備は伊達じゃ無かったか。何か…ギルマスに通じるものがあるな。)


ここで一旦15分の休憩となった。トイレに行きたいものは今のうちにと言われる。するとニールがヒロに寄って話掛けて来た。


「君、色々凄いね。」

「色々って?」

「武術もだけど、その目立つ革鎧とかマントとかさ。」

「えぇえ!? こんな地味なやつが?」

「じ、地…味?」


ニールは驚いた顔をしている。ニールの格好は胴だけ鉄で後は白っぽい。


(ニールの方が余程目立つだろうに。これは教えてやる必要があるな。)


「いいかい?明るいのと暗いの、どっちが目立つと思う。」

「そ、そりゃ明るい方に決まってる。」

「だろう?だから君みたいな白は目立つし黒は目立たない…地味なんだよ。」

「そう言う事?か。」


ニールは何とか頷いた。


(よしよし、少し解って来たようだな。もうひと押しだ。)


「でもこの街だと黒は目立つ。そこは君の言う通りなんだ。皆んな黒を着ていないから。」

「いや、黒いからじゃ…。」

「それで人々を観察した結果、この街ではベージュが多い事が解った。だから…このベージュのマントを付け更に地味にしてみたんだ。」

「え!? 」


((えぇえええ!? ))


ニールは信じられないといった顔をした。周りでコッソリ聞いてた者達も驚いている。


(ふふふ、余程この新知識が衝撃的だったのだろう。これは…自分の無知を悟った顔だな。)


そこにエルポーリンがデモイとは別の人を連れて戻って来た。ニールは何か続けようとしたが、ギルド員が来たので口を閉じる。



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