エピローグ
あかん。前の書きかけが進まないんで、別なの書いてみます。
「誰か〜!」
「叫ぶな!どうせ誰も来ない。女、その覆いを外し顔を見せるのだ。」
昼にも拘らず暗い、のっぺりとした石が四方を覆うジメジメした場所。そんな所で、フードで顔を覆った若い女性が悪魔達に囲まれていた。
「は、離れろ!下賤の者どもよ!」
「なんだとゴルァ!」
同時に僕は、左手に抱えた「真実の書アカシック写本」から英知を吸い出す。
「さ、お嬢さんは逃げて下さい!」
「でも!」
「貴女達を戦闘に巻き込むわけには行きません!」
礼を言って後ろに下がる少女に頷きかけると、僕はゆっくりと5体の悪魔達に向き直った。
「お待たせしました。」
「お待たせじゃねえぞゴルァ!何でお前みたいなモヤシが俺達の邪魔をする?」
「嫌がる女性の腕を掴んで離さない…悪魔ですね?貴方達は!」
正体を見抜かれた悪魔達は、怒りに燃え魔力を練り始める。高位の悪魔は無詠唱でエンチャントするが、それが終われば攻撃に移るのだろう。だが…。
「ふふふ…そうはいきません!ここで僕に出会ったのが貴方達の運のつきです。」
「なにぃ!?」
「何だと!? 」
僕は今では存在しない神獣の革で装丁された書を掲げ、失われた魔術の詠唱を始める。
「おぉその神の火で鍛え上げられし美麗極まりない…。」
詠唱を聞き付けた悪魔達に動揺が走る。
(ヤベ、こいつ…。)
(只者じゃねえと思っていたら…。)
「…願わくば我が元に集い我を護りたまえ、アルティメット・シャイニング・プレート!」
「「「「こいつ!例の厨二だ!」」」」
10分程も悪魔達と戦ったろうか、遂に奴等は僕への攻撃が無効と悟り、尻尾を巻いて撤退していった。チョロい奴等よ。
「っつつつ…。今日はいつもより魔力行使の反動が強かったな。」
かつて撃退した悪魔や狼達の報復に備えながら、石造りの道を歩き僕は家へと向かう。
奴等の攻撃なぞ効くはずもない。しかし失われた魔術の行使にはペナルティが付くのだ。脚部にダメージが来たのは久し振りだった。
「これだから、アルティメット・シャイニング・プレートは迂闊に使えない。やはり簡素にスペース・ディテクティブ・スーツを着装すべきだったな…。」
「あらヒロちゃんお帰り。」
「ただいまですおばさん。しかし私の名前は…。」
隣家のおばさんに挨拶し、僕は真っ暗な我が家の中に入っていく。3年前に奪われた父母と妹を、発見し取り戻すのだ。時間が足りない!…別次元に入る準備も必要かも知れないのに。
「真・背徳のウィザードナイトって何なのかしら?ヒロちゃん…あんな事さえ無ければ。」
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その日僕は、良い気分でいつもの帰り道を歩いていた。賢者の宝物庫(博物館)に赴き、厳重な憲兵達と魔法の警備をかい潜り、珍しくこの世界に来ていたナコト写本の知識に触れる事が出来たのだ。最近では悪魔も僕を恐れ、一般人を襲っていない事もある。しかし…。
ウ〜…カン!カン!カン!
水魔術師を乗せた馬車(消防車)が何台も、魔法の警告音を鳴らし僕の家の方に走って行く。余りにも世界の裏に潜む真実に近付き過ぎたか…。
「管理者組織…まずい資料が!? …ヘルメスよ危急の時来たれり!古えの約定に基づき…。」
僕はアカシック写本を翳し、僅か30秒で速度アップの加護を得ると、風の速度で自宅を目指した。
「おのれ管理者め!僕の大切な家…。」
「夏美〜!? あぁあ夏美!夏美がぁあ!」
「おばさん!」
戻って見れば燃えているのはお隣だった。まだ幼年学校(小1)の夏美ちゃん…妹の舞の友達だ…が取り残されているという。組織め!妹ばかりか夏美ちゃんにまで手を出すとは!だが…。
「フハハハハハ!おばさん安心して下さい!黙っていましたが、僕は『獄炎を束ねる者』の称号も持っているのです!」
「ママ〜!ママァ〜〜!!」
「夏美ぃ〜〜〜!? ヒロ君何を?」
僕は家の鍵をおばさんに渡す。
「おばさん家が直るまで僕の家を使って下さい。夏美ちゃんには…舞の部屋を。」
放水している水魔術士(消防士)の横を、僕はおばさん家の玄関前まで進む。
「むぅ、凄い熱だ。7万度はある…。」
(無えよ!そんな火事無えって!)
凄い目で睨みつけながら放水する魔術師を無視し、僕は本を翳して詠唱を始める。
「いと愛しき炎よ!我が元に集い我が命に従うべし。そは地獄に在り彼は地上にあれど…。」
来た!7万度などお笑い種な地獄の炎が僕を取り巻き守る。さっさと夏美ちゃんを助けよう、舞の友達を…やらせはしない!
「きみぃ!何を!? キミ!きみぃいい!」
全く熱さを感じない。しかしペナルティの影響は深刻だ、急がないと。声がしたのは2階だな。
「熱いよぉ〜!ママ〜〜!」
「夏美ちゃん!平気かい!」
「舞ちゃんのお兄ちゃん!? 」
急いで夏美ちゃんを抱え、地獄の炎の護りを夏美ちゃんにも纏わせる。これで一安心だ、ホッとする。
「舞ちゃんのお兄ちゃん!熱く無いの!? 」
「黙っていてゴメン。実はお兄ちゃんは凄い魔法が使えるんだ。でも内緒にしてね?」
「あっちゃんのお兄ちゃんがね、厨二っていってたの!厨二って魔法使いの事?」
ッチ!あっちゃんのお兄ちゃん…ケンジだな!? 俺の事ディスりやがって!いや、今は夏美ちゃんを外に出さないと。炎は問題無いが…。
ゴォオ!
「舞ちゃんのお兄ちゃん!あれ!後ろ!」
「不味い管理者!? 夏美ちゃん!今から夏美ちゃんを下にいるお母さん達のところに逃がす!」
「お兄ちゃんは!? 」
「僕はあれを封印しなくちゃならない。真・背徳のウィザードナイトの、使命なんだ!」
緊急時ゆえ僕は無詠唱で唱えた武神憑依の術で窓を枠ごと蹴破…脆いガラスのみが割れやがった。サイレンと人声が急に聴こえてきた。
「何だ!? 窓ガラス落ちて来たぞ!」
「夏美ぃいいいい!?」
「ママァア〜〜!」
下には魔術士やおばさん以外にもご近所の人が沢山集まっていた。父さんや母さん、舞が世話になった人達を守らねばならない。
「魔術士さん!今から夏美ちゃんを投げます!受け止めて下さい!」
「解った〜!準備は出来てる、いつでも良いぞォオ!」
ぎゅっと抱きしめると夏美ちゃんは笑ってくれた。舞を思い出すが、振り切って僕は振り子の様に二度振って、夏美ちゃんを皆が広げている布地に投げる。
「「「「オォオオオ!!」」」」
「夏美!良かった!ありがとうヒロ君!」
「凄い、あの火の中を…。」
「いや今は後だ。勇気有るきみぃい!次は君の番だ!早く!」
「すみません、僕は今ここを離れるわけにはいかないんです!」
「何を馬鹿な事を!煙でも吸ったか!? 」
(ゴメン魔術士さん。構ってられないんだ。このままではこの辺一帯が!)
僕は後ろを振り返り、炎のトンネルから迫る管理者の刺客に向き直る。今は獄炎で抑えているが、このままでは押し切られる。
「北に固き玄武あり南に暖かく朱雀翔ぶ…。」
「こらぁ〜ヒロ〜!こんな時に厨二してんじゃね〜!」
チラッと後ろを振り返るとケンジがこっちに向かって手を振っている。泣きそうな顔だ。大丈夫だっての…くっ!?
『ムゴォオオオ!』
「何だ!? 炎が風を巻いたのか?」
「見ろ!何だあれは!? 」
人の背丈位ある赤い手が僕を掴もうとする。爪が尖った嫌な手で、高熱と強烈な負のエントロピーが感じられる。だが僕の詠唱の方が速い。
「…そを超えしは霊獣黄竜、又の名を麒麟!我が元に来たりて共に悪を滅ぼせ〜〜〜!」
『バェエエエエエ〜!』
「何だ!? 何か墜ちてくる!」
「ヒロの厨二が!?」
黄道から飛来した黄竜が、僕ごと管理者の刺客を元いたところに押し返していく。霊獣の加護により勿論僕は無傷だが、今度のペナルティは大きいだろうな…。
「何だ!? 火が消えた!」
「あれだけ燃えてか?有り得ないだろ!」
ケンジ「厨二スゲーーー!」
夏美「厨二シュゲ〜〜〜!」
おばさん「厨二スゲーーーー!」
ご近所「「「厨二ゴイスー〜〜〜!」」」
消防士達「「有りえね〜〜〜!!」」」
消火のプロ達もご近所も、火が消えた家を必死に探したが、ヒロは燃えカスすら見つからなかった。