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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる
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拠点の防衛機能が間違った方向に仕事する件



「仲間を増やそう」


 努めて冷静に言ったつもりだったが、それでも疲労が上回ったのか出された声は溜息を絞り出すかのようなものだった。

 星見の館の一室。長テーブルとかなりの数の椅子が並んでいるその部屋は、食堂の代わりにもなりそうだがどちらかというと小会議室と呼んだ方がしっくりくるような部屋だった。


 向かいに座るメルがテーブルに肘をつき、手を組んだその上に顎をのせてユーリをじっと見ている。

 ユーリの隣、何故か椅子一つ分の空白をあけて座っているテロスが片眉を跳ね上げた。



 王都について星見の館へ到着した直後、どこから侵入したのかもわからないやたらと禍々しいガーゴイルと一戦交えたのは記憶に新しい。ゲームであったイベントならともかく、そんなイベントなかったじゃないですかーと叫びたくなるような唐突な戦闘に慌てつつもどうにかこれを撃破。そこまでは良かったのだ。

 イレギュラーな展開はそもそも既にいくつか体験しているから、もしかしたらまたどっかでそういうのあるんだろうなーとユーリ自身、頭の片隅でその可能性を考えてはいた。いたが、まさかこんなすぐにイベント発生するだなんて思っていなかったのだ。


 あの後、テロスの案内によりさくっと食料を買ってそれ以外の場所は後で、という事で星見の館へと戻ってきたのだが。


 よりにもよってガーゴイルが復活していた。

 禍々しいガーゴイル、アゲイン☆


 まさかの展開に白目をむきたい衝動に駆られたが、そんな事してるうちに攻撃を食らうのもシャレにならないのでまたもや戦う羽目になった。一度倒した相手が強化されて復活、というのはゲームでよくあるパターンだったが、幸いな事に強化はされていないようで一度目の戦闘で効果のあった術を主軸に一度目よりは手早く倒せた……と思う。その時のあれこれで買って来た食料の一部がちょっと残念な事になったけれど。具体的に言うと卵が割れた。


 留守にしている間にまた何者かに入り込まれでもしたのかと思ったが、そういう痕跡は特になく。

 メルだけではなくユーリとテロスも一緒に侵入されてたら不味い場所のいくつかを見回った。星見の館の探索は後日で、とか思っていたが悠長な事を言っていられる状況ではなかったため、少々ぐったりしつつも見回りを終えたのだ。


 そうして食事を簡単に済ませたが、ここまで来たらもう他の用事も纏めて今日済ませてしまおう、と開き直った結果、王都の道具屋でポーションの類を購入し、他にも必要な物を追加購入して戻ってみると。

 やはりガーゴイルが復活している。


 正直疲れていたが、それよりも殺意が上回った瞬間だった。

 何で復活してんの!? と慌てふためいていた二度目の戦闘よりもスムーズに、瞬殺した。慣れとは恐ろしいものだ。


 その後ちょっとした検証の結果、どうやら星見の館を無人にすると復活するという確証を得てしまったのだ。誰か一人でも残っていれば復活する事もなかったのだが。


 全員の状況を一切考慮しなければ、留守番として残るのは幼女にしか見えないメルが妥当なのだろう。

 だがしかし、メルがいない状態でユーリが世界を救うフラグを立てるというのは土台無理な話であるし、ユーリを留守番させるわけにもいかない。メルは女神ではあるが、裏で色々と邪神と思しき存在がやらかしていたのをどうにか抑えるために力を使った事と、ユーリに会うために空間を跳んでしまった事が原因で幼女化したようなものなのだから。

 本来の力を充分に使えない女神と事情をよく知らないテロスだけで外に出すのは問題しかないだろう。


 テロスも留守番役に甘んじるつもりはないようだった。たまの休息程度ならともかく、ずっとここで館の番をするつもりはないというのは口に出すまでもなく態度に出ていた。どうしても止むを得ない状況なら多少の融通は利かせてくれると思うが、ある程度義理は果たした、とテロスが判断したらある日忽然と姿を消していてもおかしくはない。


 三度目のガーゴイル戦で倒すコツは掴んだが、だからといって毎回帰るたび戦うのも面倒すぎる。

 戦って経験値がガッポリ入る相手なら何度も復活してくれて美味しい! と言えるが、そもそもゲームと違いちゃんとした経験値とやらが入っているかも疑わしい。

 蒼碧のパラミシアにガーゴイルが敵として出る事は何度かあったはずだが、ユーリの記憶ではガーゴイルの経験値とか少量すぎて旨みはなかったと覚えている。むしろイベント戦闘だからしぶしぶ倒したものの、そうでなければ逃走で戦闘する手間を避けた方がよほど効率がいいとさえ思っている。


 ならばとそう考えるまでもなく、仲間を増やすという結果に到達するのは当然の事と言えた。


「仲間、か。いやユーリの言いたい事はわからぬでもないが」

 メルは蒼碧のパラミシアというゲームの内容を把握している。異世界と異文化交流しよっ♪ などという交流以前の一方的な垂れ流しにも等しい代物だが、ユーリがかつて住んでいた世界に流された情報媒体、という名目で調整神から知らされているのでこの世界の未来、どう足掻いてもほぼ救いがないようなこれからを把握せざるを得なかったとも言う。

 ゲームの中でマチルダは基本的にレベルを上げるのみならず、仲間との絆を上げてステータスを上げたり強力な装備やスキルを覚えたりもする。だからこそ仲間は増やせば増やす分だけいい。

 そうして増やした仲間の分だけキャラエンドを見るとトゥルーエンドの悲惨さが増すという絶望が待っているわけだが。


 しかしここにいるのはマチルダではなくユーリシアである。マチルダは主人公らしく様々なトラブルに首を突っ込んだり巻き込まれたりした結果仲間を増やしたりしたわけだが、ユーリがその状況を再現できるとは……控えめに言ってメルにはとても思えなかった。ユーリ自身もそれくらいはわかっているはずだ。


「仲間、ねぇ? それなりに信用、もしくは信頼できる相手のあてはあるの?」

 テロスの言葉は初めての王都、それに知り合いだっていないようだけど? というのが言外に滲み出ていた。王都に来たのが初めてだというユーリに知り合いがいるとは思っていないだろうし、ゴードンの知り合いがいる、とかそういう話は聞いた事もない。いたとして、頼りにできるかというのは別の話だ。

「あてがあるのか、と言われるとあると思ってるの? こっちは王都初心者だぞ? でもまぁ、こんだけ広い王都なんだし、運が良ければ利害関係が一致しそうな人と巡り合える可能性もあるよね。人もろくにいないド田舎ならいざ知らず、王都なんだし」

「王都に対する謎の信頼はどうかと思うんだけど……」


 え、ちょっと大丈夫? と言い出しそうなテロスであったが、確かに王都は広く、その分人も大勢いるわけで。条件次第では住み込みで仕事できる場所を探している人物くらいなら何人か遭遇できそうではある。条件次第、ではあるが。

 対するユーリはテロスにそう返しながらも、一応王都で仲間になるキャラ複数名を思い浮かべていた。


 無条件で仲間になってくれる、というかストーリー進行上自動的に仲間になってくれるキャラもいたが、その大半はストーリーのルートが固定化されるので避けた方がいいだろう。魔術学院に籍を置く予定もないのに学院ルートに入ってしまえば自由に身動きができるまでかなりの時間を要するし、ギルドルートを選択した事になってしまえばそれこそ各地を移動するのはそれなりにできるが次から次に舞い込んでくるクエストに、それこそ自由行動できる余裕がなくなってしまう。


 なので仲間にするのであれば、そういったストーリー進行に関係しない相手を選ぶ必要がある。

 そういったキャラも何名か王都にはいた。問題としては、今現在本当に王都にいるかどうか、という点だろうか。ゲームではマチルダが王都に来るのは15になってから。季節は春。時間軸で見ると現在はストーリー開始より季節一つ分早い。王都に住んでいるなら探せばいるだろうけれど、果たしてゲームで仲間になってくれた場所に今現在いるかどうかはわからない。


「まぁ、こればっかりは運とか巡り合わせだよね」

 もしいなかったら諦めて帰宅と同時にガーゴイル戦、これに慣れるしかない。とても嫌だが。


 流石にすぐに出かけよう、とはならなかった。ガーゴイルと一戦やらかす予定すらなかったのに、そこから更に戦う事になり、挙句出現条件を把握するために検証をして余計な戦闘をしてしまった。

 テロスだけが比較的疲労していないようではあるが、だからといって率先してあれこれ動こう、というつもりもないだろう。それぞれがそれぞれに視線を向けて――ややあってからこくり、と小さく頷き合う。


 とりあえず、明日から頑張ろう。

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