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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる
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頼りになる拠点が欠陥住宅かもしれない件



 ――床がひんやりして気持ちいい。

 永い間封鎖されていた割に汚れらしいものがないのは、単純に人の住む場所と根本的に違うからなのだろう。人が住んでいた建物であるならばいない間に埃も積もるし虫が住み着いたりもするが、そもそもここは人が住む事ができても最初からそういう物ではない。見た目に反して内部はかなり広く、空間圧縮でもされているのだろう。マジックアイテムでもあるアイテムボックスの建物版、と考えるべきだろうか。

 恐らくそれに近くはあってもそれそのものではないのだろう。正直細かい理論を説明されてもユーリには理解できる気がしないので聞くつもりもないが。


 故郷から出発して早数日。あの時はまだ秋が終わるかどうか、といったところであったが今はすっかり冬だ。今朝方ちらほらと雪が降ってきているのを見て真っ先に思ったのは、王都に無事到着して良かった――だ。昨日も一昨日も野宿だったため、もし雪が降るのがもう少し早ければ野宿もしないでぶっ続けで歩いて王都に向かっていたところだ。


 アナトレー大陸、王都ウィスタリア。

 正直故郷と比べると文明がオーバーテクノロジーすぎやしないか、と思う部分もあるがまぁ、無事に到着した。無事に! 到着した!!


 到着したところまでは問題がなかったのだが、メルの案内で星見の館へ行き鍵を使って封印を解除して。

 その際テロスがただの館ではない事に気付いたが、そこはメルの一族に伝わってるとかなんとかで誤魔化した。メルの一族というか女神の所有物ではある。大きい部分で見ればそんなに嘘ではないのでまぁいいだろう。


 メルの、つまり女神リュミエールの所有する物件、というか館同士であれば大陸をワープできちゃう巨大な魔法施設と言うべきだろうか。女神が所有し、時として信頼できる相手に鍵を授け利用を許可される、ある意味で神聖なる建造物。前回使用されたのがいつなのかはわからないが、そこから永い間封印されていたのだから、当然内部に何者かが入り込めるはずもない。

 そう、思っていたのだが。


「ねぇ、いつまで床で寝てるの?」

 テロスが呆れたように見下ろしているのが気配で感じ取れる。ように、ではなく実際に呆れているのだろう。

「疲れたのはわかるけど、そこで寝てたら余計身体バッキバキになるよ」

「うん、わかってるんだけどさ。わかってるんだけどね?」

「本当に君は昔から体力がないね。平地を延々歩くだけならそこまででもないのに」

 ほら、と正面に回り込んで差し出された手をそっと掴むと、凄まじい勢いで引っ張り起こされた。見た目はどう頑張っても力仕事とか無理です、と言わんばかりの魔術特化にしか見えないが、テロスは案外力もある。それは出会った当初に嫌と言う程理解した。


 ひんやりとした床に別れを告げて、しぶしぶユーリは近くにあった椅子に腰を下ろした。

 永い間放置されていたわりに、床はきっちり掃除を終わらせましたとばかりにぴかぴかだった。


「王都に無事についてさ、よしとりあえずまずはゆっくり休んで英気を養おう、と思った矢先になんでここで戦闘する羽目になったんだろう?」

「なんでって、そりゃ襲ってくる相手がいたからだろ」

「解せぬ」


 テロスはこの事態を特になんとも思っていないようだったが、ユーリからすればわけのわからない事だった。メルが前にこの館を使っていいよと誰かに託したとしても、その役目を終えてここを封印する時にはいなかったはずなのだ。だがしかし、そこから次に封印を解いたらいた。


 メルがうっかり設置して忘れていたのであれば、驚いたし倒すの疲れたしとは思うものの「こやつめ、ハハハ」で済ませられるものだったのだ。実際の所はメルも知らなかったわけだが。



 星見の館に入って早々禍々しい感じのガーゴイルが襲ってくるだなんて、誰が思うだろうか。

 というか、一体いつ入り込んでいたのだろうか。メルもその部分を疑問に思い、現在館の中を調べて回っている。


 ユーリがガーゴイルと戦ったのは、これが初めての事だった。そもそもガーゴイルと戦う機会は普通に生活しているだけならまずないと言ってもいい。どこかの遺跡を護るために設置されたとか、金に物言わせてお貴族様が、とかガーゴイルがいそうなのはそこら辺である。まかり間違っても「あっ、野生のガーゴイルが飛び出してきた!」とかいうのはない。まず野生のガーゴイルとは……? となってしまう。

 そもそも魔法生物として誰かが作らなければ存在しないし増えたりもしないガーゴイルが、野生でうろつくとかあり得ない話でもある。うろついているのならばそれは創造主にそう命令されて動いているだけでその時点で野生ではない。


 一体誰が、も何も思いつくのは邪神くらいだった。関係者の可能性もあるが、カテゴリ区分してしまえば一緒だろう。この世界を創った女神相手に気付かれないように干渉できる力を持つ者がいたとしても、実際こういった手出しをしてきそうなのは現時点で邪神関係者くらいしか思いつかない。


 元々の材質からして予想できてはいたが、やたら禍々しく黒いオーラすら出していたガーゴイルは、それはそれは頑丈だった。生半可な術では通用せず、かといって威力の高い術の大半は大規模なものになるので室内で使うには危険が伴う。

 やたらとメルが狙われていたのでメルは回避に専念してもらい、ユーリとテロスが地道に攻撃を繰り返した結果、どうにか倒せたからいいようなものの。


 休める、と思った矢先にこんな出来事があったので現在進行形でユーリは力尽きているわけだ。


「ところでさぁ、テロス」

「何さ」

「テロスは結局なんで私たちについてくる事にしたの?」


 野宿していたあの時に遭遇して、ユーリとメルの事情については話した。事前に決めていた設定も使いはしたが。王都へ行くのだと言ったユーリに、テロスはそれじゃあ行先は同じだし、流石に君たちだけだと不安だから、そう言って同行してきたのだ。道中で遭遇した魔物も何だかんだで率先して退治してくれていた。

 見た目はユーリとそう変わらない年齢に見えるが、テロスは実際ユーリが八つの頃から同じ姿をしている。きっとユーリが思っている以上に年上のはずだ。

 だからこそてっきり保護者感覚でついてくると言ったのだろうと思ったのだが。


 王都に着いた後もテロスは一先ず身を寄せる場所を見つけるまでは、とすぐさま別れるわけではなさそうで。気付けば星見の館にこうして一緒にいる。ユーリからすればテロスがいなければあのガーゴイルはほぼ自分一人で倒さなければならなかったので、いてくれて助かったのは確かだ。


「正直な所、ユーリシア、君さ、毎年あのえーっと、ゴードン? だっけ? あれにくっついてあちこち移動してるくせに律儀に冬になる前に故郷に戻ってたって話だけど。別れる時に来年はどこに行くとかそういう話一切してないのに行く場所行く場所かぶりすぎて毎年顔合わせてたよね。珍しく今年は会わなかったし季節的にそろそろ故郷に戻ってるんだろうなー、まぁアナトレー大陸出身とは聞いてたけどここ未開の地も多いし出会う事とかそうそうないだろうなーとも思ってたけどこれでしょ?

 ボクは勿論君をつけまわしたりしてないけど、君だってそうでしょ? でも会う時は会う、と。二度あることは三度あるっていうよね。でも三度はとっくに超えてる。

 何かここで別れてもまたどっか別の場所で狙いすましたように遭遇する可能性の方が高すぎて、だったら最初から行動を共にした方がマシなんじゃないかなって思えてね」


「それは……うん、何か否定できないわ」


 偶然が重なるにしても重なりすぎた。やだ、この人私のストーカー? などというつもりはないが、下手をすれば向こうがそう思う事だってあったわけだ。可能性としては。


「それに、メルだっけ? あの子の両親探すんでしょ? 人探しに関しては伝手と呼べるものはあまりないから役には立たないけど、さっきみたいな荒事とかならそこそこ役には立てるよ。少なくとも足手まといにはならないって言える」

「あぁ、うん。そういう意味では確かにテロスは頼りになるけど。でも、何でそこまで?」

「何でって言われても。暇つぶし」


 そこは心配だから、とかじゃないのか。そう思ったがテロスの性格を考えるとそう言われたら逆に怪しいなとしか思えないのでユーリは何も言わなかった。テロスがユーリに同行したのはあくまでも知った顔だったからであって、同じような年恰好の別の少女であったならば関わる事もなかっただろう。



「戻ったのじゃー。一応調べてきたけど異常は特になかったのでさっきのアレ以外は特に何ともないのじゃぞー」


 心なしかメルも疲れ果てた顔をしていたが、それでも他に何の異常もないという事実を確認できたためか、声は明るいものだった。


「そう。それじゃこれで少なくとも寝込みを襲われる心配はなくなったね。野宿や安い宿ならともかくこういった場所で気を抜かずにいろだなんて、とてもじゃないけどやってられないよね」


 テロスの言葉に頷いて。

「疲れてはいるんだろうけど、まずは食料買い出しに行くべきだと思うよ。後回しにするとそれだけでもう面倒でやる気なくすから」

 やっぱりテロスの言葉に頷くしかなかった。


「ほら、一応どこに何が売ってるかくらいは把握してるから案内するよ。まさかボク一人に買い物に行かせるわけにもいかないだろう?」


 ゲームで王都は序盤でお世話になる場所なのでそれこそ勝手知ったる、と言いたかったが選択肢で移動場所を選択して場面転換するだけなのでテロスが王都の案内ができる程度には場所を把握しているというのは有難い話だった。

 テロスがいない状態で、メルと二人でガーゴイル戦を終わらせた後恐らくテロスの言うように疲れたからと先に休息を優先して、結果食事とか一食抜くくらいまぁいいよね、となりかねない未来が余裕で想像できたというのもある。明日から頑張る、とか言って結果翌日になったら食事を抜いた事が原因で早々に気力もないまま行動した所で、恐らくロクな事にならなかっただろう。


 よっこいせ、と口には出さずに重い腰を上げる。

 買い物をして、戻ってきたら食事して、できればお風呂に入って、ひとまずぐっすり寝る。館内部の探索やら王都をあちこち見て回るのはそれ以降で大丈夫だろう。

 ゲームでの王都はイベントの宝庫だったが、まず原作開始とも言える時間軸より前の話だ。そう何かのイベントがホイホイ起こるはずもない。


 そんな風に考えていたのだが、まさかそれがフラグだったとはこの時のユーリには考えもつかなかったのだ。

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