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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる
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帰るお家があるって大事



 旧王都があるとされるグリシナ大森林。アナトレー大陸の中で最も広大な森とされるが一度その中へ足を踏み入れると街道沿いに出現する魔物とは比べるまでもない強力な魔物がいるという物騒な森を遠目に、ユーリはメルと街道を外れないように進んでいた。

 ゲームの中でもグリシナ大森林はダンジョンの一つとして行く事ができたが、確かに敵が強かった記憶があるため率先して行くつもりはない。どうしても必要なキーアイテムがあるとかいうならまだしも。


 あの大森林が見えたなら、王都までそう遠くはないだろう。

 故郷を出て早数日。まだ原作開始となる時間よりは大分あるが、だからといっていつまでも野宿とたまに宿場町、といった生活は遠慮したい。


 メルと共に王都へ向かう事になったのは、ある意味で当然だった。

 ゲームで仲間になったキャラは数多い。だが全員が常にパーティメンバーにいるわけではない。拠点となる場所で待機していたりするわけだが。

 本来星見の館と呼ばれるそれは、ゲームでは中盤に差し掛かろうとするあたりで利用できる施設だ。序盤で行くだけは行けても鍵がないので入れない。


 鍵の入手方法は女神の力を意図的に弱らせようとしていた魔物を退治する。ゲームにありがちなイベントだが、倒すといきなり光が出現してそこから鍵が出てくるついでに女神の声で「これを貴方に授けましょう」という流れから星見の館が利用できるようになる。

 星見の館は各地に存在し、館同士が繋がっているためゲーム終盤には移動する際はとりあえず館経由が一番楽になる。ただし一度行った場所じゃないとワープできないのでまずは各地の館とのパスを繋げないといけないわけだが。


 尚、二周目以降は前の周で行った場所と最初から繋がっているので移動が圧倒的に楽になる。現時点でユーリにその恩恵は与えられないが。


 蒼碧のパラミシアは基本的にダンジョン以外を歩き回る事はないゲームだった。街や村といった場所ではどこに行く? という選択肢の中から行ける場所を選択して次の瞬間にはその場所に着いているタイプのゲームで。ワールドマップも同じようなものだ。自由に移動できるのはダンジョンだけ。

 ある意味で楽ではあるが、各地の街並みも見たい、といったプレイヤーからすると物足りない部分もあるかもしれない。

 ユーリシアがこの世界に転生して最初に苦労したのは地理の把握だった。故郷であってもゲームの中では自宅と幼馴染の家と道具屋、村はずれの森くらいしか行先はなかったが転生して自分の足で動かなきゃならないとなると村の中のどこに何があるのかはさっぱりで。

 ゲームであれば移動はサクサクだったがこうして自分の足で歩くとなるとどこに何があるのか全くわからない事ばかりで、ただでさえ広大な世界だというのに一人で旅に出ろとか言われたら無理だなこりゃ、とユーリシアは幼い頃に匙をぶん投げそうになったくらいだ。


 魔術の教えを請うたゴードンがアグレッシブなタイプの魔術士で、春から秋の間に各大陸へ出かけては素材を集め、冬を越す間村の中で延々と薬やら何やら色々作るのがライフサイクルだったため便乗して各地に赴いた事がなければアナトレー大陸の中だけで迷子になって他の大陸? 何それ異世界かな? 状態になっていたに違いない。


 現時点ではまだ星見の館の封印を解いていない状態なのでどのみち一度は各大陸を巡らなければならないが、ゴードンと行動を共にしていた事でそこら辺もどうにかなりそうだ。

 何せこの世界、本当に広大すぎて世界全部と言わず大陸一つだけ舞台にしてもゲームが何本か作れるのでは? という感じなのだ。実際蒼碧のパラミシアを作っていたゲーム会社は同じ世界を舞台にいくつかのゲームを出していたのだから。


 メルと行動を共にする際、真っ先に決めたのは拠点の確保だった。故郷が消滅する結果にならなければ別の案が出たかもしれないが、帰る故郷がない以上、故郷のかわりとまではいかなくとも拠点は欲しい。毎回野宿か宿で生活するのもかなり厳しいものがある。

 なのでまず王都にある星見の館の封印を解く事が決定された。ゲームだと中盤入る頃じゃないと使えない? いやこれ現実ですから。律儀に中盤になるまで待ってたらそれでなくともこれからの季節冬なのだ。雪が積もらなくとも降る事だってあるのに野宿で乗り越えろとか有り得ない。かといって宿屋で過ごすにしても先立つものはいる。

 どのみちいずれは他の大陸に行かなきゃならないのに、その時の船代だって必要になる。魔物を倒して魔石やら毛皮に肉といった素材を集めて売るにしても、余計な出費は極力抑えていきたいところだ。


 星見の館が使えるようになれば、少なくとも宿代の心配は消える。そして星見の館は大体の街や村に地味にひっそりと存在している。故郷にはなかったが。各地の館を使えるようにすれば、大陸間の移動も船じゃなくなるので移動にお金かけなくていいし、時間も大幅に短縮できる。

 話し合う必要あったかな? というくらいあっさりと、むしろ予定調和でしたと断言できる勢いで決まったものだ。


 その王都までもう少し。星見の館は見た目と中身が一致しない建物で、内部は恐ろしく広いが故に仲間一人一人の個室がある。道中に点在した宿場町のベッドよりはマシな寝床もあるのは確定しているので着いたらまずはしっかりと身体を休めたいところだ。


「ところで王都に行くって事はギルドか学院にでも?」


 隣を歩いていたメルが先程からちらちらと視線を向けていたのが気になったのか、ユーリの三歩程後ろを歩いていた少年が口を開いた。ちなみに世間話程度のノリなのでどういう返答がきたとしても恐らく彼は一切気にしないだろう。


「そこはまだ考えてないかなー。何で?」

「んー? どっちに行くにしても多少の伝手があるから口利きくらいはできるかなって思ってね」

「伝手あるんだ……」

「そりゃまぁ、ね。それなりには」


 ユーリの少し後ろを歩いている少年は、ユーリがゴードンに魔術を教わる際各地を飛び回り助手のような事を務めていた時に出会った人物だった。

 名を、テロス・ヴェンデッタという。

 年の頃は今のユーリとそう変わりなく見えるが、初めて出会ったのはユーリがゴードンと共に別の大陸へ行った時――八歳だった。その頃から彼の姿は変化がないので、見た目は人間に見えるが多分何かそういう種族なんだと思っている。


 黒い髪に金色の目。髪の色はともかく目の色は、赤や金が魔族に多いとされているので一瞬それかとも思ったのだが、ゴードン曰くあれは違うらしい。耳が尖っているわけでもないのでエルフというわけでもないだろう。

 最も、この世界は広いのでメジャーな種族じゃなくても外見年齢詐欺な種族とか他にいるんだろうなぁ、でさらりと流したのでユーリはそういうものだと自己完結した。

 着ている服装が魔術学院の制服に似てはいるものの、どちらかというと儀礼的な学院の制服に比べテロスが着ているのは実用性を重視したようなもので。装飾品はサークレットくらいで杖はない。似ているとは思うが違うのは明らかで、学院関係者でもないだろうと思っていたのだがどうやら伝手はあるらしい。


 冬になる前に故郷へ戻り、そうして春を迎えて他の大陸へ行った際彼もまたあちこち移動しているらしく何度か遭遇していた。


 まさか昨夜、野宿をしている所で遭遇するとは思ってもいなかったのだが。向こうもまさかこんな場所で出会う事になるとは思っていなかったのか、こちらを見た時の表情がそれを物語っていた。知らない女児がくっついてはいたが、ユーリの事は知らない仲ではなかったため見ない振りをして通り過ぎるという事もできず、見知らぬ相手に少々警戒していたメルに対してユーリはテロスとの出会いを語り、またユーリがどうしてこんな場所にいるのかを説明する事となった。


 その結果、何故かテロスも同行する事になってしまったためにこうなっているわけだが。

 まぁ大丈夫、とばかりにメルの頭をぽんぽんと叩く。その扱いに少々不満なのか、メルはユーリを僅かに睨んで――不毛だと感じたのだろう。諦めたように視線を前へ向けた。


 メルからすればユーリ以外の人物で信用できそうなのは、同じく力を与える予定だったマチルダくらいなのだろう。きっと。あとは蒼碧のパラミシアで仲間になるキャラならばこんな態度をとる事もなかったかもしれない。……仲間全てにそうであるとも限らないが。


 テロスの存在はそもそも蒼碧のパラミシアで出てきていないので、メルが多少なりとも警戒する気持ちもわからないでもない。が、ユーリからすれば些細な事だと思っている。ゲームと同じ展開に進めば対処法もそれなりにあるだろうけれど、そもそもイレギュラーが既に起きている状況でゲームにいなかった人が同行するくらい今更すぎる。敵陣営のキャラが仲間になったとかならともかく、そうではないのだからあまり警戒しすぎるのもいかがなものかと。



 まぁしばらく一緒に行動してたら警戒する必要もないという事に気付いてくれるだろう。ユーリは気軽に考えていた。実際のところメルは警戒していたのではなく、人見知りを発動させていただけという残念な事実に気が付くのは――もう少し先の話である。

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