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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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別の話に乱入



 蒼碧のパラミシアというゲームを作り世に送り出した制作会社は、同じ世界を舞台に他のゲームも何作か出していた。メルの言い分からすると、それはちょっと方法がずれてないか? と言いたくなる異世界交流の結果だという。幾多にもある異世界の、未来や過去にあたる一部分。過去ならともかく未来を、というのはある意味原作者が異世界の未来予知をするという事なのだろうか、と思いはするが恐らくはそうではなく調整神とやらの力が加わっているのだろう。ちょっと異世界からの電波を受信した程度ならいいのだが、知らぬ間に洗脳されてるかもしれないと考えると途端にホラーな気がする。


 さて、そのいくつか出ている作品の中の一つに、藍緑エクエルドというタイトルがある。

 ストーリーの概要は七つの都市がある島にある日出現した巨大な地下ダンジョン。そこを探索する主人公と仲間たち、というとてもよくある代物だった。

 ユーリも前世でこのゲームはプレイした事がある。ただし、蒼碧のパラミシアを最新とするとこのゲームは割と初期の頃のゲームなので話の細部は覚えていないが。


 ダンジョンは固定マップ以外は入るたびに形を変えるし宝箱から得られるアイテムもランダム。アイテム図鑑を見る限りかなりの数があり、コンプリートするのは逆に非現実的とまで言われたゲームだ。そうしてダンジョン踏破率やアイテム収集率によりイベントが発生する。

 真新しいシステムがあるわけでもない、ある意味で単純なゲームだ。前世でこのゲームをプレイしていたのを見た兄が、

「何かフリーゲームにありそうなやつだな」

 と、多くのプレイヤーが思ったであろう事をずばっと言ってしまった事は覚えている。


 ゲームとしてはそういった、時間をかければ素人でも作れそう、と言われるようなものではあったが。単純が故に止められない状態が長く続いたゲームでもある。


 ユーリが今になってそのゲームの事を思い出しているのは、メルと一緒に連れ込んだ幼女が原因だった。

 ルーチェがとった部屋に駆け込んだ時と比べれば大分呼吸も落ち着いてはきたが、まだ喋るまでは回復していないのだろう。ぜぇはぁと呼吸をひたすらに繰り返し、時々思い出したように水を飲んでいる。


 淡い金色の髪に、メルの目に近い色合いの緑色。人懐っこそうな雰囲気のある、愛嬌溢れる幼女である。

 よく見ると彼女の耳は僅かではあるが尖っていた。


 とはいえ、ファンタジーによくあるエルフでない事は確かなのだが。動きやすさを重視しました、と言わんばかりの服装は、そこはかとなくルーチェの着ている物と似ているようにも思える。あからさまな女性用の服ではないが、男性が着るにはちょっと……というようなデザインのため、仮にこの子が「僕男の子だよ?」などと言っても即座に信用はされないだろう。


 藍緑エクエルドはダンジョンを探索するゲームではあったが、基本的には主人公とパートナーがメインキャラであり、他に仲間になるキャラはあくまでもサポートキャラだった。サポートキャラによって多少戦い方を変えたり、好きなキャラを連れていったりとここら辺もゲームあるあるだ。

 今目の前にいるこの幼女は、そのサポートキャラの一人だった。


 蒼碧のパラミシアでこの子出てくるとか攻略サイトの小ネタにだって書かれてなかったけどなぁ。そんな事をのんきにも考えてしまった程だ。藍緑エクエルドのキャラで蒼碧のパラミシアに出張して登場するのはどちらかというと主人公だったはずだ。隠しダンジョンの隠しボスとして。そっちは攻略サイトに情報があったので覚えている。その隠しダンジョンに挑んだ事はなかったが。


「…………?」

 そこまで頭の中で情報を纏めて、ふと思い至る。藍緑エクエルドに時間とか期間とかいうものは特になかったはずだ。ただひたすらにダンジョンに潜る。別に世界の危機だとか、そういう状況には陥っていなかったように思う。ダンジョンに潜ってアイテムをゲットしキャラを育成する。合間合間で発生するイベント。とてもよくあるゲームだ。


 半ば助けを求めるようにメルへ視線を向けるが、メルはこちらを見ても目で訴えるヘルプには気付きもしなかった。藍緑エクエルドの舞台は確実にこのメソン島だ。だからこの子がここにいても別におかしなことではない。けれど、けれども、藍緑エクエルドのストーリーが終了しているならこの子がどういう状況かはわからないが、何かからただ逃げるだけという事はしないはずだ。見た目はただ庇護される存在に見えるが内面は案外強かである事をユーリは知っている。


 そんなこの子――確か名前はミリィといったか――がこんな状況になっているというのはつまり……

(藍緑エクエルドのストーリーも同時進行って事……!?)

 こっちは世界が滅ぶかどうかの瀬戸際でひぃひぃ言ってるというのに、今現在この島の地下に巨大なダンジョンが発生してそこでアイテム発掘したりあれやこれやが起ころうとしている……?

 何だそれ今からこっちのストーリーに鞍替えしたい。ユーリは切実にそう思った。

 こっちのストーリーならただひたすらダンジョンに潜るだけでいい。世界が滅ぶかもしれないとかそういう懸念一切ないし。


 とはいえ、実際そんな事をすればダンジョンに潜っている間に世界終了のお知らせがやって来るのだろう。


「も、もうだいじょぶです」

 まだ多少息が切れているが、ミリィは背中をさすっていたメルに対してそう告げた。

「無理はするなよ。一体何があったというのじゃ、門限が間に合わなくて急いで帰る、というのとはどうも違ったようじゃし」

「それは、えっと……見知らぬ人を巻き込むわけには」


「私ユーリ、よろしくね!」

「えっ、あ、ミリィです……あっ!?」

「はいこれで一応見知らぬ人じゃなくなりましたー」


 普段のユーリならまずこんなノリで話しかけたりはしないのだが、一方的に知っているキャラだった相手という事もあり、躊躇う事なく名を名乗る。向こうも何だかんだ保護者の教育が行き届いていたためか、名乗られた以上こちらも名乗らねば、という精神が働いてしまったらしい。

 名乗ってからこちらの思惑に気付いたようだがその時点で後の祭りだ。

「妾はメルじゃな。よろしく頼むぞ」


「あー、そういう事ね、はいはい。僕はルーチェ」


 まだ名乗っていない二人がいる時点でどうにかこの場をやり過ごそうとした事にメルが気付いたかはわからないが、ルーチェは気付いていたようだ。遠慮なく逃げ道を塞ぎにかかる勇者にこの勇者えげつねぇ、と思いつつもユーリはミリィへと視線を合わせた。


「メルも言ってたけど、門限に間に合わないとかじゃないよね。どっちかっていうとロリコンとかやべー奴に追われて逃げてます、みたいな感じだったし」

「流石に妾が言うのもどうかと思うが、危険な目に遭っているかもしれない幼子を放っておくわけにもいかぬ」


 確かに見た目年齢同じくらいだろう、としか言えないメルが言うべき事でもない。実際言われたミリィも戸惑っている。


「えっと、その、みんなと、はぐれ……あ、いやそうじゃなくて。おねーさんが、でもなくて、セレンが」

 ぼろっ。そんな音が聞こえてきそうな勢いで、ミリィの目から大粒の涙が零れ落ちる。

 唐突に泣き出したミリィにメルは「あぁ、目をこするでない」と慌てたようにハンカチを差し出し、ルーチェも要領を得ない言葉にどうしたものかと困っているようだ。


 ただ、ユーリだけがその言葉で何となく把握してしまった。

 藍緑エクエルド、原作開始時間軸はまさに今なのだ、と。


 メルの様子を見る限り、世界の危機的状況にあるという意味で把握しているのは蒼碧のパラミシアであって、別段世界規模でヤバい事態に陥ったりしない藍緑エクエルドの方は履修すらしていないのでは、とユーリは考える。ならばこの件に関してメルを頼るのはあまり意味がないのでは? とも思うが流石に放置するわけにもいかないだろう。

 恐らくここでミリィとお別れしても、彼女はきっと大丈夫だ。最終的に藍緑エクエルドの主人公達と合流するし、途中から色々あって彼女も精神的に成長する。

 けれどもルーチェがここにいる状況でそれを口にするわけにもいかない。こうして連れ込んだ以上、ある程度は面倒を見ないと流石に見捨てるようで心が痛い。この先の展開的に大丈夫だから、で別れるのはメルはさておきルーチェからすれば見捨てた以外のなにものでもないだろう。


 最終的に大丈夫、だとは思っているがいかんせんユーリも藍緑エクエルドのストーリーをまともに覚えていないので手を出すにしても匙加減がわからない。転生してからかれこれもうじき十五年。前世死ぬ直前までプレイしていた蒼碧のパラミシアならまだある程度記憶に残っているが、そこから更に何年も前にプレイしたゲームの内容を逐一覚えているわけもないのだ。


「よくわかんないけど、その、セレンさん? 家族かな? 何かあった? それでおねーさんとかみんなとはぐれた? って事で合ってる?」


 とはいえ、だからといって泣いている幼女をいつまでも放置するわけにもいかない。何となく状況はわかっているが、時系列を無視したミリィの呟きに状況完全一致させた事を言うのは後々自分の首を絞めかねないと思っているので、かろうじてこの程度しかわかりませんよといった程度に留めておく。

 ハンカチで目元を覆っていたミリィの頭を優しく撫でつつ声をかけると、ミリィは小さく頷いた。


「セレン、死んじゃって、あいつら、政府って。おねーさん、渡せって」

 合間に鼻をすする音も聞こえてくるが、先程までは泣いている余裕もなかったからだろう。無理に堪えても長引くだけだと思ったので、ユーリは相づちを打ちながらミリィが落ち着くまで頭を撫でていた。


 聞けば聞く程藍緑エクエルドはっじまっるよー、どころか今から既に始まってます状態すぎてユーリの目は死ぬ一方だ。そしてできれば思い出したくなかった事実を思い出す。

 蒼碧のパラミシアではメソン島はそこそこ便利な場所でしかないが、藍緑エクエルドの舞台である七つの都市がある島は、大変闇が深かったなと。

 そんな所に観光です、なんて言ってるやつがいたらそりゃまぁ、この島の事知ってる側からすれば頭大丈夫かなってなるよな、という部分に思い至り、目だけではなく心まで死にそうになる。


 かつてこの島にもゴードンと来た事はあったけれど、その時はまだこんなヤバい場所だなんて知らされてなかったんだよなぁ。知らないって怖い。

 ミリィを撫でる手は既に彼女を落ち着かせるためではなく、自分の心を保つために動かしているといっても過言ではなかった。

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