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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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何かのフラグが立った音がした



 メソン島のマルテに到着しました。諸事情により繋ぐだけ繋いで連絡をしなかった事、お許しください。他の都市とも繋ぐ予定ですが、繋いだ時に連絡できるかどうか微妙です。行ける場所が増えてたらあぁ繋いだんだなでお察し下さい。


 走り書きにも程があるかろうじて読めない事もない文字が連なったメモをその場に残し、ユーリは急いで来た道を戻った。下手をすればこのメモは発見されないままでは? と思ったが馬車でメソン島に行くと告げて出発したのだ。そろそろ着いた頃では? という期間が過ぎたらテロスあたりが確認に来ると思いたい。そんな信頼とも望みともとれる願望を胸に、とにかく急ぐ。


 メルはあの宿屋に残してきた。一緒に行くとなるとルーチェももれなくついてくる気しかしなかったので、やむを得ずといったところだ。本当ならばテロスあたりに助けを求めたい。あの話通じてるけど通じてない勇者どうにかしてとヘルプしたい。けれど事情を説明している余裕はないし、メソン島には来たばかりという事が知られている以上、テロスを連れて戻るのは更なる面倒事の予感がする。この島にいる知り合いだったんですよ、と言い張ればいけるか? と思ったがそれなら昨日、宿に泊まる前にそう言えば済む話だったのだ。


 マルテにある星見の館については昨日ルーチェにぶつかる直前で大体の場所は把握できていたので自力で行く事ができたが、これでこの館にもガーゴイルみたいなのがいたらどうなっていた事やら。旧王都にもこのマルテにも星見の館に魔物がいるような事はなかったが、だからといって他も安全とは限らない。最初に王都の館で何度も復活するガーゴイルと戦う羽目になっているのだ。これから先他の館へ入る時も注意が必要、という考えは持っておくべきだろう。


 星見の館からルーチェたちがいる宿屋までの道はそう複雑なものでもなかったため、迷う事なく戻る事ができた。だが正直なところ、全力疾走してきたので呼吸をするだけでも既に辛い。

 急ぐ必要はないとメルも言っていたけれど、ルーチェと二人きりにするのも申し訳ない。見た目幼女のメルに強引に会話をして尋問めいた感じにはしてこないと思いたいが、それでもルーチェとの会話は何というか、会話のキャッチボールというよりドッヂボールだ。戻るのが遅くなればなるだけメルの精神的疲労が凄い事になりそうだと思うと、ゆっくり歩いていられなかった。


「ただいま……戻ったよ」

 宿屋の食堂。メルは変わらずそこにいた。メルの前にはフルーツで豪華に盛りつけられたプリンがある。

「早かったの。大丈夫か?」

 困り果てたような顔を向けるメルと、向かい側に座ってにこにこと微笑んでいるルーチェ。どうするべきか悩んだが、流石にルーチェの隣に座るのは気が引けたのでメルの隣に座る。

「ユーリ、はいあーん、じゃ」

 助かったとばかりにプリンを掬ってこちらに向ける。

「メル、流石にちょっと急いできた私今物食べると横っ腹痛いから遠慮したいかな」

「だろうなとは思うのじゃが流石に妾も先程食事を済ませたばかり。だというのにこのプリンは多すぎるのじゃ」


 多いならなんで頼んだ、と本来ならば言うのだろう。けれどもメルは中身はお子様ではない。プリンを前に困った顔をしていた時点でわかってはいたが、きっと流れるように自然な展開で奢られたのだろう。断る間もなかったに違いない。

 プリン一つで済んで良かったと思うべきだろうか?


「用は済んだのかい?」

「えぇ、おかげさまで」

「……何も、なかったのじゃな?」


 メルの言いたい事は理解できる。館に魔物が潜んでいなかったかという事だろう。

「大丈夫、問題はなかったよ。ただ、行ってすぐ戻ってきたから」

 そう言うと大体把握してくれたようだ。テロス以外の面々だとしても、マルテに着いたという話と今現在の状況を説明していたならば、こんな短時間で戻ってこれるわけがない。そしてテロスと遭遇していたのならば、短時間で戻ってきたとしてもこの場に彼がいる事だろう。


「そうか。ならばそろそろ出発せねばな」

 ずいっとほぼ手付かずのプリンをルーチェに押し付け、メルは勢いをつけて椅子から飛ぶように降りた。

「うわ、ちょっ、え、もう行くの?」

 押し付けられるとは思ってもいなかったのだろう。やや慌てたようにスプーンを受け取ってしまったルーチェが慌ただしくプリンを流し込む。のんびり食べ始めるようなら置いていってもいいかなと内心で思っていたが、この様子だとすぐに食べ終わるだろう。

 この状況で置いていく事も考えたが、何というか地の果てまで追いかけてきそうだな、と恐ろしい考えが脳裏をよぎったので面白半分に実行もできやしなかった。


「んくっ、ご馳走様。さて、それじゃ行こうか」

「……ソウデスネ」


 最後の方のいくつかの果物はカットされていたとはいえほぼ丸呑みだったという事実は、そっと目を伏せる事にした。



「ところで、観光って言ってたよね。それじゃ次に行く所はヤレアハかな?」

 宿を出て少しも行かないうちにルーチェにそう聞かれ、ユーリはほんの一瞬だけ足を止めた。すぐに歩き出したが、次の目的地など特に決めていないためどうしたものかとメルに視線を向ける。

 メソン島には七つの都市がある。中央都市を囲むようにその他の六つの都市が。そのうちの一つがこのマルテだ。マルテの隣の都市、となると今ルーチェが口にしたヤレアハか、メルクリウスになる。

 ルーチェがヤレアハだと思ったのは、メルクリウスがあまり観光に向いていないからだろう。

 ユーリ個人としてはヤレアハよりもメルクリウスに行きたいと思っているのだが。


 メルは特に何も言わなかった。どのみち最終的には全ての都市に行く予定なのだから、どっちに行こうとも変わらないとでも思っているに違いない。


 マルテから外に出る門は四つ。一つはアナトレー大陸から陸路伝いに来た場合に使われる門。隣の都市に行くための門が二つ。最後の一つは中央都市へ向かう門だ。どの門から出ても一応他の都市に行く事は可能だが遠回りになるために外へ行く前に目的地を決めておいた方がいい事だけは確かだ。


 目的地について聞いただけだというのにすぐさま返事がこなかった事に対してルーチェの表情が怪訝そうなものに変わる。

「もしかして……都市じゃなくてダンジョンとか? 流石に君たちだけでここいらのダンジョンは危険極まりないのでは? 僕がいればまぁ、それなりに大丈夫だとは言えるけど。え、ちょっと待って? もしかして自殺志願者? その年でちょっとそれは人生早まりすぎでは?」

「目的地について即答しないだけでそこまで言われるという理不尽さよ」


 ゲームだと確かにメソン島にはいくつかのダンジョンが存在してたしすぐどこかの都市に戻る事はできる距離だったしで、レベル上げにお世話になる事はそれなりにあったけれども。一周目を終わらせた後、二周目からは更に行けるダンジョンが増える事もあって、ストーリーに関係するイベントがないとはいえそれでもこの島便利な場所だったけれども。

 流石にいくらなんでもこのメンバーでダンジョンに行くつもりはさらさらなかった。せめてテロスがいるならばちょっとは考えたけれど、それでもまだ戦力的に不安が残る。

 ルーチェは平然としているが、確かに彼の実力を考えるとまぁそうだろうよとしか言いようがない。

 魔王城で戦った時のあの鬼のような強さが基本であるなら、ではあるが。


 敵の時は強かったがいざ仲間になると弱体化、なんていうのはゲームではよくある話だ。

 ルーチェは自分の実力を過信してはいないはずだが、それでも自信はあるらしい。それは自分を護衛にとごり押してきたり、ダンジョンに行くかもしれない展開が浮かんだ時の発言からもわかる。


「……あれ? そこで冷静にそう返されるとは思わなかったな。てっきり、ロクに武器も持ってないくせにとか言われると思ってたんだけど」

「いや持ってるでしょ。武器。むしろ武器持ってないのこっちだから」


 ユーリはあまり武器の扱いが得意ではない。得意でもないのに持っていても自分が余計な怪我をしかねないので魔術でどうにかする方向性で今日まで生きてきた。メルは女神だった事もあって、特に武器を使う事がなかっただろうし、現在彼女の身体は縮んでいる。そんな状態で武器を上手く使いこなせるとも思っていないので、メルも武器らしきものは持っていない。いざとなれば女神の力とか魔術とか、まぁどうにかなるだろう。


 対するルーチェは一見すると確かに武器を所持していないかのように見えるのだが。

 この世界の武器は大まかに分けて二種類ある。一つは普通に武器の形をしているもの。もう一つはリングと呼ばれるタイプの武器だ。こちらは希少な魔法金属を用いて作られた武器で、普段は指輪であったり首輪であったり腕輪であったりと、まぁ要するに言葉の通りリング状になっている。


 イベントシーンなどで普段は武器を持っているように見えないのに、戦闘になるとどこからともなく武器が出現するタイプの演出がRPGではよくあるが、蒼碧のパラミシアではそういうのは武器がリングだからという事になっていた。

 そしてルーチェは両の手首に銀色のリングがある。紛れもなくこれが魔王と戦う時に容赦なく振るわれていた双剣である。


 ちなみに通常の武器と違いリングタイプの武器は店で売っていても値段がシャレにならない程高い。武器としての性能もあるにはあるが、最終的にイベントやらで得る最強装備と比べると威力はやや落ちる。それを考えるとわざわざ買う必要あるかなぁ……? というのが大半のプレイヤーの心情だった。正直後半の所持金カンストした状態で無駄遣いしよう、とでも思わない限りは手を出しにくい値段だというのもある。


「……リングウェポンに気付いてたんだ。あれ店でも見える範囲に置いてないから知らない人のが多いくらいなんだけど。ユーリもしかして武器マニアとか?」

「違います。鍛冶師が知り合いにいたりもしません」


 ゴードンからその存在をちらっと聞いた事もあるし、あとはゲーム知識である。だがそれを懇切丁寧に語る必要性はない。


「ところで私たちメルクリウスに行くんですけど、本当についてくるんですか?」

「へ? メルクリウスに? 観光するにしてもあの都市はあまり向いてないと思うけど……行くっていうならお供するよ。勿論」

 歩きながらも目的地は既にユーリの中で決定されていた。ルーチェがヤレアハを次の目的地だろうと推測していたのは、恐らく彼もそちらに用があったからなのでは……と思ったからこその発言だったが反対方向のメルクリウスを目的地とされてもルーチェは特に反論する事もなく素直に頷く。


 てっきりではあるがやんわりとそちらに誘導されるのではないかと思っていたユーリの方こそが、逆に意表を突かれた形となる。

 ゲームだと勇者を仲間にするためのフラグが少々複雑だった記憶があるせいで、何でこの勇者こんなあっさりついてくるんだろうという疑問がうっかり表情に出る程に。

(いやまて、正式に仲間になったわけじゃない。これは一時加入……待って。待って、それってこれから先何らかのトラブル発生する流れじゃないかな?)


 何のイベントもなく勇者が一時加入するような事、果たしてあるだろうか?

 当たり前のようにゲーム脳ではあったがそんな事を考えると……何故だろうか、これから先がとても思いやられた。

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