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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる
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ノーマルエンドでお願いします



 女神と出会った日の翌日。天気は快晴。それだけが救いと言えば救いだった。


 二人がいるのはシエロヴェーラで東に位置するアナトレー大陸である。山や森が多く、未開の地といった印象の場所が多々ある。ユーリシアの住んでいた村も位置的には辺境と呼ばれる事はないはずだが、周囲を山に囲まれ更に森林が広がっているため旅人も滅多に立ち入らないような、所謂隠れ里と呼ばれるようなものだった。隠れていないのに。


 季節は秋の終わりごろ、村でも本来ならば冬支度をして春を待つはずだった。

 もっとも、その村は昨日きれいさっぱり消滅してしまったが。

 一瞬。ほんの一瞬の間にユーリシアは生まれ故郷を失った。同時に、そこで暮らしていた両親や顔なじみの人たちも。


 蒼碧のパラミシアでの主人公の故郷は本来ならば滅ぶ事はない。序盤は色々あって村に戻れないが、中盤あたりから戻れるようになる。もっとも、戻った所で特にこれと言ったイベントはないし、主人公の幼馴染ポジションであるシアや主人公の両親との会話が見られる程度である。ゲームをプレイしていたとして、シアの顔グラを見たいという人ならば足繁く戻ったりもするだろうが、仲間にならないしイベントもないしで大抵のプレイヤーは一度戻ったらそれっきりだと思われる。

 それでも、戻れる故郷という存在があるだけで安心感があった。


 ゲームでは最初から最後まで平穏だった村が、まさかの消滅。女神と色々話をしていたら、突如柱のような黒い炎が立ち上り、一瞬で村を消し炭にされた。誰が、というのはわからないが考えられる候補としてはこの世界を滅ぼそうとしている邪神かそれに連なる存在だろう、と思っている。


 ゲームでは戦えるかどうかも疑わしかったシアと同じではいけないと思い、両親を説得して村の外れに住んでいた老魔術士に教えを請うた。その彼の家があるあたりはかろうじて残っていたが、家の中には誰もおらず、それどころか室内は何があったのか床、壁、天井と夥しい量の血に塗れていた。

 住んでいたのは老魔術士――ゴードンだけで。だが彼の姿はどこにもない。むしろこの血は彼のものでは……? としか思えずに、わけもわからないままユーリシアは女神とともに村を後にした。

 自分の家があったあたりも焼け落ちて完全に炭化した柱くらいしか残っていなかったし、多分恐らく人では? と思えるものもあったがそれも黒い何かとしか形容できなかった。


 この後魔物の軍勢が押し寄せてきた、とかだと大変わかりやすいのだがそんな事はなく。一瞬で人が住める場所ではなくなってしまった故郷を出て、ユーリシアは女神とともに王都を目指す事にしたのであった。


 蒼碧のパラミシアの舞台は世界の中心に寄っている。海を渡る事もあるが基本内海側であり、これから冬を迎えて雪が降ったとしてもここいら一帯は積もる事はないだろう。積もったとしても数日で溶ける、というのがほとんどだ。ゲーム開始時の季節は主人公――名前はプレイヤーの任意でつけられるしデフォルトネームが存在しなかったため、ゲーム雑誌に載っていた仮の名前で呼ぶならばマチルダ――が15になった春だ。

 幼馴染のシアはマチルダより少し遅れて生まれたが同年代。


 それを考えると原作開始となるのにはまだ時間があるはずではあるのだが。住む場所がなくなった時点で行くあてもろくにないとくれば素直に王都へ向かうべきなのだろう。女神もそれについては否定しなかった。



「いやしっかしさぁ、前世の自分の死因がさっぱりわからなかったから、てっきり転生させるために神様が強制的にぽっくり逝かせた可能性もあるぞこれ、とか思ってたんだけど」

「唐突にえげつない話じゃの」


 女神の姿が縮んで幼女状態なので、歩幅が違う。だからこそうっかり置いていかないように、歩幅を合わせるようにユーリシアは女神と手を繋いで歩いていたが沈黙に耐え切れなくなり口を開いた結果がこれだった。


「いやほら、だってお話の中だと結構あったよ? 自分の都合のいい手駒が欲しいからってさっくり魂狩っちゃう系な神様とか。ラスボスが神様とか。別のゲームだけどいかにも幼女な姿の女神がラスボスだったとか」

「妾にそなたの死をどうこうできる程の力はないぞ。そも、異世界に干渉できるほどの力なぞありはせぬ」


「うん、じゃなきゃ普通に死因教えてくれたりなんかしないよねぇ。まさか寝てる間に隕石が落下してそれが頭に命中して死ぬだなんて。宝くじで高額当選するより低い確率なんじゃないの、これ。

 そういや隕石ってどれくらいの大きさだったの? 私はともかく他の家族は大丈夫だった?」

「そうじゃな、大きさはこどもの頭くらいだったはずじゃ。だからこそ、屋根とそなたの頭とそこから突き破って床か、被害としてはそれだけ……と妾は聞かされておる」

「いやー、そんな死に方してたらその後の一周忌だのなんだのしばらくは親戚一同にネタとして語り継がれるね。そのうちわけわかんない伝説になってそう」


「そなた、自分が死んだという話なのにそんなノリでいいのか……?」

「えー? だってもうどうしようもないじゃない。こうして転生しちゃってるんだし。そりゃ前世の記憶結構ガッツリ残ってるから思う事はそれなりにあるけど。

 前の世界に戻してあげるって言われても、この姿だと前世の自分と違いすぎて家族が気付いてくれそうにないしねぇ。もう死んじゃったけどこっちの両親の事も親って認識してるから本当の家族に会いたい、なんて言うつもりもないんだ」


 途中から顔を合わせる回数は減ってしまったが、それでもこちらでユーリシアを育ててくれた両親は、両親なりに愛情を注いでくれていた。


「どっちかっていうとさ、前世の両親にも今の両親にも親孝行らしい事、全然できてなかったなっていうのが心残りかな」


 最終的にハッピーエンドになれるゲームならば、実は生きてましたオチもありそうだが流石に望みは薄すぎる。両親は家にいたのだ。そしてその家はほぼ跡形もなく消し炭になってしまった。万が一それでも生きているならば、敵の手に落ちてこの後エグイ再会シーンが待ち受けている可能性しかない。


 ユーリシアが転生した流れは昨日の時点で聞いている。

 この世界シエロヴェーラだけではなく、他の世界も今何だか大変な事になっているらしい。創造神――というのはリュミエール達を産んだ存在だけが該当し、リュミエール達は世界神と呼ばれるらしい――は直接手を差し伸べる事はしないが、それ以外の調整神と呼ばれる神が手を貸してくれているそうだ。世界神だけでは解決できそうにない事態、というだけでも結構大変な予感しかしないのだが。


 その調整神であっても手が足りぬ程の世界が危機的状況に陥っているらしく、かくして他の世界から魂引っ張ってきて転生者たちを送り込んで何とかするよ、というのがユーリシアが転生する事になった大まかな流れである。

 その転生者が本当に役に立つかどうかはさておき。


 現に、いたらしいのだ。蒼碧のパラミシアを完全クリアした魂が。だがしかしその魂は他の世界の神に持って行かれてしまったそうだ。一体どういう振り分けをしたのか問いかけた所、一部が強引に早い者勝ちで持ってった後はカードゲームの勝敗で決めたらしい。知らない間に魂景品にされてた、と思わずユーリシアの目が軽率に死んだのは言うまでもない。


「そういや女神、転生の流れ聞いた時にある意味私で良かったって言ってたよね。あれどういう事?」


 実際の所世界が闇に沈んだエンドと仲間とのエンドしか見ていない自分で良かった、などという意味がユーリシアにはさっぱりわからなかった。ノーマルもトゥルーも見ていないどころか、そこに行き付くためのフラグすらわからない相手を転生させても、行き付く先は世界が闇に沈むだけでは? としか思えない。


「……それはな、世界を救う道筋を知っていたからとて正しく世界を救ってくれるかというととても微妙であるからして。下手をすると他の誰かとのエンディングに突っ走って世界を見捨てる可能性が高い」

「何そのメリバルート。んんん? ちょっとまって? ちゃんと世界救えるんだよね? 蒼碧のパラミシアにあるエンディングってこの世界のこれからの可能性を凝縮したとかなんとかって話だったけど、ちゃんと助かる道はあるんだよね?」


 ホラーノベルゲームのような、エンディングいっぱい、バッドエンドもいっぱい。トゥルーエンドやハッピーエンドらしき大団円で終わるエンディングもあるけどその後不穏な何かがあるまま後味悪めで終わるよ、っていう展開ではないんだよね!? という目でもって女神を見る。


「そうさな、方法はある。あるにはあるが……皆が皆幸せになれるかというと正直受け取る側次第というか。そうなるとお気に入りのキャラと恋愛して現実逃避しつつ最期の時を迎えるわ、みたいなお花畑思考にいかれる可能性が高い気がしてのう……」


 ふぅ、と溜息をつく女神に、前世でプレイした数々のゲームのエンディングを思い出す。主人公が最後に犠牲になって終わるエンディングとか、生死不明のまま終わるやつとかだと確かに何とも言えない気持ちに陥る。主人公でなくとも仲間の誰かが、というものであっても。

 そう、前世で確か兄がやってたゲームで丁度そんなのがあった。ラスボス倒して帰る途中で主人公がラスボスがいたダンジョンと通常の世界の境目の門をその身を犠牲にして固く閉じて、まさかそんな事をするとは思ってなかったヒロインが最後に残されるという――リア充回避エンド……だと!? と慄いていた兄の手からはぽろりとコントローラーが落ちていた。

 横で見ていた姉が「え、ちょっと待って? さっきまでめっちゃ和やかに会話しつつ戻ってたじゃん? ラスボス倒して戻ったらお祝いする雰囲気だったじゃん? これ分岐エンドあったっけ?」と攻略本を引っくり返してエンディングは分岐しないという事実に打ちひしがれていた事もついでに思い出す。



「女神、もしかしなくてもトゥルーエンドって大団円とは程遠い感じなの……?」


 主人公の犠牲でそれ以外の世界の人は幸せになりました、とかいうエンディングなら自己犠牲精神をろくに持ち合わせていない人物なら回避するだろうし気持ちはわかる、とユーリシアは思うしいざそうなるのならば自分もちょっと現実逃避がてら最終的に皆で仲良死しようぜ! となるだろうなと一瞬でも考えてしまったため女神に問いかける。

 しかし女神は何を言っているんだろう? とばかりに首を傾げて。


「トゥルーエンド……? ん? あぁ、妾が目指して欲しいのはノーマルエンドの方なんじゃが」

「何それどういうことなの」


 ちょっと待ってそれ聞いてない。思わず立ち止まってしまったユーリシアに、あれ言ってなかったっけ? とばかりに首を傾げたままの女神。

 そうしてそこで思い至る。

 その話をする前にそういや村がいきなり消滅したんだったっけな、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者からのコメント大変ありがたいです!意図が読めない読者ですみません。クレームのつもりではなかったのですが面白い作品なのでこれからも読みます!
[気になる点] 隕石の落下の破壊力を舐めている。子供の頭ぐらいの隕石が落下したら半径150m程度のクレーターができたうえで半径2kmは壊滅する。リアルな表現と可能性が作品を良くするので考察してから書い…
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