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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる
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さよならガーゴイル



「あーもおおおおお! だからイヤなんだってばああああああ!!」


 何度目だろうか。ガーゴイルと戦うのは。まだ数えていられる回数だとは思うが正直あまり数えたくもない。そもそもユーリの中ではガーゴイルなんて滅多に戦う相手ではないのだ。ゲームだって序盤で雑魚と戦うのであればスライムだとかゴブリンだとか、そういう相手ならまぁ仕方ないかなと思っている。だがしかし、故郷から出発して今日に至るまでの間で最も戦ったのはガーゴイルである。

 ゴードンと共に各大陸を巡っていた時の事を思い出せばまだガーゴイルなんて戦ったと言える回数でもないかもしれないが、そんな昔の事までカウントしていられないのであくまでもここ最近のカウントである。


 普通の魔物なら倒せば皮や牙、ツノ、爪、肉とそれなりに使える素材や食料を得る事ができる。運が良ければ良質な魔石も手に入る。けれどこのガーゴイル、見た目はどっかのボスです、みたいな禍々しい黒いオーラっぽいものまで出しているくせに倒したら綺麗さっぱり消滅して何一つ残さないのだ。

 そして館を無人にすると再び復活する。

 検証した際、一度だけの復活では不確かだから、というのともしかしたら復活する回数が決まっているかもしれない、という考えから連続して戦ったのだ。

 ゲームならば倒せば経験値とかお金とか、ドロップアイテムだって手に入る事だってある。しかしこのガーゴイルは何も残してはくれないのだ。残るのはただただ疲れたという疲労感だけである。


 あの後、とりあえずヤバい所に来てしまったと言わんばかりに動揺していた三人を説き伏せて、事前にメルと決めていた設定も少々使って説明した。メルが女神信仰者(ただし正式な教会に関連するわけではない)の家の子であるというのを話して、ここはメルの先祖がかつて女神から管理をするように言われた由緒あるらしい建物、という流れにもっていった。

 由緒がどうとかは別に言う必要あったか? とユーリは首を傾げたが、どうもそこかしこにある調度品などがそこそこの年代物でそれなりに値が張るらしいという事もありそう言うしかなかったのだ。


 普通の一般家庭でも高級なお宝が一つあるくらいならまだそういう事もあるよね、で済むけどどうにも一つ二つで済まないらしいのでそう言わざるを得なかったというべきか。

 ネフリティスがそういったものに妙に詳しいから適当に誤魔化すよりはそういう方向に話を持っていったほうがいいとメルも判断したのだろう。


「そなた随分と詳しいのー」

 と感心したかのようにメルが言うと、

「親が商人だったからね、少しは見る目があると思うよ」

 目を伏せてこたえる。


 とりあえずメルが貴族のご令嬢ではない、というのは理解してもらえた。ネフリティスの深淵の如き死んだ目を見て怯えもしない子どもとか肝が据わりすぎてて貴族だろうと疑われていたが、どうにかこうにかそこの誤解は解けた。

 そうして、復活するガーゴイルとやらを直接目の当たりにさせたのだ。復活させた以上は退治しないといけないわけで。

 手慣れたとはいえ面倒なので正直戦いたくはなかった。だからこそ、戦闘終了した直後にこの叫びがユーリの口から迸ったわけだが。


 ともあれ、話だけ聞くよりも直接目にしたガーゴイルという存在が大きかったのは事実だ。てっきりわけのわからない事で興味を惹いて館に引きずり込んで、その後色々と怪しい所に売り払われるとか怪し気な実験に付き合わされるとか、それ以外でも命の危険に陥りそうな展開が待っているのでは……!? と思っていた三人が話を信じてくれたのだから。


「それで、メルは確か行方がわからなくなった親を探す、んでしたっけ? それは誰か他の人を雇ったりってできないんです? ギルドとか依頼だしたりすれば情報くらいはもしかしたら、って思うんですけど」

「それができればいいんじゃがな。手がかりがなさすぎてギルドに依頼を出そうにも、ふわっとした依頼になる。そうなると漠然としすぎてて情報収集するにしても……な。人前に出る事を得意としなかったから、探すとなると辺境とかまで手を伸ばさないといけないかもしれない、そう考えると依頼料とか前金とか考えただけで頭が痛くなるのじゃ」

「うん、もしかしたらどこかの町とかでメルの両親がメル宛てに何らかのメッセージを残してる可能性もあるけど、人に頼んだらそれ見落とす可能性高いでしょ? 実はこの館もメルの両親が残したメッセージを頼りに来たんだ」


 メルに便乗してユーリもさらりと嘘をつく。けれどそうでも言わないと、メルがお留守番してればいいじゃない、で済んでしまいそうなので仕方ない。

 メルはユーリと行動を共にしたいし、テロスは長期的な留守番をするつもりがない。となれば、とりあえずここに住んでくれる人が複数名必要になる。


 そう言われて、とりあえず三人は一応納得はしたようだ。


「複数、っていうのは」

「妾たちが留守番を頼むとはいえ、こちらもあまり裕福ではない。住処を提供するが生活費全般を負担などできぬのでな」


「そうか、そうよね。住む場所が変わっても生活は今まで通りにしておけって事か。納得した。そうなると確かに一人だけだと厳しいわね。おちおち食料も調達に行けやしない」


 ふむ、と頷くネフリティスに遅れてサフィールが、そこからもう少し遅れてグラナダも理解したのか「そっかー」と呟いている。


「でも、本当にいいの? これだけ素敵な所、逆に家賃要求されたっておかしくないと思うのだけど」

「先程のガーゴイルを見たであろ? あれさえなければなぁ、と思うのじゃがどうにも原因がわからぬ。根絶できぬのなら出てこないようにするしかあるまい。こちらの事情に巻き込んでおるようなものじゃし、家賃などとは言えぬ。

 それに、見た所そちらのネフリティスだったか? とても適任な気がするのじゃ」

「それを言われると……うん、否定できないね。そう、だね。戻ろうにも小屋は壊れたし、仮設住宅には行きたくない。例えこの先ここに人が増えたとしても、部屋にこもれば静かだろうからいいんじゃないかな、って思ってる自分がいる。困ったな、断る理由が特にない。利害が一致している」


「やったー、これでもうガーゴイルとはおさらばだー」

 ユーリも思わずバンザイしつつ喜びの声を上げる。


 脳内でキャラが増えた時の効果音をならしつつも、ふと思う。

 話しかけるだけで仲間になってくれたキャラがいざ転生したこっちではすんなりとまではいかなかった事実に、仲間にするためにもっと複雑な手順が必要な相手を引き入れるとなると一体どれだけ苦労する事になるのだろうか……と。

 考えただけで軽率に目が死んだ。


 マチルダがいればきっともっと楽に事が及んだのだろうなと思ったが、無い物ねだりをいつまでもしてはいられない。ゲームをプレイしていた時に重宝していたキャラは数名いた。こちら側でも彼らが仲間になってくれれば頼りになるに違いない、と思うものの仲間になってくれない可能性も考えて気持ちに整理を付けておくべきだろう。仲間にならないだけならいい、敵に回る展開だけは来ないで欲しい……ユーリはあれもしかしてこれフラグかな!? と思いつつもそう願わずにはいられなかった。




 星見の館の広さに最初はただただ驚くしかなかったグラナダたちも、数日すればある程度は慣れたようで最初の頃の「何か知らないけどやばい所に来ちゃった……!」という空気は払拭された。

 基本はネフリティスが留守番をして、グラナダとサフィールは度々外へ出かけているようだ。それは食料の買い出しであったり、生活資金を稼ぐためであったりと色々あるようだがそれは以前の生活とそう変わらないのだろう。住む場所が変わった以外は。


 ユーリたちもここ数日の間で王都の中を見て回り、他に仲間になってくれそうな人を探してはみたがゲームの原作開始の時間軸よりも早いからか探していた相手は見つける事ができなかった。ギルドや学院に行けばもしくは、と思うがそこからルート確定しました、とばかりに事件に巻き込まれてはたまらない。明確な理由があっていくならともかく、そうでもない時にふらっと行ってゲームでありがちな気付いたら事件に巻き込まれて流されるまま旅に出ます、なんて展開は望んでいない。


 とりあえずグラナダたちが仲間になってくれただけでいいだろう、と思う事にしてユーリは一旦王都での仲間探しを断念した。


「それで、これからどうしようか」

 各自に与えられた個室。メルの自室となっているそこで、ユーリは買っておいたお菓子の箱を開けてメルに差し出す。

「どう、と言ってもな……まずは他の星見の館とのパスを繋げるべきでは? ゲームクリアをしていないそなたと妾が行動を共にするのは、ある種攻略本みたいな役割のつもりもあったが正直本当にそれでいいのかわからぬ部分が多すぎる」


 調整神とやらからこの世界の未来の可能性である蒼碧のパラミシアについてしっかりと教わったメルは、一応ゲームの内容を把握している。だからこそトゥルーエンドではなくノーマルエンドを選択できたわけだが。しかし最短ルートを選んで進んだとしても、本当にその通りになるのか現時点で不安が残るのも事実だった。


 行動を共にする相手がマチルダであったなら多少の差異はあれど、大まかな変化はないだろうと思う事ができた。だがマチルダの姿はなく、共にいるのは本来は彼女の幼馴染であったはずのユーリだ。ユーリがマチルダと同じように行動をしたとして、同じ結果になるかはわからない。そして本来ならば死んでいたはずのネフリティスの生存。メルは調整神から万が一、その可能性の中に存在しない人物が混ざったとしても問題はないと言われていた。人が紡ぐ縁、絆とやらが増えるのであればそれは同時に可能性も増えるだけの事。結果として定められていた未来よりも救いのある結末が得られるかもしれない、確かに彼はそう言ったのだ。


 同時に、救えなかった存在が救われた事でどこかで別の歪みが生じるのでは? という懸念もあったが調整神はプラスになる事はあってもマイナスになる事は滅多にない、できるならやった方がいいと推奨していたので多少の不安はあったが今回の件についてはあまり気にしない事にした。

 流石にユーリもこの世界の状況を理解しているので、うっかりゲーム感覚でネフリティスと好感度上げて彼女とのエンディング迎えてみるわ、とか言い出さないだろうし。というのが大体の本心である。


 というか、ネフリティスと行動を共にしていたグラナダとサフィールのキャラエンドを思い出すと、多分ネフリティスのエンディングも想像がつくのでユーリがある日命を投げ捨てようとか思わない限りは大丈夫なはずだ。


 差し出された菓子を受け取りつつ、メルはやるべきことを思い浮かべる。必要な道具は何一つまだ揃ってすらいない。仲間にしておくべき人物ともまだ遭遇すらしていない。だが焦った結果、フラグ建設をミスって自滅するような事は避けたい。


「やっぱまずはそれか。移動手段の短縮は必要だよね。一つの大陸から出ないで全部が終わればいいけど、そうもいかないだろうし。下手したらすぐに別の大陸に移動しないといけないような出来事もあるかもしれないし」


 ユーリも箱から菓子を一つ取り出して、口へ運ぶ。うーん、と考えるような素振りをみせて、

「まぁでもその前に、別の大陸に行くにしても資金稼ぎだよね」

「そうじゃな、空間を跳ぶ術が使えるならともかく、あれは魔力消費半端ないからの。現に妾もかなり消耗したわけじゃし……」


「異世界に転生しても結局の所お金が問題になってくるわけか。うん、世知辛いものですね」

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