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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる

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主人公補正に憧れを馳せる



「あの日、何の変哲もなかったいつも通りの日、もしかしたらあったかもしれない前兆に気付く事なく私たちは友人を亡くしたわ。

 こうなるってわかっていたら、無理にでもあの時彼女を――」



 脳内でゲームのサフィールが亡くした友人の事を語るイベントを思い出す。

 そうだ、ここでネフリティスが復活するガーゴイルに興味を示さなかったなら、壊れた屋根の一部に貫かれるか潰されるかしてたった今死んでいた所なのだ。

 今にも壊れそうなボロ小屋だとは思っていたけれど、まさか本当に壊れるだなんて……いや、ゲームでは既に崩れ落ちてたけれども。


 少し離れていた場所にいた大男が血相を変えて駆け寄ってくる。


「お、おい、大丈夫か!?」

「えぇ、問題はない。まぁ一歩間違っていたら死んでたけど」

「あんた自分の事だろう、何でそんな他人事なんだ!?」

「何でと言われてもな……今更でしょう?」


 その言葉にグラナダとサフィールの表情が一瞬だが翳る。ネフリティスはゲーム開始時点で既に死んでしまっているキャラだ。だからこそ彼女の事はグラナダとサフィールのイベントで語られる分だけしか知る事はない。だがこの二人と行動を共にしているという時点で彼女にも何らかの影とか闇とかそういうものがあるのだろう。

 というか、語られた内容では子どもの声が苦手だったとかだからこそこの小屋から離れようとしなかったとか言われていたのだ。それなのに元気一杯天真爛漫! 心に闇なんて抱えてませんよ!! なんて言われても信じられるわけがない。


「ふーん、まぁ、成り行きとはいえ選択の余地がなくなったのはお互い良かったんじゃない?」


 少し遅れてやってきたテロスが崩壊した屋根部分を見上げながら言った。その言葉に気まずそうな顔をしたのは大男だけだ。

 確かに先程までの会話を聞く限り、今はまだ説得していただけだがそのうち強制的に追い出すような事を言っていた。彼が直々に追い出すのか、それとも派遣された兵士が実行するかまでは知らないがどっちにしてもそんな事をすれば後々禍根が残るのは言うまでもない。壊れた屋根の一部は小屋の中に突き刺さっている事もあり、中に入ったとしてもマトモな生活はできないだろう。そうなると三人が行く場所は用意されている仮設住宅か、勧誘したユーリたちについていくしかない。


 実質大男の手間だけが省けただけに思うがテロスはどこをとってお互い、なんて言ったのだろうか。疑問に思うが今それを聞くべきではないとユーリは一先ずその疑問に蓋をした。


「ふむ、流石にこの状況じゃ中に入って荷物を取ってくる、なんてこともできそうにないな。まぁ、大したものはないからいいんだけれど」

 先程まで自分がそこにいたはずなのに、今はそんな事どうでもいいとばかりに小屋を一瞥するとネフリティスはユーリへ視線を向けて、それからテロスへ。少し悩んだ末にもう一度ユーリへと視線を戻した。


「こんな事になった以上、ここに居座るわけにもいかないし……まずは詳しい話を聞かせてもらえるだろうか? そのうえで交渉が決裂するようなら諦めて仮設住宅へ行くしかないでしょうし」

「いいんですか……? ネフリティス」

「貴方そういう所だけ変に思い切りがいいのはどうかと思うのだけど」


 この小屋に固執していたのは恐らくどころか確実にネフリティスだ。ゲームでのグラナダとサフィールを思い返すに、二人は彼女を一人にしてはおけないとここに残っていただけで。だからこそ、ネフリティスが乗り気であるならユーリとしても願ったり叶ったりではある。


「思い切りがいいもなにも。このままここで突っ立ってどうなる。仮設住宅を拒否して、ここから動かないまま野宿でもするつもり? それならまだ仮設住宅よりは面白そうな気配があるこの子の話を聞いてみてもいいと思っただけだ」

「あーもう、ネフリティスがいいならいいんですけど……えーと、あ、そういや名乗ってませんでしたね。わたしはグラナダ。こっちがサフィール、で、ネフリティス。そっちは?」


 グラナダがまとめて名乗った所で思い至る。そういえば、こちらはゲームで既に彼女たちの名前を知っていたし先程の会話の中でも彼女たちはそれぞれ名を呼んでいたから気にしなかったが、こちらは名乗ってすらいなかったのだと。そんな相手が勧誘してくれば、警戒されても仕方ない。ある意味で復活するガーゴイルとかいうわけのわからない言葉でうやむやにできたようなものだ。


「あー、そうだった。ごめんなさい。まず名乗るべきでした。私はユーリシア。こっちはテロス」

「詳しい話も何も、どうせなら直接その目で確認するといいよ。それで気に入らなければ仮設住宅に行くなり王都を出て他の町や村にでも行けばいい」


 一見すると戦えそうもない村娘、といった彼女たちにそう言ったテロスは彼女たちがそれなりに戦えはするという事を見抜いた上で言っているのか、それとも単なる皮肉なのか……ユーリシアには判別がつかなかったが彼女たちにとってはどちらでもよかったらしい。どこか困ったように苦笑を浮かべて、僅かばかりの警戒とともについてくる。



 ――星見の館に戻ってくると、ユーリはゲームでも見慣れていた事もあって当たり前のように受け入れていたがグラナダたちにとってはそうであるはずもなく。まさかのお屋敷に、

「え、もしかしてユーリ、貴族だったです……?」

 やっべぇ不敬とか言われて首刎ねられる、とでも言わんばかりにグラナダが小刻みに震える。

「いや、私はただの村娘だけど。ここの所有者は今お留守番してもらってるメルって子だよ」

「ちょっと大丈夫なの? 私たち本当に最低限の礼儀作法しかわからないわよ!?」

「出会い頭に攻撃仕掛けるとかじゃなきゃメルだって別に怒らないと思うよ。あ、というかメルちょっと口調が変わってるけどそこは気にしないであげて」


 そういえばメルは最初の女神口調だとやたらとお行儀のいい子ども、という感じになる挙句見た目もあって万が一邪神と繋がりのある存在と遭遇したら女神のミニチュアバージョンすぎて危険かもしれない、という懸念からあの口調に変えたわけだが、あれはあれでちょっと変わった子ども、という目で見られるわけで。

 ユーリの前世でアニメや漫画、ゲームなどで見ていた個性が殴り合いするしかないキャラクターと比べればメルなんて可愛いものではあるが、そういった娯楽があまりないこの世界だとそういうわけにもいかないだろう。

 テロスは割と普通に受け流しているようだが。彼は各地をあちこち移動している事もあり、多少風変わりな程度の小娘など取り立てて気にする程でもないのだろう。


「戻ったよー、メルー」

 玄関の扉を開けて声を上げる。メルがどこにいるかはわからないし、もしかしたら聞こえていないかもしれないが大事なのは一応声はかけたという事実だ。


「思ったより早かったの。てっきり日が暮れるくらいまでは粘るかと思っておったのじゃが」

 割と近くの部屋にいたのか、ひょっこりと姿を見せたメルに一瞬だけネフリティスの身体が強張った。

 子どもが苦手だというのは何となく把握したものの、その女神、中身は確実に誰よりも年上なんだぜ……? と言いたくなったが流石に女神だと公言するのはまずい。あと、その子この世界と同じ年齢だぜ、とか言ったら普段年齢の事は気にしていないかもしれない女神であっても不機嫌になりそうなので口を閉ざす。余計な事を言って敵を増やす必要はない。


「ちょっとめちゃくちゃ育ちの良さそうなお嬢ちゃんじゃないですか、あれどっかのご令嬢とかそういうあれなんですか? だとしたらちょっとわたしたちこの話無かったことにしたいんですけど!?」

 小声かつ早口でグラナダが言ってくるが、ユーリとしても折角仲間になってくれそうな相手である。逃がすはずもない。身を翻して撤退しかけていたグラナダの腕をがっしと掴み、

「育ちはいいかもしれないけど貴族じゃないから」

 ずるずると引きずって進む。ちょ、とかうぉわ!? とかいう声がすぐそばで聞こえるが気にしたら負けだと思う。グラナダを見捨てて自分たちだけ立ち去る、という選択肢はサフィールとネフリティスにはなかったらしく、しぶしぶではあったが彼女たちもついてきた。



 そうして連れてきたのは仲間を増やそうと決めた小会議室だった。人数に対して部屋の広さが目立つが、ここが集まるのに適しているし玄関から近い場所という事もある。

 無理矢理引きずってきた事もあったが、折角来てくれたという事もありメルがいそいそとお茶を淹れて全員に出す。お茶自体は食料を買いに行った時についでに購入したものだ。


 だがしかし三人は、いや、特にネフリティスはそのお茶を見て顔を青くしていた。グラナダとサフィールはあまりにも蒼白になるネフリティスに何事かと困惑した視線を向ける。

「さっき貴族じゃないって言ったな!? 言ったわよね!? じゃあこのカップ何なの!? これ旧王都がまだ王都だった頃に人気だったやつじゃない。アンティークすぎて今どれだけの値段がつくと思ってるの!?」

 その言葉にグラナダとサフィールも同時に固まる。出されたお茶を飲むだけならいい。うっかり落として割ったりしたら一瞬にしてどれだけの借金を抱える事になるやら……迫りくる暗黒の未来に恐怖しかない。


「うん? そうなのか? 茶器なぞ必要になった時に揃えてあとは壊れるまで放置じゃからの。壊れたらどっか適当な雑貨屋で揃えるから気にするでない。それも確か数が足りないから急遽市で適当に買った……と目録に記されておったやつじゃ」

 とってつけたような言葉ではあったが、三人はそれを気にするどころではなかったようだ。

 食器を揃えたのが女神であれ、かつてここを使っていた誰かであれ、この館は使われているよりも眠らせてある時間の方が圧倒的に長い。ちょっと使ってない間に数十年、下手をすれば数百年が経過していれば、適当に購入した生活用品のうちのいくつかが高級アンティークになっていたとしても不思議ではない。


「私たち、もしかしてとんでもない事に巻き込まれてたりしてないかしら……?」


 ぽつり、とサフィールが呟く。彼女からすれば口に出すつもりはなかったのだろう。かすかに震えた声がうっかり出てしまった事に、彼女自身驚いていた。


 高級アンティークだか何だか知らないけど、出されたお茶は冷める前に飲んでおくか、と勿体無い精神で口にしたユーリは、そんな三人を何とも言えない表情で見ていた。

 まるでうっかりヤのつく自由業の人たちのいる事務所に来ちゃったいたいけな子羊のようで、連れてきたユーリ自身もちょっとだけ心が痛んだ気がする。


 これがマチルダなら話しかけるだけでサクッと仲間になってくれたのに、やっぱり主人公補正ってやつなのかなぁ、原作で死亡してたキャラの救済とかしちゃったから逆に仲間フラグ消えたとかかも……

 明日の朝日を拝めないかもしれない、なんて感じで怯え始めた三人に対してユーリが思う事は、最終的に主人公補正って凄いんだなぁ、に尽きた。それがうっかり口から出ていたならばメルの的確なツッコミが入った事だろう。けれど、ユーリの脳内だけで展開された事なので悲しいかな、誰一人突っ込む事ができた者はいなかったのである……

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