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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
一章 チートも何もない転生者の目の前で女神様が土下座で助けを求めてくる
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一つ特徴をあげるならば、ガーゴイル



「本当なら他人が口出しするなって話なんだろうけど、貴方たちのやりとりはまぁ大体聞いて把握しました!

 そのうえであえて言わせて下さい。

 おねーさんたち、うちにこない?」


 サフィールが出てきてからもしばらくの間、大男はグラナダ相手にするよりは話が通じると考えたのか説得をしようと試みていた。しかしサフィールはその話なら先程から聞こえていました、と取り付く島もない。

 言葉が通じるくせに話が通じない、というのは中々にストレスが溜まるらしく大男はやがて投げやりに、

「文句があるならもうちゃんとした手順を踏んで執政官殿に陳情書でも出したらどうだ? どのみちここはもう少ししたら小屋を取り壊さなきゃなんねぇし、そうなったらあんたたちも強制的に追い出す事になる。その時になってからじゃ手遅れなんだぞ」

 これが最終警告だとばかりに言い捨てる。


 ここいら一帯の土地が彼女たちのものであるならばともかく、そうじゃない。この土地はあくまでウィスタリア王家の物であるし、彼女たちはそこを少しだけ借りて暮らしているに過ぎない。王家がここいら一帯を開発するというのであれば、それに反するとなると余程の事情と理由でもって嘆願するか、反逆者となる事を覚悟するか、金に物言わせてこの土地を買うか――恐らく彼女たちにはどれも無理だろう。

 ここから離れられない止むを得ない事情があるのであれば、大男が言うようにちゃんとした手順でもって陳情書を出せばいい。この国の執政官はちゃんとした手順でもって手続きをすれば身分関係なく話を聞くくらいはしてくれる。内容次第では本当に聞くだけで終わる事もあるが。


 それをしないという事は、彼女たちもわかってはいるのだろう。ここを離れたくないという事情も理由も、他の誰かが聞いたとしてもただの我侭にしか聞こえないという事を。例えどれだけ彼女たちが深刻な理由を抱えていたとしても、相手を納得させるまでには至らないという事を。


 そしてユーリは今更のように思い出してしまったのだ。彼女たちがゲームで仲間になった時の事を。

 そして好感度を上げて起きたイベントで語られた、友人だったという女性の事を。

 思い出して、そして口走ったのがこれである。横にいるテロスの視線が何というか可哀想な物を見る目でとても心が痛い。口に出してしまってからユーリも勧誘とか営業には向いてないなと自覚したので精神的な追撃は遠慮願いたいところだ。最もそれを口に出していないためテロスには確実に通じていないので、視線は冷ややかなままだったが。


 実際大男と徹底抗戦の構えも辞さない、とばかりだったグラナダとサフィールは唐突にやって来た第三者であるユーリに「この子何言ってるんだろう……?」とばかりに困惑した表情を向けていた。

 救いだったのはまだユーリが彼女たちと近い年齢だった事と、隣にいたテロスも似たような感じだった事。ついでに見た目から腕っぷしが強そうに見えなかったという所だろうか。要するに第一印象で警戒されるような部分があまりなかった。

 大男に関しては何だかまたちっこいのが増えたなぁ、とうんざりしている。


「あのね、お嬢ちゃん。私たち今それなりに大事なお話の途中なの。貴方の遊びに付き合ってる暇はないのよ」

「大事な話も何もさっきから無限ループしだしてるじゃないですか。それを聞いた上で割り込んでるんですこっちは。悪い話じゃないと思うの。聞くだけでもとりあえず聞いてみない?」


 目が全く笑っていない笑顔をサフィールに向けられて、内心で「ヒェッ」と叫びたかったがうっかりそんな悲鳴が口から出た日にはさっさとあしらわれて終わるのが目に見えている。

(わ、私は知っている。サフィールはおとなしそうだけどそれは表面上だけで内面は結構えげつないって事を!)

 思い出すのは彼女とのキャラエンドを見ようとして好感度を上げた先で起こったイベント。一つ目は友人の話だったが二つ目のイベントはそれは恐ろしいものだった。人間誰しも大切な相手とそうじゃない相手とでは態度が違う事もあるわけだが、二つ目のイベントはまさしくそれだった。

 キャラエンドもバッドエンドの括りなんだー、なんでだろー。と最初の頃は思っていたが、サフィールのキャラエンドを見て「あぁ、これは確かにバッドエンド」と納得してしまったのだ。

 その後他にもキャラエンドとは……? というような相手が出てきたのでちょっと記憶から薄れていたが。


 グラナダは胡散臭い物を見るような目で、大男はこの際こいつらがここから出てってくれるんならもうどうでもいいや、と投げやりになっているのがありありとわかる顔でこちらを見ているが、サフィールだけは違っていた。一切目が笑っていないが一応は笑顔なのだ。目が笑っていないが。表向きはユーリたちに対して一番友好的に見えそうな感じなのはサフィールだった。実際は真逆すぎて空気を読む能力とか一切なかったらこの事実に気付かないままなんだろうなぁとすら思うが。


「少なくとも、仮設住宅のある所よりは静かだよ」


 一番重要な事を告げる。あれこれ言葉を重ねるよりも最も必要な部分を最初に言ってしまうべきだろう。そうでなければ話を聞く価値もないと判断されてしまいかねないのだから。


「静か……ねぇ? それは、この場所よりもかしら?」

「今ここでぎゃんぎゃん言い合ってるのを聞くよりは静かだと思うよ」

「そうじゃなくて、普段のこの辺りと比べて、よ」

「王都に来て間もないからそこは何とも言えないけど。でも、人が集まる場所は大体決まってるし、騒々しいのが嫌なら部屋にこもれば静かなものだよ、ね?」


 最後の「ね?」はテロスに向けられていた。

「確かに部屋の中は静かだったかな。おかげで夜はよく眠れた」


「そこ、小さな子どもはいるのかしら?」

「所有者がそうだけど、きゃっきゃはしゃぐタイプじゃないよ。うるささで言うならさっきそっちの赤いおねーさんが騒いでた方がよっぽど」

「ぅえ、わたしですか? って、そんな普段から騒がしいわけじゃねーんですけど」

「ふぅん?」


 サフィールの視線はグラナダに対して懐疑的だ。多分、普段からそれなりに騒がしいんだろうなぁ、とその部分だけでわかってしまう。


「こっちにもそこそこの事情があって、ただの親切で言ってるってわけじゃないんですよね。で、どうでしょう? 多分お互いの利害がそこそこ一致すると思うんで、話だけでも聞いてもらえませんか?」


「どーするですか、サフィール。少なくとも純粋に困ってる人を助けたくて、とか言い出さないだけわたしは話だけなら聞いてもいいかなって思うんですけど」

 グラナダがサフィールにそっと耳打ちをしているが、筒抜けだった。

 話を聞いてもいい、という雰囲気になりつつはあるが、そこでふと大男の存在を思い出す。彼としてはここから立ち退いてくれれば事情だの理由だのは気にする事もないのだろうが、流石に個人的な話になりそうだしそこはあまり聞かれたいと思わない。

 どうしようかな、とテロスに視線を向けると彼は凄まじいエアリーディング機能を発揮してくれて大男にちょっといくつか質問があるんだけど、とさりげなく話を振りつつこの場から遠ざけてくれた。普段からこれくらい空気読んでくれると大助かりなんだけどなぁ、と本人が聞いたら笑顔で腹パンの一つでもかましてきそうな事を思いつつもユーリはこちらの話がギリギリ聞こえなくなるであろう距離まで行った二人からサフィールへと視線を戻す。


「細かい事情は省くけど、どうしても無人にできない建物がありまして。でも私たち他にも色々やらないといけない事があって留守番できないからぶっちゃけると無人にならない程度の留守番要員が欲しいんです」


「無人にできない、って誰か訪れたりするから? それなら正直この話は」

「いえ、ちょっとガーゴイルが復活するので」


 なかったことに、と言い出しかけていた口からワンテンポ遅れて「えぇ……?」と音が漏れる。

「ガーゴイル、ですか?」

「やたら禍々しい感じのガーゴイルです」

「ガーゴイルに普通も異常もあったものじゃないと思うんだけど、ちょっとまって、どういう事かしら?」

「倒しても皆出かけて無人になっちゃうとまた復活するんです。検証に検証を重ねた結果それは確かなんだけど、誰か一人でもいれば復活はしないんです。もう帰ってくるなりガーゴイル戦するのうんざりなんです」


「それ、呪われてねーです? 大丈夫なんですかそこ……」

「それ以外では至って快適なんですよ。お風呂も大きいのと小さいのと分かれてるし。部屋数もあるから個室でのんびりできるし。ただ、無人になるとガーゴイルが復活するんです。唯一のデメリットなんですガーゴイルが復活するの」


 そう、星見の館は基本的に仲間が集まる拠点でもあるわけで。仲間の部屋は勿論、それ以外の生活スペース、果ては館の中で仲間内で商売まで始めたりミニゲーム的なものもあったくらいだ。ストーリー後半になるとわざわざ他の街に行く必要がないくらい、必要な物が大体揃ってしまう。

 ゲームの中ではそうだったけど実際は……というオチもあるかと思いきや、ガーゴイルが復活した際にあちこち見回ったあたりから判断すると下手をすればゲームの中の星見の館よりも広いかもしれない。

 だからこそ、本当にガーゴイルさえ復活しなければ、そしてある程度仲間が増えればあの館はかなり便利な施設になるだろう。

 仲間がどれくらい増えるのかは今の所さっぱりわからないが。下手をすればグラナダ達しかいない可能性だってある。


 ガーゴイルが復活、というのを何度も言われたせいかグラナダとサフィールが困ったように視線を合わせる。それは先程までの関わりを拒絶しようとしていたのとは違い、単純な困惑だった。

「何かそこまで言われたら怖いもの見たさで一回くらいお目にかかってみたくなるんですが」

「見学オッケーですよ。それで駄目なら仕方ない」

「ま、まぁ、実物を見もしないうちからそこに住む、なんて言えないものねぇ……それにしたって……」


 グラナダは割と乗り気になっているようだが、サフィールは未だ難色を示している。何かを言おうとして、言葉が出てこないのか開きかけた口を閉じる。彷徨わせていた視線が小屋へと向けられる。


「いいじゃない、面白そうね。いいわ、見るだけ見てみましょう」

 その声は小屋の中から聞こえてきた。ユーリ自身、ゲームのイベントを思い返した時点で薄々中にいるんだろうなとは思っていたが、その予想は当たっていたようだ。


 ぎぃ、と軋んだ音を立ててドアが開く。先程サフィールが出て来た時はそんな音がしなかったので、恐らくコツがあるのか意図的にそうしているかのどちらかだ。中から出てきたのはサフィールと同年代くらいの少女だった。若草が芽吹いた時のような色合いの髪と目の色。着ている服もそれに近い色で纏められている。普段外に出ないからか、肌の色だけが病的なまでに白い。

 憂い顔で佇んでいれば深窓の令嬢かと思われそうな風貌ではあったが、それよりもインパクトがあったのは。


 まるで深淵を覗き込んだかのような淀みすら感じさせる、どう足掻いても死んでいるとしか表現しようがない目であった。髪とほぼ同じ色なはずなのに、違う色に見えてくるレベルで目が死んでいた。


「お、おぅ、よりにもよってネフリティスも乗り気です……いやこれはいい事なんですかね?」

「そうね、前向きに考えたらきっといい事なはずよ。恐らく」

「何だ、外に出るのがそんなに珍しいか? 復活するガーゴイルに釣られただけだ。あれだけ連呼されたら気になるでしょうどうしても」


 ゲームで名前だけは聞いた覚えがするな、なんて思いつつユーリはじっとネフリティスと呼ばれた少女を見る。割と軽率に目が死ぬユーリですらこれはないと思えるレベルの目の死にっぷりに意識が向いてしまって気付くのが遅れたが、何かが千切れるような音がしたのはほぼ同時だったと思う。


 ごぅん……!!


 音が響いたと思った直後には、更にずんという音もした。見ると今にも崩壊しそうと思っていたボロ小屋の屋根が崩れ、ただの丸太と化したそれらがバラバラになって落下していた。運よく怪我人はいないようだったが、屋根だった丸太の一つは垂直に小屋に突き刺さっている。


「おや、これは……一歩間違ってたら死んでたか? もしかして」


 一歩間違えていれば当事者になっていたはずの少女の声は、どこまでも他人事だった。

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