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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
序章 何の前触れもなく転生
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とてもよくある異世界転生



 この部屋の主でもある彼女は、黙々と手にしているコントローラーのボタンを押していた。彼女の視線の先では戦闘中ですとばかりにキャラが動いている。BGMもアップテンポなリズムでキャラの繰り出す攻撃音とボイスも相まって中々に騒々しく聞こえてくる。

 戦闘自体は即座に終了し、今度は荘厳とも言える音楽が流れる。

 イベントが発動したのか、画面の中のキャラはプレイヤーの手を離れ移動し、会話を始める。


 このイベント自体は既に見た。だがしかし、直後に前の時にはなかった選択肢が現れたので迷う事なくそれを選ぶ。そうして始まる戦闘。

 先程の戦闘の時とはまた違うBGMに彼女は少しばかり考えながらもコマンドを選択していく。

 だがしかし――



「……ですよねー」


 戦闘はあっさりと終了した。こちら側の敗北でもって。

 画面は暗く、黒く。そこにじわじわと白い文字が浮かび上がる。


 そして世界は闇に沈んだ。


 前回と同じエンディングだった。黒くなってしまった画面には、うっすらと自分の顔も映っていた。やだ目が死んでる。またバッドエンドだよちくせう。

 前と違う選択肢出てきたからちょっと期待するじゃん? 即裏切られるとかフラグ回収早すぎるよ。


 クリアデータにセーブ中、という文字が画面に一瞬だけ表示されて記録が終わったのか画面は暗転。何事もなかったかのようにゲームの製作会社のロゴが浮かび、オープニング画面へと移行する。

 先程のバッドエンドなんてありませんでしたよ? とばかりに鮮やかな大自然の中を駆ける少年少女たち。そこから次々色んなキャラが一瞬だけ出てきてはくるくると移り変わる。

 その画面と合わせるように流れているオープニングテーマがやっぱりさっきのバッドエンドなんて嘘ですよ、とばかりにポップな感じすぎて彼女は余計に自分の目が死んでいくのを自覚した。


 目は死んでるけど心はちょっぴり洗われた、ような。

 彼女はゲームのBGMもオープニングの歌も嫌いじゃなかった。むしろ好きだ。何なら既にサントラは購入済みだ。まだ聞いていないが。

 ゲームクリアする前にエンディングテーマとか先に聞くのはちょっと……でもそこだけ聞かないで他の部分だけ聞くのもちょっと……サントラを購入しておきながら未開封なのはそんな理由である。


「やっぱ攻略サイトに頼るか……?」


 ぽそり、と呟いて彼女はすぐ近くに置いてあったスマホへと手を伸ばす。


「いやでもまだ選んでない選択肢あったから何ならそこら辺やってから……」

 伸ばされた手はスマホ直前で止まっている。

 このゲームが発売されてから既に一年が経過している。だがしかし諸々の事情があって彼女がプレイしたのはつい最近だった。予約までして発売日当日に買ったのに!

 ネタバレもあまり気にしない彼女ではあったが、それでもやはりまだ大した情報もない状態のまま楽しみたい、という気持ちといっそサクサク進めてハッピーエンドが見たいという気持ちが絶妙な具合でせめぎ合っている。うーうー唸りながらも彼女はスマホを手にして――


「…………うわ、もうこんな時間。寝なきゃ」


 スマホに表示されていた時刻を目にして一気に現実に引き戻された。一瞬見間違いである可能性も考えたが何度見ても変わらない、どころか一分が経過した。


 表示されている時刻は02:43――完全なる真夜中である。


「……とりあえず、オープニングだけさらっと見てセーブしてから寝よ」

 自分に言い聞かせるように口に出してボタンを押す。一度見たイベントはほぼスキップできるけれど、彼女は改めてオープニングイベントを見ていた。初回プレイ時は気付かなかった伏線とかあるんじゃなかろうか、という思いとちょっとした現実逃避。



 真っ白な空間に浮かぶ一人の女性。世界を創った女神であるそのキャラクターは厳かに告げる。


「世界が、闇に沈もうとしています」


 このシーンは女神が主人公へ一方的に語り掛けるシーンで、それが終わると先程も流れていたオープニングムービーとテーマソングが流れる。

 歌はさっき聞いたしなぁ、という事でボタンを押してスキップ。


 画面が暗転して中央にイベントをスキップしますか? という文字が表示される。

 いいえを選ぶとセピア色になった世界地図が浮かび上がり、ぐるりと見回すように視点が移動し各地をさらりと見せた後、物語の舞台が始まる小さな村がアップになる。

 主人公が暮らす、小さな村だ。


 その後に起こるイベントは主人公が旅立つ事になる流れと、チュートリアルを含んでいるので正直結構な時間がかかるため、そこはサクッとスキップした。ここでようやくセーブもできて自由に動けるようになる。

 先程自分に言い聞かせた通りセーブして、彼女はゲームの電源を切ってコントローラーを所定の場所に置いた。モニターの電源も切ってスマホをスタンドへ、そうして速やかにベッドへと潜り込む。


 明日――既に今日だが――は休日なのでアラームをセットする必要はない。ふあぁ、と大きなあくびを一つして、最後にリモコンで部屋の電気を消して彼女は眠りについた。







 暗い、暗い真っ暗な空間の中に白い何かが浮かび上がる。

 周囲は静かだった。全くの無音というわけではなかったが、時折聞こえるごぽり、という水の音は耳障りというわけでもない。気にならないなら騒音というわけでもない。静か、という事にしておく。

 目を凝らしたつもりだが、浮かび上がっている白い何かがよく見えない。距離があるのか、それとも別の原因かわからないが目を細めたりしてみたがやはりよくわからなかった。


 一度目をこすってみようと思ったけれど、何故か手は動かなかった。動かした感覚はあったが目元に手はない。それどころか目を瞬いても、白い何か以外は何も見えなかった。感覚はあるものの自分の姿を認識できない。


 これが現実なら一体どんな状況なんだとパニックに陥ってそうだが、これ夢かな? とどこか冷静に判断できてしまったので夢ならまぁ、そういう事もあるよねで納得した。

 白い何かがよくわからなかったので、他に何かないかと周囲を見回す。何というか全体的に暗い。先程聞こえた水音以外にも常に流れているような音も聞こえたが近くに川でもあるのだろうか……?

 空も見えない真っ暗な中、近くに川。夢だとしてもあまりいい感じはしないが今いるこの場所に嫌な感じはしなかった。

 結局白い何か以外に見えるものはない。あれも別に嫌な気配とかしないし意思の疎通ができないものかと呼びかけようとしたが、口を開こうとした途端何故か止めておいた方がいい気がして閉ざしたままだ。


 このまま何の進展もないんだろうか、と思っているうちに白い何かが徐々にこちらに近づいてきた。もしかして近づいてきたと気付くより前からじわじわと寄ってきていたんだろうかと考えるとほんのりホラーだよなぁ、なんて思いつつ見ていると、白い何かが人影であるという事に気付く。


 ……というか、人の姿があるにはあるけど、発光していた。夢だとしてこれは一体どういう状況で……? と誰かに問いたい気持ちで一杯だが生憎この場には他に誰かがいるような気配はない。

 光を纏った誰かがこちらへと近づいて、向かい合う形で動きを止めた。そうして輝いていた光は少しだけ輝きを落とし、ようやくこちらからもその姿を確認する事ができた。


「世界が、闇に沈もうとしています」


 それはとても見覚えのある姿だった。具体的に言うなら寝る直前に見ていたキャラだった。

 世界を創りたもうた女神。


 違うとすれば、あのシーンでは周囲は真っ白な空間だった。ここはあの空間と比べると真逆と言っていい。

 それでも女神は淡々と語る。セリフはゲームで聞いたものと変わらない、はずだった。


「神は決して全知全能ではありません。万能でもありません。だからこそ、とるべき手段を見落としている可能性もあります。ですが、最早私を含め他の神々もやるべき対策はやりきったのです。

 それでも尚、世界は闇に沈もうとしているのです」


 この言葉はゲームでは言われていないセリフだった。ゲームでは世界を創りし女神は全能であり万能と謳われ、それ故に女神を疎んだ何者かに隙を突かれて力を奪われたか封じられたかして自ら動く事ができなくなった……んだったかな? 場合によっては味方に裏切り者がいたとかそういう可能性もあったかもしれない。

 全能で万能ならそもそも回避できたのでは? とも思ったがそれを言ってしまっては話が進まないというやつだろう。

 けれど目の前の女神は言う。神は全能でも万能でもないのだと。なら敵と思しき存在に色々やられて防ぐ事ができなかったとしても仕方がない。


 そこからまた、ゲームで聞いたセリフが続く。どうか手を貸して欲しい、と。


 ゲームでの主人公はこれを完全に夢だと思っていたし、まさか夢に女神が出てくるとか思ってもいなかったしで女神の語りに対して何の反応も返せなかった。目が覚めて第一声は「何か凄い壮大な夢見た」である。


 主人公視点での夢か、そうか。あっさりと納得して、女神を見る。全体的に寒色系統なので冷たい印象を抱く女神ではあるが、それはあくまでも印象だけだ。ゲームに登場する回数こそ少ないが、女神関連のイベントを見る限り慈愛に満ちた女神であるという事は窺えた。

 だからこそ、手を貸して欲しい、という言葉に頷いたのだ。声を出そうとしても上手く出る気がしなかったし、自分の姿が認識できないが感覚はあったので頷いたというのは女神にこちらが見えているなら伝わっているはずだ。


 女神にはこちらがきちんと認識できていたのだろう。頷いたのを見て、僅かではあるが口元に笑みが浮かぶ。ゲーム内で見た事のないその表情に思わず目をかっ開いて凝視する。美人の微笑みとか目の保養ですご馳走様です! なんて思いが女神に伝わっていたならドン引きされそうだが幸いそんな事にはならなかった。


「ありがとう。貴方が手を貸してくれるという事、心から感謝します。私たちの事情のせいですぐに貴方に直接会いに行く事はできないけれど、次に会う事ができたならその時はもっとちゃんとした話をしたいと思います。

 ですから、ですからどうか……どうか無事に」


 微笑んではいるのだけれどどこか困ったように女神の眉が寄せられる。浮かべられた微苦笑と、次に告げられた言葉にようやく自分がどういう状況なのかを把握した。


 言葉が終わると同時、女神の姿が消える。



 どうか無事に産まれてきて下さい。



 主人公視点での夢かと思いきやまさかの胎児。主人公だって15になる前夜とかだったというのにまさかの胎児。そりゃあ声を出そうとしても出るわけないし、身体動かそうとしたって動くわけないよなぁ。理解はした。納得はしていないが。

 周囲が暗いのはつまり胎内だからだというのも把握はした。


 一体全体どんな状況なんだよと言いたいが、言えたとしても答えてくれる者はいない。


 起きてこの内容覚えてたら姉さんや兄さんに話せるいいネタになりそう。この時はそんな事を考えていた。

 実際無事に産まれ落ちて、夢だけど! 夢じゃなかった!! という事実に彼女が盛大に産声を上げる羽目になるまであと少し――

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