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チーターの壁をぶち壊せ!

()()()()()()()()()()()()()!」

「「は?」」


二人の困惑した声が耳に入ってくるとともに、辺りが静まり返った。

雪は音もなく降り積もる。


「俺のチートが発動していないということは、勇次郎さんよりも近いところにいる人間がチートを今なお発動しているということだ!」


原田さんが困惑した顔で目を開ける。

俺は実際の今の位置を悟られないように、原田さんに近づこうとする。

原田さんは俺を止めることを忘れているらしい。


「この周りにあなたたち二人以外はいない。つまり、あなただ! 原田さん。あなたが何らかのチートを使っている!」

「わ、私......? な、なにバカなこと言ってるの!? そんなことある訳ないじゃん!」


信じられないという顔をしていた。

俺はその間にも頭を働かせ続ける。

一体どういえばこのハッタリを通しきることが出来るのか。


「例えばさ......君が悲しい時、雨や雪が降っていなかったかい?」

「な、何の、話?」

「笑っている時は晴れてなかったか? ちょうどこんな風に、怒っている時は雪が降っていなかったか?」


彼女が考えている。もちろんそんなことはないだろう。

だがすべてが全てでないにしろ思い当たる節ぐらいはあるはずである。


「言われればそんな気もしなくはない......けど、」

「ならそれが原田さんのチートだよ。『気分によって近くの天候が変わるチート』だ」

「何......それ」


原田さんが絶句する。

状況が飲み込めていないみたいだ。それはそうだ。俺だって「貴方のダメチートは実は違う能力だった!」と言われたら状況が飲み込めないだろう。

それが自分はチートを持っていない人間だと思っていたら尚更である。


「私が、能力者?」


その時、前方でミシリという音がする。

その音を聞いて、俺は焦りを感じた。


「原田さん! 危ない!」

「私が......?」


雪が降り積もった木の枝が折れかかっている。

あのままだと大事になりかねない!

俺は雪に足を取られながらも走ろうとする。中々距離が縮まらない。


「原田さん! そこは危ないから避けるんだ!」

「......え?」


駄目だ。

全く話が頭の中に入っていないみたいだ。

木の枝が急かすようにミシリと鳴り、少しずつ傾いていく。

あともう少しの距離がこれほどまでに遠いだなんて思わなかった。それにあの短時間でそこらじゅうの雪がひざ下の高さまで積もるだなんて誰が予想できただろうか。


こうなったら仕方ない。

俺は木の枝が限界までしなるのを見て思いきり飛び跳ねた。

だが俺の体は雪の影響で少ししか跳び上がらなかった挙句、雪に足を取られ、つまづいて原田さんに倒れかかるような姿勢になってしまった。

そのまま彼女の体を押し倒す。


「きゃっ!」

「ぶべっ!」


彼女が小さく悲鳴を上げるのと、俺が雪の塊を背中に受けて轢かれたカエルの呻き声のような声を上げるのはほぼ同時だった。


「何!? なにがどうなって......」


俺は重い雪を背に受けてズキズキとする痛みを、なんとも言い表せない顔で体現していた。

枝はピンピンしている。ただ降り積もった雪を落とすためにしなっただけらしい。改めて大自然の強さを感じた。


「だ、大丈夫ですか!」

「平気。平気だよ」


嘘である。

かなり痛い。新年に神社で厄除けが出来なかった分の厄除けがこの一発で出来たんじゃないかと思うぐらい痛い。今脱いだら背中が真っ赤だろう。

だがこんなに格好つけてしまったんだ。今更後には引けない。それにこの状況、雪の冷たさや痛みが無ければ顔を真っ赤にして恥ずかしがっているところだ。

そんなに親しくもない女の子を押し倒しているという状況だ。


その時、自分の周りに光が差した。

何事かと思い、上を見るとあれだけ雪続きだった空に晴れ間が指しているのであった。

光を反射して、原田さんの眼が光り輝いていた。

俺もその顔を見てにこりと微笑みかける。

何だかこの状況も馬鹿馬鹿しい。


「ほら。晴れたでしょ。俺の言ったとおりだ」

「そう、かな」


原田さんが笑った。

こんな笑顔はお兄さんに見せるものと大差ないのではなかろうか。

そんなことを思いながら笑っていると唐突に尻に痛みが来た。衝撃で体が宙で一回転して雪の上でのたうち回る。


「痛ったぁ!!」

「うちの妹に触れるんじゃない。ゴミが」

「何するの! お兄!」


侮蔑するような目線を向けられる。

妹をかばってあげたという行いが無下にされて良い物なのかどうか、早急に問いただしたい。

だが、優しく妹の手を取って起き上がらせるその姿はまさしく兄のそれであった。

俺が勇次郎さんよりも遠くにいたなら、きっと妹を助けていたのはこの人に違いないであろうという確信めいたものがあった。

俺は尻に着いた雪と蹴られた跡を払い落とす。

そうこうしている間に始業のチャイムが鳴った。

そんなに長い間こんなことをしていただろうか、と考えながら、三人で教室に走る。


「こんなことじゃ生徒会長失格だな」

「元ですけどね」

「今は生徒会長じゃないから別に許されるよ」


三人で笑いながら全力でひた走る。


雪は既に降っていなかった。

これにて冬編改め雪女編終了です!

と、言いたいところですが、もう一話後日談を追加して終了です。

すっかり投稿した気でいました。最後の確認ボタンが押せていなかったみたいですね。

まぁ、一日ぐらいずれても......バレへんか。

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