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一般人とチーターには明確な壁がある

 その日は一段と吹雪が強い日だった。

 天気予報は日本列島すべてが晴れになっていたにも関わらず、三浜柳市だけ雪が降っていた。

 冬型の気圧配置とは何だったのか、地理の教師にぜひとも問いただしてみたい。そんな天気である。


「今日も小日向さんには会わないか」


 そんなことを独り言でつぶやく。

 そもそもこれまで校門前で鉢合わせになっていたことがレアケースだったのだ。

 そうは納得していても思わずため息をついてしまう。

 雪は嫌いではないが、こうも長く降り続くと特別感も消え失せてしまう。


 選挙立候補者たちが肩に雪を降り積もらせながら、演説を行っている。

 こんな時間に生徒もそんなに登校してこないだろうにご苦労な事である。良い事は言っているのだろうが耳に入ってくることは無い。

 聞きなれてしまったそれを聞き流しながら学校に入る。


「だからそうじゃないんだってば!!」

「ちーちゃん、落ち着いて」


 下駄箱に靴を入れようとした瞬間に怒声が昇降口に響き渡る。

 俺が何事かと周りを見渡すと、そこには原田兄妹が言い争っていた。どちらかと言えば原田さんを勇次郎さんが諫めているようでもあった。

 原田さんが俺に気づく。


「佐々木......君?」


 瞳が小刻みに揺れている。

 あまりこういう所は他人が見て良い物ではない。

 原田さんは急いで下駄箱から靴を取り出し、吹雪の中に駆け出していく。

 勇次郎さんが追いかけたがギリギリ間に合わない。俺は唖然としてしまって、そこから動くことが出来なかった。

 原田さんと肩がぶつかる。原田さんはそれを気にもせず外に走って行ってしまった。


「追いかけよう」

「......はい」


 自分も行って良いのだろうか少し迷った。

 だが迷っている暇はない。それに連れ戻すだけなら深入りせずに済む。

 この吹雪の中、外に出るのは不味い。早く連れ戻さなければ風邪を引いてしまうかもしれない。人手は多い方が良い。

 そう自分に言い聞かせて、下駄箱に入れかけた靴を取り出し走り出した。


 外に出ると一層冷え込んだ空気が服と体の間に入り込んで体を凍えさせる。

 勇次郎さんも駆け出していた。原田さんはもうどこかに行ってしまっていた。


「手分けして探しましょうか」

「多分それだと妹は帰ってこないだろうな」


 自分はどういうことだと聞き返そうかと思ったが、察したように勇次郎さんが事の経緯を話し始めた。


「妹が能力を持っていないことに不満を持っていることは知っているだろう? 妹が昨日、その話を家で持ち出してな。俺とお前は違うという事を伝えようと思ったのだが、言い方が悪かったらしく、ひどく妹の心を傷つけてしまったのだ。」

「はぁ」


 原田さんは引っ込み思案だが自分の意見をしっかり持っている。

 だから意見を交わしあうのが一番手っ取り早いのだが、それがしにくいというのが一番の問題点だ。

 本来なら時間をかけるのが一番妥当な方法なのだが、それが出来ないのが今の状況だ。

 なぜここまで人の心理を理解しているのに、コミュニケーション能力が欠けているのか俺には分からない。おそらく勇気が足りないのだ。


 そんなことを話しながら走っていると遠ざかる原田さんが前方に見えた。


「原田さん!」


 原田さんが振り返ってこちらをまじまじと見る。

 とても驚いている様子だった。やはり俺はお呼びではないのだろうか。

 少しずつ近づこうとする。


「来ないで!」


 原田さんは目を瞑ったままそう言う。

 隣で勇次郎さんがチッと舌打ちをした。


「俺の催眠能力は目を合わせていないと使えない。もとより使う気はなかったが、警戒しているらしい」

「信用されていないんですね」

「状況が状況だからな。流石、俺の妹と言ったところか」


 勇次郎さんが冷や汗を垂らしながら自虐的にそう言った。


「無理矢理取り押さえる訳にもいかない。何せ、ここで嫌われるのは絶対に避けなければならないからな。さてどうしたものか」

「俺が話してきます」


 事情を良く分かっていない人間の方が何も考えずに出来ることもある。

 この状態で勇次郎さんが説得しても応じることは無いだろう。


「原田さん。教室に戻ろう。話はそれからだ」

「......嫌」

「どうして?」


 原田さんは目を瞑ったままおどおどとしている。

 俺は気づかれないように少しづつ近づく。

 踏みつけた雪がみしりと音を立てた。


「来ないでッ!」


 ビクリと体が震える。

 俺はもどかしい気持ちに身を焦がれながらも、彼女が話し出すのを待っていた。


「私だって......お兄の気持ちぐらい分かってあげたいよ。でもお兄だって私の気持ち分かんないもん。それは私が......能力持ってないからでしょ?」

「そんなこと」

「あるよ! 普通の人とは違うじゃん! 私だって欲しいよ!」


 そんなこと言ったって、という否定の言葉を無理矢理飲み込む。

 無いものは無いし、有るものは有る。

 それは仕方ないことだ。俺にはどうしようもない。

 彼女の言い分も分かる。話の食い違いや考え方の違いだってあるだろう。

 皆違って皆良いという言葉が童謡に唱われるように、一人一人が違う考えを持っているからこの世に多様性が生まれるのだ。

 だが彼女からしてみれば、自分の意見は能力を持たない人の一般論で、俺たちの意見は能力を持っている人の一般論なのだ。

『あちら側』と『こちら側』で分けられるのである。

 当然自分の知りたい人が『あちら側』なら、自分も『あちら側』に行きたいだろう。


「こうなったら発動するしかないか。無理矢理にでも目を開けさせる」


 勇次郎さんが準備に入る。

 俺はその言葉を聞いてゾッとした。

 それしか方法が無くなったらそれに頼ってしまう。自分たちは所詮『チーター』なのだと言われた気がした。


 悪寒がした。

 自分のダメチートが発動した感じだった。

 勇次郎さんがザクザクと雪を踏みしめながら近づいてくる。


「催眠をかければ事後の記憶は消すことが出来る。それさえしてしまえば、全部全部元通りだ。」


 そんなことをさせてはいけない。

 やめてという原田さんの声が小さく聞こえる。


 考えろ。

 考えろ、佐々木。

 どうにかしてこの場を切り抜ける方法を考えるんだ。

 回せ。頭を回せ!


「待って!」


 俺がそう叫んだ時、辺りがしんと静まり帰った。

 俺は頭に浮かんだ1つの考えにその身を委ねることにした。


()()()()()()()()()()()()()!」

「「は?」」

白熱して参りました!

ダメチーターはどんなことを思いついたのか。皆さんも想像してみて下さい!(とはいえ半分答えは出ているのですが)

ダメチーターだから為せることがある!

冬編クライマックスです!

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