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チートは個性の一部かもしれない

 その日から会長の宣言通り、選挙活動が始まった。

 そこかしこで選挙活動をする人の姿が見られるようになり、自分が思っていた以上の人数が積極的に立候補している。

 自分が思っていたよりも生徒会長と言うのは人気らしい。普通の生徒会選挙はそんなにやりたがる人も居ないイメージだったのに。

 生徒会長だけではなくここでは副会長やら、書記やら、会計の席も争うらしい。この学校は人数が多いのだけは特徴だが、まさかここまで熾烈な争いが繰り広げられることになろうとは思ってもみなかった。

 今日も雪が冷たい。


「清き一票をよろしくぅ、ぁお願いいたしまぁぁす!!」

「うるさい」


 耳元で鼓膜をぶち破りそうな声を上げる図体のデカい男。

 そんなので選挙で一票がもらえると思っているのだろうか。もらえるのは騒音被害の悪評ぐらいのものである。


「お願いします」

「失礼――」

「お願いします!」


 チラシを押し付けられた。いらないと言っているのに押し付けるなんて、そんなことをしてくるのは宗教勧誘かNHKの押し売りぐらいのものである。

 一回断ったのであれば諦めるのが普通であろう。だが俺は優しいので、自分に向けられた好意は受け取っておく主義者だ。一度目の勧誘は誰でもいいから受け取ってもらおうと差し出されたものだが、二度目は断ったにも関わらずまだ受け取ってもらおうとしている執念深さが感じられる。

 それを受け取らないのは失礼に値すると思っている。


「あら、佐々木君。おはよう」

「おはよう、新浜さん」


 すかさず差し出されたチラシを有無を言わさず受け取らされる。まるで山吹色のお菓子を無言で受け取れと言われているようなものである。賄賂で無いだけマシと言えばマシである。


「清き一票よろしくね」

「知り合いがそう言うと、冗談じゃなくなってしまうんじゃないか?」

「選挙ってそういうものだと思うわよ? とにかくよろしくね?」


 まぁ、誰に投票するかと問われるとやはり彼女に投票すると思うのだが。


 学校の中に入っても選挙ムード一色である。下駄箱を抜けた当たりに見覚えのある人物が立っていた。

 元生徒会長だ。俺がにらみつけると何食わぬ顔で挨拶してきた。

 俺は元生徒会長に確認しておきたい事があったので小さい声で話しかける。


「催眠のチートは使っていないだろうな」

「......あぁ。」


 応えるまでに若干の間があった。


「使っただろう!」

「......これは俺の能力だ。会話が上手い人間、人から愛される人間、それぞれ色々な能力を持っている。俺が俺の持つ能力を使って何が悪い。」

「良いわけがあるか!?」


 俺にはその言葉が開き直りの様に見えた。そんなことをして生徒会長になったところで正当公平もクソもあるか!

 もっと選挙とはこう......公正な物でなければいけないと思うのだ。人から信頼されて、この人なら生徒会長になっても大丈夫そうだと思える人に投票しなければいけない。それを催眠能力で無理矢理させるなんて以ての他だと思うのだ。


「もっと正当な方法で自分を認めてもらう努力は出来ないのか!」


 俺の声は次第に荒げていた。周りを通る生徒が振り返る。生徒会長はそんな生徒たちに笑顔で対応する。そんな姿は生徒会長にふさわしくも思えた。

 実を言うと、彼の開き直りような言葉を聞いて、それもそうだと思ったのもまた事実だった。

 俺はチートを特別扱いする人間ばかりだと思っていた。自分は特別な人間なんだと自分で思い込んでいる人間ばかりだった。それを一つの個性としてとらえるというのはある意味革新的な発想だった。


 俺はチートを持っている人間の事をチーターと呼んでいた。

 それはある意味、チーターと普通の人間を区別していたということになる。区別して当然だと思っていたのだ。

 まさか自分たちが祭りごとに攻めて来るアイツらと同じ側の人間だったなんて......


「別に努力をしていないわけではない。そもそもそういう思いが無ければ生徒会長なんてやってない。」

「それも......そうだな。」


 言いくるめられているというよりは自分を客観視したという方が正しかった。


「お兄と......佐々木さん?」

「ちーちゃん。おはよう。」

「ちー?」


 俺は頭を働かせる。そして少しの間があってピンときた。

 原田さんの本名は原田千歳さんだ。だからちーちゃん。なるほど。


「もう! 人前でその呼び方はやめてって言ったでしょ!」

「お前だってお兄と呼んでいるじゃないか」

「むぅ」


 自分と話している時とはずいぶんと雰囲気が違う。

 彼女は引っ込み思案なだけでちゃんと心を開ける人にはこうやって話せるのだろう。そう思うと何だか悲しい気持ちになった。何だかこの頃悲しい気持ちになってばっかりだ。


「それで、佐々木さんと何を話していたの?」

「ああ、俺の能力の事でちょっとな」

「!?」


 俺はそのことをさらりと言ってのけた元生徒会長に驚愕の視線を向けた。その視線を向けられた本人は眉間に皺を寄せている。


「原田さん! 知っていたんですか!?」

「佐々木さん......知ってたんですね」

「そうか......」


 まさか知らないと思っていた人がそのことを知っているとは......何だか拍子抜けした気分だ。

 確かに俺だって家族に自分の能力の事を話していないわけではない。でもそれは自分の能力が後ろめたさのない能力だったからだ。

 催眠能力なんて悪用し放題ではないか。どれだけでも出来るだろう。よくもまあ自分の妹にそんなことを話せたものである。


「ってことは、あの......佐々木君も特別なの?」

「ああ。俺の能力は大したことは無いんだけどな。」


 確か彼女がお兄は特別だからと言う風に言っていたのを思い出す。もしかしたらこれはチーターだからということを言っていたのかもしれない。

 まさかそんなことが背景にあったとは......

 最早言い返す気力も残っていない。


「何が大したことない能力、だ。お前も同じような催眠系能力者だろうが」

「......そうか話していなかったな。俺はダメチーター。完全劣化コピー能力者だ」

「......は?」


 そんなことを言われても一瞬で理解できる方が異常である。


「俺はどんな能力もコピーしてしまう。範囲内に居れば自動的にコピーされてしまうんだ。それにコピー出来るのは完全な劣化版。使い勝手の悪い能力だ。だから俺は自分の事をダメチーターと名乗っている」


 元生徒会長は何かを考え込んでいるようだった。

 そう言えばここに来るまでにチートが発動していない。もしかして今日はまだチートを使っていないのかもしれない。


「......いいなぁ」

「ん?」

「あ、いや! なんでもない!......です」


 木原さんは少し悲しそうな顔をしていた。俺のチートが羨ましい? そんなわけはないだろう。

 ならなぜそんなことを言ったのか、俺には理解できなかった。


 木原さんが無言で階段を上っていくのを見て、俺も早く教室で荷物を下ろしてしまいたいと思ったのだった。

木原さん......何か複雑な思いがあるようですね。

今回は心理描写がかなり多めだったように思います。この作品の特徴だから仕方ないね。

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