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カオスは暴論さえも黙らせる

「なんか勢いで着いてきちゃったけど、大丈夫なんでしょうか......」

「もうここまで来ちゃったからなぁ......」


小日向さんと二人で俺の家の前に立ち尽くす。

思えば小日向さんは一人でここに来ようとしていたみたいだが、なぜ自分の家の場所を知っていたのだろう。小日向さんはうちに来たことはなかったはずである。


「あー! 小日向さん! あけましておめでとう!」

「由香ちゃん。あけましておめでとうございます」


そう言って恭しく深くお辞儀をする。

そういえば夏祭りの時に小日向さんと由香は打ち解けていたような気がする。こんなに仲が良かったか?

まさか。


「おい、由香。もしかして俺が居ない時に小日向さん呼んだりしてないよな?」

「なんでおにーちゃんに一々断りを入れなきゃいけないんですかー! 小日向さんはおにーちゃんの彼女か何かですか!?」

「違いますよ」

「そこは小日向さんが否定するんだ......」


驚いた。まさか俺が招く前に俺の妹という点でしか繋がりがない我が妹が小日向さんにアプローチを仕掛けているとは。流石、我が妹である。図太い。


「そんなことより今は傑さんが大変なのー! おにーちゃん、何とかして!!」

「何とかしてって言われてもなぁ。俺に出来ることはあの時にやり終えたと思うんだが」

「そんなことないでしょ! このままじゃ家が潰れちゃうよ!」

「は!?」


それを言われて一瞬頭の中が停止した。なんだか正月ボケなのか何だか知らないが、この頃頭の中の思考が停止することがよくある。頭の中で違う考えが脳の半分を支配しているのだ。


「もしかして律さんが暴れているのか!?」

「流石に人の家の中で暴れたりはしていないけれど、外の庭で暴れてるんだよ! あれ、おにーちゃんも使えるあのチートとかいうやつ! あれで戦ってるの!」

「あぁ、そうか」


そう言えばいつの間にか自分にも肉体強化のチートがかかっていた。いつもならすぐに気づくはずなのにこんな時になっても気づけていないのはこの頃では初めてだ。


「佐々木君! 何してるんですか! 早く行きましょう!」

「お、おう」


反応がワンテンポ遅れてしまう。

そう。俺はこの時にようやく気が付いたのである。

やる気のスイッチが入らなくなっている。硬いのだ。ものすごく硬い。押しているのに全く反応しないと言っても良い。

俺はゆっくりと立ち止まり、なぜこうなっているのか理由を探る。


「どうしたんですか? 佐々木君」

「おにーちゃん! あーあ......こうなったら動かないよ」

「そうですね。私もよく知ってます。とりあえず待ちましょうか」

「え? 待つの?」

「はい。そうですけど...... あ、由香ちゃんは先に行ってくれてもいいですよ」


俺の頭の中の半分を占めているもの。それは小説に対する熱い思いだった。

いつ何時でもその考えが頭に浮かんできて離れない。別に小説が悪いのではない。俺のハマり方が尋常ではないのだ。そんなことは分かっている。

自分は人よりも物事に一辺倒になりすぎる。スイッチを入れれば考えが全てそちらの方向に切り替わってしまうのだ。つまり自分のスイッチは入り続けたままになっていたのだった。


「スイッチ......オンとオフ。もう一つ......」


オンとオフ以外にもう一つ、それ用のスイッチを作れないだろうか。

それが出来たら俺には何も苦労はない。それが出来ないから一辺倒なのだ。どうにもならない。どうにも出来ないから未だに自分でダメチーターを名乗ることしか出来ない。


「一度オフにする」


硬いスイッチを押すと自分の頭の中から色々な考え事が消えていく。一度ゼロに頭の中を戻す。


「オン」


今度はちゃんとスイッチが入った。頭の中に少しずつランプがともっていくような、そんな感じだ。

少しずつ考えたいことに注力する。何をどうしたらこの状態を打開できるのか。打開方法を一つずつシュミレートして、一番成功率が高い方法を選ぶ。


「終わりましたか」

「待っていてくれたんですね。どれくらい経ちました?」

「5分もかかっていないと思いますよ」

「ならよかった」


俺は顔をゆっくりと上げる。なんだか少し頭の中がすっきりとしたような気がする。何かを始めようとするたびにこの作業をしなければいけなくなるのかと思うと......先が思いやられる。


「では行きましょうか」


--------------------


「これはまた凄いことに」

「想定の範囲内だがこれは酷いな」


庭があらされている。というかこれは姉弟ゲンカの枠を超えている。ここまで人の家を荒らすバカが居るか?

庭が穴ぼこだらけになっていてところどころクレーターのようなものが出来ている。庭に花などを植えてはいなかったが、それでも酷い。芝の手入れぐらいはしていたんだぞ。


「律さん。傑。止まりなさい」

「アァ!? また帰って来やがったのかァ!?」

「トシ!」


律さんは正気を失っているのだろうか。怒りに身を任せているのだろうか。

この状況で一番正しい手段はまずこちらの意見を聞いてもらえる状況を整える事だ。俺は庭先でオロオロとしている雨姫に声をかける。


「チートの発動の準備をしてくれ。10秒後に解除だ」

「......分かった」


雨姫の能力の中には普通の人間は入ることが出来ない。だが、俺の能力なら入ることが出来る。

俺はその場にあったクレーターの中に入り込む。


「律さん。少し話をしませんか?」

「うるさい! 黙――」

「傑! 俺ごと生き埋めにしろ!」


向かって来た律さんだけをクレーターの中に残し、俺は白い部屋の中に来た。今頃はクレーターから出た土をもとに戻して律さんを中に埋めている事だろう。だがこんなことで拘束できるとは思っていない。

白い部屋を出ると、そこでは破裂するような音を立てて土くれが宙を舞っていた。


「貴様らァ!!」


生き埋めは少々強引な方法ではあるが相手を足止めするという意味ではかなり有効な手段と言える。土をどかしたところで落とし穴の状態から抜け出せるわけではない。肉体強化の機動力もなくなる。

だが決め手に欠けるのは確かだ。


「貴方が暴力に訴えかけるなら僕らもそれ相応の対応をさせてもらいます。」

「アァ!?」

「小日向さん!」

「はいっ!」


パァンと軽快な音が鳴り響く。吹き飛ぶ石や怒号を飛ばす律さんが静止した。


「正直女の子にここまでのことをするのは気が引けるんだがな」

「佐々木君ってレディファーストでしたっけ?」

「そんなんじゃなくても気が引けるだろ、普通」


人に生き埋めという単語を使うのも嫌だが、それ以上にチートを使って殴り合いに発展するというのが馬鹿げている。痛みと言う感覚がマヒすると、これをやっても相手はどうとも思わないだろうと思ってしまう。

だからチートは嫌なのだ。


「じゃあ少し準備をしましょう。二人を驚かせる準備です」


--------------------


「これで大丈夫かな」

「これで治るんですかね」

「いわゆるショック療法みたいな奴です。上手くいかなかったら諦めて傑のコレクションは処分しましょう」


小日向さんの時止めが終わる。

場には咆哮が鳴り響いた。


「オォォォ!!......なんじゃこりゃぁ!?」

「まぁ座ってください」


律さんは戸惑いながらも用意された座布団の上に座る。傑も目の前に置かれた座布団を凝視している。

俺達の目の前には異様な光景が広がっていた。荒らされた芝生の上に五人で座布団をしいて座っているのである。クレーターは俺達の手で元に戻し、何事もなかったかのように繕う。


「新年、明けましておめでとうございます。」

「お、おめでとう。」


律さんと向かい合って会釈する。案の定、律さんにはこの場の状況が飲み込めていないみたいだ。


「それでは本題に入りましょう。傑君がコレクションを隠していた件です」


律さんは座布団から勢いよく立ち上がろうとする。それをまぁまぁと小日向さんと二人でなだめる。


「傑、ごめんなさいして。」

「え?」

「早く!」

「ご、ごめんなさい!!」


傑が深々と律さんに向かってお辞儀をする。律さんの頭にますます困惑が広がっていく。


「傑もこう言っている事ですし、今回はどうかご勘弁を願えませんか?」

「いや、そういう訳にはだな」

「もともと貴女がこういうものを理解していないのは分かっています。ですが傑君はこれらのものから実害を受けているということはありません。僕が保証します」

「お前は昔、中二病だっただろうが。騙されんぞ」


その言葉を受けて俺の体がびくりと反応する。痛いところを突かれた。


「なら私が保証します。傑君は良い人です。勉強は出来るし、あの佐々木君にも優しいし、運動も出来るし、クラスの人で傑君にケチをつけられる人はいません!」

「俺、流れ弾受けてない?」


その言葉を聞いて、律さんが初めて小日向さんの存在を認識する。


「君、誰だ?」

「小日向時雨です。傑君にはいつもお世話になっております。」

「いえいえ、うちの弟がどうも......」


最早こうなってしまえばカオスである。雰囲気に流されすぎだ。二人ともで深々とお辞儀をしている。


「そうか、傑......お前も大人になったんだな......」

「......?」


これはマズイ。何事もなかったかのように律さんが帰ろうとしている。このままだと荷物の件は無罪放免で終わるが、色々な誤解が生じてしまう。

小日向さんがまさかここまでノリがいいとは思わなかった。計算外だ。当の小日向さんは顔を赤くしている。このままでは傑と小日向さんの間に在らぬ関係の誤解を残してしまうことになりかねない。


「ちょっと待ってください」

「あ?」

「......庭を直すのは誰がするんですか」


------------------


結局そのことを言い出すことはできなかった。

その後、傑の家では律さんが趣味に口を挟むことは無くなり、弟として傑は独り立ちしてしまった。だが微妙な空気が流れることが多くなったらしい。

そして俺は残りの冬休みの日数を律さんと傑の三人で、黙々と庭の掃除にいそしむことになった。

こうして俺達の冬休みは無事に?終わったのである。

これにて新年編終わりです。

ネタ回にしたかったけどカオス回になってしまいました。

え? 今編は酷かった?

......新年も頑張っていきましょー!(次からは正当な冬編が始まります)

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