正月ボケも程々に
「おにーちゃん......」
「んー?」
「このごろ本ばっかり読んでるよね。」
「んー。」
「2年前ぐらいもこんな感じになったことあったよね。」
「んー。」
「話聞いてないよねー?」
「んー。」
「そんなことだと2年前みたいになっちゃうよ。」
「んー......」
由香が何かを言っているがどうせくだらない事だろう。適当に相槌でも打っておけ。
それより本が今、良いところなのだ! 主人公が死ぬか生きるかの瀬戸際なのだ! 死線をくぐりヒロインを助けに最強の敵に立ち向かっている途中なのだ! 由香の話がどうとか言っている場合ではない!
ページをめくる手が次第に早くなる。ドラゴンボールやワンピースは話を先延ばしにするが、本には起承転結がきちんとある。この本が終わるころには主人公の顛末が語られ、どんな気持ちであれ自分に何かをもたらしてくれる。
それからほどなくしてその本を読み終わった。主人公は無事に敵を倒し、ヒロインを救った。大団円だ。
俺は本を閉じた後、しばらく余韻にふけった。
「で、何?」
「もういいよー!」
由香がプンスカ怒りながら自分の背中を蹴る。俺は痛がった後、去り行く妹がどうして怒っているのか疑問符を浮かべながら背中をさすった。
「我が妹も反抗期か。全く、困ったものだ。」
俺は自室に戻り、本の続きを読もうとした。
インターホンが鳴り響く。甲高い音が俺の妄想を潰した。玄関を開くとそこには傑が立っていた。
傑にしては珍しい青い顔の傑だ。
「どうした? 幻でも見ているような顔をして。」
「バレた。」
「は?」
「バレた。」
その少ない数の言葉で察してくれと言わんばかりの形相だ。だが俺には分かる。
このタイミングで俺の家を訪問したこと、バレたということは誰かに何かを隠していたということ。
「本と袋、持って降りようか?」
「いや、そうじゃないんだ。」
傑がますます青い顔になった。傑は何に怯えているのだ?
その時、傑の体がふわりと宙に浮いた。違う。持ち上がったのだ。身長一個分持ち上がった。俺はその異様な光景に「もしや、これは本の中の妄想なのでは? ついに本の中に入ってしまったのでは?」と思い、少しだけ胸をドキドキワクワクさせていた。
結果から言えば、傑が真横に高速で吹き飛んで行く光景を何もせずに見ていた。
自分の家のドアの視覚外から大柄な人間が現れた。
「やぁ、ウチの馬鹿な弟が世話になったみたいだな。」
その声でその異常事態に気づく。自分の体にチートが発動していたのだ。傑がチートを発動した時と同じ感覚だった。
そうだった。
「さぁ、話を聞かせてもらおうか。」
大柄だった体が自分と同じぐらいの身長まで縮む。がっしりとした骨格だが、女としての特徴も残している。
間違いない。
この人は傑の姉にして、傑と同じ身体強化のチート使い。
新崎律さんだ。
「で、今日は傑さんの件で」
「お前達は何故今日私がここに来たのか分かっているだろう?」
「......あけましておめでとうございます」
「ブッ飛ばすぞ?」
その強い眼力に萎縮する。
傑は彼女の隣で諦めた様に縮こまっていた。まさかあの傑がここまで小さくなるとはな......
これが真のチーターの恐るべき実力というわけか。
「それよりこれの話だ」
要さん、通称カナさんが取り出したのはフィギュアなどがたんまり入った袋だった。自分の事でないにも関わらず、自分の趣味が暴かれたような気がして少し冷や汗が出る。
「これをお前は私に見つからないために傑に頼まれて持っていたという訳だな?」
「ええ、そうですけど......」
「つまり私に秘密を作っていたということだな? バレなければ関係ないだろう、とそう思っているわけだな?」
そういうことではない。が、要約するとそういうことになってしまう。
「律さん。決して、そういうつもりじゃなかったんです。」
「では、どういうつもりだ? バレたらどうするか、ということを考えてはいなかったのか?」
中々厳しいところを突いてくる人だ。昔からそういう人だった。
自分の思ったことをしっかりと貫き通し、それが正しいと信じ切れる人だった。実際、その言葉に反論できる人と言うのはあまりいなかったし、人の意見や反論をことごとく正論でつぶすような人だった。
「ええ、考えていませんでした。と言うのも自分達は、あくまで知られなければその方が手っ取り早いと思っていました。」
「何だと?」
「律さんがサブカルチャーに理解がないことを知っていたし、自分たちが律さんにサブカルチャーを好きにさせる事は出来ないと考えているからです」
律さんは暫し黙り込んで考える。
俺と同じように考えている。俺は何気ない顔をしながら考え得る反論を見つけ出していく。
「何故理解する必要がある。そんな不健全で頭の中の考え方が汚染されるような物をどうして知らなければいけない。私は知らなくても正論を通す力を持っている」
「人生には必要ない事でも心を豊かにする力がある。だからこの世の全ての物を理解することは出来なくてもせめて弟さんが好きなものぐらいは知ってあげた方が良いように思います。それと汚染ではありません。感化です」
律さんはまた考え込んだ。一考の余地があると考えてくれたのだろうか。
「無理だな」
「へ?」
「やはり無理だ。私にそんなことは必要ない。」
意外だ。律さんにこんな一面があるとは。
てっきり正論だけで語る人かと思っていたのに意外と感情的なところも......
「へ?」
「お前、コピーする能力がつかえたんだったな。気張れよ。」
そうだ。思い出した。この人のもう一面を。
気に入らないことがあれば暴力で全て解決する。邪知暴虐にして暴虐武人。
この人は正論だけを認めるのではない。
正論すら認めないのだ。
「うぉぉおおおおお!!!」
「ギャァァァァァアアアアアアア!!!!」
自分の体が宙を舞い、開いた玄関から体が飛び出て、家の屋根を上から見たところまでは覚えている。後の記憶ははっきりしない。気が付いた場所は臭い匂いのする燃えるゴミの袋の上だった。
「危ない......間一髪だった。」
粗大ごみの日なら確実に死んでいた......
俺は少し厄介なことになったと感じながらどこか遠くを見るような目をした。
これはまだ正月の感じが抜けきってないというか、完全に中二病が戻りかけていますね。判断力がかなり鈍っています。
佐々木は無事に律さんを納得させ、中二病から脱却することが出来るのでしょうか!?




