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真の陽キャには陰と陽の境がない

「あら、傑君じゃない! いつ見てもやっぱりかっこいいわね。」

「恐縮です。」


 母がそんなことを言っている。多分お世辞じゃないだろう。母はそういうことを平気で言うし、アイドルのおっかけにも熱心だが、誰か一人に入れ込むという訳でもない。まぁ、言ってしまえば普通である。


「傑君、久しぶりだね。宗利(むねとし)が雨姫ちゃんを連れて帰ってきた時以来じゃないか?」

「その節はお世話になりました。」

「良いよ良いよ、気にしないで。こういうの、ウチではよくあることなんだ。」


 父はとにかく懐が大きい。懐が大きすぎて底が見えないこともままある。時々、考えていることが良く分からない時がある。

 どちらも実親ではない。だが実親よりも大切な人だ。

 父のことを思うととても胸が苦しくなる。だから考えないようにしている。自分と実親にあった事を知っているのは今の父と母だけだが、このことはまだ誰にも話したくない。だが一つ言えることがある。

 俺は父のようにはなりたくない。


「で、ですね、今日やってきた理由はこれなんです。」


 傑は一度外に出て、しばらくすると何かを持ってきた。大量の袋と本の束だった。一度にそんなに持ってきたのかと呆れるような量だった。大体、どうやったらそんなに本が持てるのか。こつこつ買っていけばそれくらいの量になるのか?

 傑は肉体強化をフルに活用して本棚一個分ぐらいの本とサンタさんが持っているような布の袋を持っている。


「年末になると俺の姉が帰ってきます。俺の姉はですね、そのー、言いにくい事なのですが、俺の趣味を認めてくれていません。」


 本の束には有名なライトノベルのレーベルがずらりと並んでいた。

 袋の中には何が入っているのかは分からないが、フィギュアの類いかもしれない。

 傑は陽キャの化身であるが、だからと言ってサブカルチャーが嫌いなわけではない。真の陽キャの前には陰と陽の壁が無いのだ。陽と陰の違いを感じている陽キャというのは、努力で陽になろうとした結果が実ったものである。そんな奴は俺に言わせてみれば真の陽キャなどではない。

 そういう意味で言えば、傑は真の陽キャである。


 俺も何度か中学時代に傑のライトノベルを借りたことがある。それにはかなり影響された。中学時代に黒狼団を皆で結成しようと思うぐらいには感化されたのだ。今思い出してもちょっと恥ずかしい。


「なのでこれを年が明けるまでトシの部屋に置いておきたいのです。よろしいでしょうか?」

「そういうのは父さんと母さんじゃなくて、俺に言うべきなんじゃないのか?」

「でもお前の家は家族全員で決定するのがしきたりなんだろ? だったらこちらに先に話を通すべきじゃないか。」


 ぐうの音も出ない。


「僕は全然かまわないよ。」

「私は良いわ! まあ、もっと言えばお姉ちゃんとももっと話した方が良いかもしれないわね。」

「姉はこういうのに偏見がありますから。見ると侮蔑の目線を俺に向けてくるんです。一回、何か良い物を読んでもらえれば分かると思うのですが、姉はアニメどころかドラマですら見ないので。」


 俺は傑の姉を何度か見かけたことがある。気の強そうな女性だったことだけは覚えている。初めて会った人間にも貴賤を問わず打ち解けて話し合う。凄い人だなと言うのが率直な感想だ。


「良いよー!」

「私も......」


 後ろからも声が聞こえた。由香はテレビを見ながらそう答えた。真面目に考えてすらいないだろう。この量の荷物が入れば一瞬で俺の小さな根城は手狭になるというのに誰もそんなことは考えてくれていない。


「まぁ、良いけどさぁ。」

「よっしゃ!」


 けど、の先を言わせてくれ。けど、の先が本当に言いたい事なのだ。

 俺が不満そうな顔をしているのを傑は知っている。知っていて、有無を言わさぬガッツポーズなのだ。こうなったら俺が文句を言えないことを傑は知っている。賢いというか小賢しいというか。


「あっ、そうだ。ある奴、好きに読んでいいぞ。中二病が再燃しないように気を付けるんだな。」

「しねぇよ。もう中二病にはこりごりなんだ。」


 まぁ正月は長いし、小説に手を付ける事にはなるだろうが、中二病が再燃するなんてことがある訳――

 これ以上はよしておこう。ホントに中二病になりそうだ。奇しくも自分の好きそうな本がたくさんある。

 これは危険だ。


「それじゃあ俺はこれで帰りますよ。」

「あら~、もう少しいれば良いのに。」

「そーだよ、傑さん! 夕ご飯も一緒に食べよう!」


 イケメンに妙に優しい。俺の偏見もあるのだろうか。


「いえいえ。悪いです。それにうちの家族も心配すると思いますので。」


 どうせ俺の部屋にその私物を置くことを家族には言っていないのだろう。だから一報入れるにしても理由を正直に伝えることが出来ないのだ。

 母と妹はしょんぼりとした顔をしていた。俺が家出しても多分、ここまで悲しんでもらえないだろう。雨姫は無言でみかんを剥いて食べていた。俺はマイペースを崩さない雨姫にそのままでいいんだと心の中でエールを送る。


 傑が出て行った後、俺は自分の部屋と本や袋が置いてあるリビングとを何往復もさせられ、必ず次に会った時は文句を言ってやろうと心に決めたのだった。

次からお正月ですよ!

それでは皆さん良いお年を!

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