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こたつは至高

 俺はわりかし冬は好きな方だ。どれくらい好きかと言うと秋の次に好きだ。何より冬は虫が出にくい。そこが好きだ。

 ウィンタースポーツが好きな訳ではない。そもそも俺はインドアでそう言うのが好きな訳ではない。海は遊ぶよりも見るのが好きだし、山は登るよりも写真を撮る方が好きなのだ。

 冬の寒さと言うのは重ね着すればどうにかなる。それに冬にはこれがある。


「あぁ~、生き返るぅ~」

「おにーちゃんどいて。面積取りすぎ!」

「良いだろ! お前だって半分は面積取ってるだろうが!」


 由香とこたつの中でにらみ合う。

 そう。冬にはこたつがあるのだ。この魅惑的な温かさは魅力的すぎる。冬のクーラーにはあまりありがたみがないが、こたつにはありがたみがある。クーラーの効いた部屋の中に入っても徐々に慣れてしまうが、こたつは中に入った瞬間に幸福感が得られるし存在感もある。

 これがあるだけで冬を楽しんでいる感じがするというものだ。


「私も......入る。」

「雨姫も入るって言ってるだろうが! なんでそんなに脚広げてるんだ! 入る隙間が無いだろ!」

「おにーちゃんが出ればいいだけじゃん!」


 実際のところを言うとこのこたつは結構デカい。家族用でありリビングに置いてある奴である。なので普通に入っていれば絶対に二人で取り合うことは無い!......はずなのだが、俺達は二人とも首まで入って寝ころびながらテレビを見る派の人間なので取り合いになってしまうのだ。

 雨姫は端の方でちょこんと三角座りになり天板の上に置いてあるせんべいに手を伸ばしていた。


「あ、うたか、私のもせんべい取って~。」

「お前! その体勢でせんべい食べたら粉が床に落ちるだろうが!」

「大丈夫だよ。全部吸うもん。」

「お前の口はダイソンか。」


 俺達はテレビの年末特番を見ながらそんな会話をしていた。隣では由香がせんべいをかじりながら息を吸ってむせていた。俺はゆっくりトントンと背中を叩く。


「しっかし、もう年末かぁ。早いもんだな。」

「思えばこの一年、色々な事がありましたねぇ。」


 俺達はおじいちゃんとおばあちゃんのような会話をしながらこたつから首だけ出していた。大体、テレビが見やすいところに二人そろっていこうとするからギュウギュウ詰めになるのだ。だが俺はこのポジションから避ける気はないし、由香も引く気はないみたいだ。これは訴訟も辞さない。

 とか何とかいいながらあんまり暴力で争う気が無いのもいつもの事である。要するに何をするにも面倒くさいのだ。


「こたつって気力奪われるよな。」

「冬休みの宿題なんて出来ないよね~。」

「俺は終わらせたぞ。」

「は?」


 自分の後ろで顔を出している由香の方から凄い威圧の声が聞こえた。


「私も......終わらせた。」

「へ? 嘘でしょ? まだ年明けもしてないんだよ? まだ冬休み長いんだよ?」

「でも二週間ぐらいしかないだろうが。それに俺は出来るだけ早く終わらせるのが好きなんだ。そして早く終わったのをこういう場でひけらかして他の人間が阿鼻叫喚するのを見るのがとてもとても好きなのだー。」

「趣味悪っ! それは流石に引くわ。」


 由香が本気で引いているのを感じた。まぁ、俺も本当のことを言えば他にやることが無かったので早めに終わらせようと思ってやっていただけなのだが。

 どうせ冬休みの宿題なんて少ないのだ。日記なんてものも高校生になってしまえば無いし、課題も太いテキストみたいなのが何冊も配られるわけではない。何より課題なんて書いていけば終わるのだ。そんなに気負うことでもない。


「そっかぁ。うたかもやっちゃったのか......」

「えっと......ごめん、なさい?」

「別に謝る必要なんてこれっぽっちもないんだからな。」


 俺は年末特番の面白くもなんともないコント番組を見ながら、純粋な雨姫にフォローを入れる。由香がこたつの中で俺の足を蹴って来るので俺も優しく蹴り返す。あんまり強く蹴り返したり、嫌がられることをするとセクハラだのなんだのとケチをつけてくるのだ。お兄ちゃんも大変である。


「まぁ、夏休みの宿題みたいに慌ててやることのないように適度にやっておくことだな。」

「大体、おにーちゃんは冬休み始まって一日で宿題を終わらすのに、なんで私が最後の日に一日で終わらせるのはダメなのよ。おかしいじゃん。」

「まあそれは、気持ちの持ちようが違うから何だろうが......まあ確かに、終わると分かっているのなら責められる必要は無いよなぁ。」

「でしょ!?」


 由香は声を弾ませながらそう答えた。

 まあ色々とツッコミどころはあるけれど、今日ぐらいは別に良いだろう。今日はゆっくりすると決めているのだ。どうせ由香は急かしたところでお正月が終わるまでは何もしないだろうし、追い詰められないとぐーたらしながら宿題をして全く進まないのを俺は知っている。


 そんな寛大な気持ちでぬくぬくと温まっていた時、インターホンが鳴った。

 こんな日に来客とは一体何事だろうか。確かそんな予定は入れていないはずだし、父からも誰かが来るとは聞いていない。


「......しょうがねぇなぁ。」


 俺は芋虫の様に這い出すと、玄関の扉を開けた。


「よぉ! トシ、元気してる!?」

「なんでお前は俺の至高の時間を邪魔することに特化してるんだ?」

「それは俺とお前が運命共同体だからだろ?」


 そんな言葉をサラッと言いながら流れるような動作で家の中に上がろうとする。

 大体運命共同体だからってどういう意味だよ。そういう時に使う言葉じゃないだろうが。


「今日はお前のおじさんとおばさんに用があってきたんだけど、車もないししばらくは戻ってこなさそうだからお前の家で待たせてもらうよ。」

「それは構わんが、そういうことは家に上がる前に言え。」

「すまんすまん。いつもの事だったからつい。」


 そう言いながら入ってきた傑が本題を切り出したのは父母が帰ってきた夕方ごろの事だった。

なんだかちょっと不穏かも。

冬の大きなイベントが始まる前のいわゆる幕間みたいなものです。

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