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俺はチーターだ!

「クソッ!!」


 俺はせっかく詰めた間合いを切って、また安全圏に下がった。

 せっかく近づいても攻撃が当たらないのであれば意味がない。俺が思うにあの空間断絶には、まず空間断絶する場所を選ぶフェーズと空間断絶をするフェーズの二つがある。これまではそのフェーズをラグなく二回ずつ行うことによってあたかも一回ですべての動作を行っているように見えていたのだ。

 そもそもどうやって空間を配置するんだ?

 あの女は攻撃を出す時、勢いよく手を振っている。あのモーションは多分必要なのだろう。あのモーションが必要ないのであればもとより俺は攻撃を見破ることすらできずに死んでいる。


「色々考えてるみたいねぇ。いいわぁ。良い表情になってるわよ。」

「うるせぇ。静かにしろ。」


 今、相手は油断しきって攻撃すらしてこない。普通なら今が攻め時なのだろうが、今攻めれば相手の思うつぼだ。だから攻撃できないのがとてももどかしい。

 相手の攻撃方法を見極めろ。そんでもって相手のあの壁を乗り越えて紫色のアレを雨姫さんが消えたところに投げ込む。そうすれば俺のミッションはクリアだ。


「待ってろ、トシ。今、助けてやる。」

「あら、いきまいちゃって。可愛いわねぇ。」


 女が薄ら笑いを浮かべている。怪しげな雰囲気と相まって、とても気持ち悪い。弄ばれている感じがするのが余計に不快感を募らせる。

 もっと良い方法は無いかと考えてみるが、焦る心と相まってなかなか良いアイデアが思い浮かばない。冷や汗がタラリと垂れる。


「あら、仕掛けて来ないの? ならさっさと終わらせてしまうわ、よッ!」


 空間断絶の刃が放たれる!

 音もなく近づくそれを避けながら、相手の動向を見極める。

 タイミングを同じくして触手が放たれた。触手を回避するとその側面から刃物が飛び出してくる。吸収と放出というチートならそんな事も出来るらしい。

 連続で回避するなんて高等技術は俺には無い。だから突然でてきた包丁を腕で跳ね除ける。

 当たった瞬間に刃物がぐにゃりと曲がった。どうやらそんなにいい刃物ではないらしい。だがどんな刃物であれ直接当たれば肉に刺さる。

 肉体強化は筋肉に力を入れたり衝撃に耐えたりする事はできるが、外皮を硬くしたりする訳では無いから裂傷や貫通には弱い。どれぐらいの刃物なら刺さるか試したことはないけれど。


「くっそ! やっぱり打開策が思い浮かばねぇ!」

「せいぜい苦しむと良いわ。さぁ! もっと踊りなさい!」


 パァンッ!!

 鞭を打つような音とともに右腕から血が噴き出した。筋肉に力を入れ、無理矢理出血を止める。


「何をしたッ!!」

「秘密よ。教えたらつまらないじゃない。」


 卑劣な笑みに強烈な悪意が込められていた。心の底から楽しくてしょうがないというような顔だ。

 俺の頭では相手の能力を割り出すことが出来ない。そんな自分に嫌気が指す。

 焦りだけが募っていく。


「グギィ」


 突然発されたその音の発生源は紫色の塊だった。女は自分の愉悦を邪魔されたという風に紫色の塊を見た。


「どうしたの、K9?」

「刃物 肉体 消滅」

「......どういうこと?」


 その言葉に困惑しているのは女だけではない。俺もだ。別に俺が何かした訳では無い。


「ストック 消滅 捕虜 確......肉片 確認」

「な、何が言いたいの? 言いなさい! K9!」


 何があったのかは正直よく分からない。ただここにいる誰でもない人間がやったのだとしたら。誰にも干渉できない場所で何かをしたのだとしたら。


「俺は助けられてばっかだな、トシ。」

「あんた、何か知ってるのね!?」

「お前たちも知ってるよ。」


 もしもこの場でそんなことが出来る人間が居るのだとしたら間違いなくトシだ。

 そっか。

 中でトシも頑張ってんだな。何がどうなっているのか、どうやったのかは分からないけれど、何も出来ないところから何か考えだすのがトシだ。結果的に紫色のアレの動きを封じてる。今のアレは文字通り手も足も出せない。


「何か馬鹿らしくなってきたな。」


 何で俺が相手の能力とかそんなこと考えながら戦ってんだ?

 俺はそういうのは性に合わない。俺は俺のできることをやるだけだ。それは自分が良く知っていることじゃないか。必要以上に難しく考えていた。

 要は、相手に何かされる前に攻撃をぶち込めば良いってだけの話だ。相手の前には壁があって触れたら体が吹き飛ぶ。それだけの話だ。相手の策略なんか全部ねじ伏せちまえば良い。


 女が腕を振り上げたと同時に地面が割れる。食い込んだ足は跳ね上げられると同時に弾丸よりも速い速度で駆け出す。女がゆっくりと大きく丸く目を見開くのが見える。

 女の構えが変わった。振り上げた手を鉤爪かぎづめに変え、もう片方の手も同じく胸の前まで振り上げる。女は空中をひっかくように両手をクロスさせた。


「死ねぇ!!」


 発された目には見えない斬撃。両手の指が交錯した延長線上。おそらくは格子状に放たれているのだろう。普通なら逃げ場はない。防御で身を固めたところで意味はないので細切れ肉にされるのがオチだ。でも、俺はチーターだ!


「これが本当のチートだ!!」


 俺は腕の筋肉を一瞬で肥大化させると前に進む力をそのままに地面に拳を叩きつけた。まるで砂に埋めた爆弾が周りの土を巻き込んで爆発するように、地面が大きな音を立てて盛り上がる。俺の体が一気に地面の中に沈み込んだ。女は俺から見えなくなる直前に口をあんぐりと開けていた。

 そこから地面を踏みしめて一気に体を上昇させる。とても強い重力と慣性力が俺の体を地面に縛り付けようと足掻いていたが、それらを地面から力づくで引きずり出した。

 現れたのは相手の目の前。壁の向こう側だった。


「貰ったァ!!」

「しまッ!?」


 相手の体からバッグを引きちぎるとバッグを雨姫さんが居た場所に放り投げる。

 行ったと思ったその次の瞬間、俺は目を見開いた。


「何だと!?」


 バッグの外身が破けて紫色の球はそこにあり続けた。バッグは雨姫さんが居た場所を通り抜けて地面に落ちる。


 何でそこでとどまっているんだ!?


「まだだ!!」


 紫色の物を勢いよく掴み取る。自分の掌の皮が少しずつ吸い込まれていくのが分かった。全てが吸い込まれないうちに直にその球を投げ入れる。紫色がバッグと同じ軌道を描いて雨姫さんのいた場所をすり抜けてバッグに着地した。

 その間わずか0.01秒。ほぼ脊髄反射で行った行為だった。


「上手くいったのか......?」

傑がかっこよすぎる。(定期)

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