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狂気の中に潜む者は理路整然と佇む

「手帳のメモの部分はえーっと......」


 トシが投げ渡してくれた手帳を必死に読み込む。

 俺は飛んでくる攻撃を片手間に避けていた。攻撃自体は鋭くて速く触れれば体ごと持っていかれる危険な物ではあるが、タイミングも動きも単調だし避けられない訳じゃない。誰かを守っていなければ縦横無尽に避けられる。

 周りは次の競技に夢中だ。なんたって新体操部の発表だからだ。この三浜柳高校の体育祭は「個人で蓄えた技量は人に見てもらってこそ意義がある。」とか何とかで個々の運動系の部活のお披露目も兼ねている。女子新体操部員はレオタードだ。俺だって見たかった。


「っと!」


 本数の増えた触手の攻撃が、俺の体を貫こうと鋭さを増していた。あの女が何もしてこないことが少し怖い。

 トシだったらどう考えるだろうか。手帳に何か書いてあるはずだ。


「ここか!」


 そこにあったのは、たった数行のメモだった。

 ・紫の能力は吸収と放出

 ・紫の中に収容されても形状は変わらない

 ・ワカメ女の能力は放出か空間断絶か(要検討)

 ・紫は物理攻撃適応可能


 これだけか? そう思ったが必要な情報は凝縮されていた。

 もしもこの情報が本当であればトシは生きている。でも俺のチートの範囲内ではなくなってしまったから大変なことになっているかもしれない。

 早く助けなければいけないとは思っているのだがそれを考えるのは俺には出来ないかもしれない。それを考えるのはトシの役目だった。

 だが、何もしないわけにはいかない。トシはもう助けてはくれないのだ。

 このメモの中の情報と思いつくことだけでどうにかしろってことなのか?


 トシのあてが外れている可能性、考えたくはないけれどそう言うこともある。トシには何らかの確信があるから自分から飛び込んでいったのだろうけれど、もしかしたらあの中で死ぬという可能性もなくはない。

 だから俺達でも何とかしないと。


「もうそろそろしつこい!」

「殺傷 不可 速度 不足 攻撃 不足 不足 不足 不足」

「全く使えない子ねぇ。そんなことだと握りつぶしちゃうわよ。」

「不可 不可」

「やっぱり私だけでも十分だったかしら。K9は目立つもの。隠密行動には向かないわ。」

「辛辣」


 女がそう言いながらこちらに手を振りかざす。そのテニスボールでも投げつけるような勢いになんだかとてつもない危機感を感じた。

 俺は咄嗟に体を捻って回避する。何かが脇腹のあたりを掠めて通って行ったような気がした。


「あっぶ......ねぇ!?」

「あーら、外しちゃったかしら。」


 振り向くと木の枝が落ちていた。ちょうど俺の脇腹があった辺りと女の手を結んだ延長線上のあたりだ。

 間違いない。多分トシの予想はあっている。

 何かを放出したのか、それとも空間断絶したのかはわからないけれどそのどちらかであるような気がする。

 どちらにせよぶっ壊れチートだ。頭がくるっている。

 これは......逃げるしかない!!!


 俺はゆっくりと呼吸を整える。

 相手の女は自分に向かって手を振りかざそうとしていたが、それよりも早く逃げる。機動力は確実に俺の方が上だ!


銀風(ぎんぷう)!!!」


 風よりも疾く地を駆け、新たに風を巻き起こす!


「あら、すっごい速い。逃がしちゃったみたいね。」

「無能」

「人の事をそういう風にいうものではないわ。貴方も無能仲間でしょ。」

「不覚」


 俺は女が放った一撃を尻目で確認しギリギリでふわりと避けた。少しの時間差があったような気がする。

 とりあえず女の目が届かない位置まで行かなければいけない。それに俺達の場所を突き止められていた原因も突き止めなければいけない。

 でも俺達をピンポイントでサーチで来ていたということはやっぱりチートが関係しているのか? 俺は女が見えなくなったのを確認して静かにチートの発動を切った。


 --------------------


 ここはどこだろう。

 べちゃべちゃとした感覚に時折鋭い刃物が当たるような感触がして、赤い血が流れていく。

 とても暗い部屋だ。


「誰かそこに居るのかい?」

「誰だ。」


 俺はその爽やかそうな青年の声に反応した。俺の他にもだれかいるらしい。


「そうか。君が今回の捕獲対象か。」

「ということはあのチートはお前が発動したものか?」

「ふふっ。なかなか変わった呼び方だね。」


 青年はクスりと笑ってガチャガチャと音を鳴らしていた。俺は暗すぎて姿の見えない青年を必死に目を凝らして探していた。


「ホラっ。」

「うおっ!」


 俺の額に何か硬いものが当たる。


「飴だよ。食べる?」

「敵からもらったものなんて食えるか。それにお前があのチーターならとても危険なんじゃないのか? だったら尚更だめだ。」

「捕獲対象なのに殺すなんてことしないよ。君の能力が何なのかは知らないけれどその様子だと別に無理に拘束する必要もなさそうだ。」


 青年は物腰の柔らかい様子で俺にそう言った。

 俺の疑念は募っていく。俺の中でのイメージとこの人間の性格は全く異なっている。


「どういうことだ。一体......」

「表の僕を見てきてしまったみたいだね。アレは僕の中身だよ。今回は少し狂暴になるように作ったんだ。苦労したけど、上手く出来ていたみたいだね。」

「中身? 作った?」

「うーん。どう説明すればいいのかな?」


 暫し沈黙が流れる。俺は黙ってその沈黙が食い破られるのを待っていた。


「僕の能力は触れている物を体の中に吸収する能力なんだ。自分の体も体の中に吸収してしまうし、核だけになれば触れている物全てを吸い込んでしまう。だけれど、任意で外に出すことが出来るんだ。まぁ、その任意は僕の任意ではなくて、核の任意なんだけどね。」

「核はお前なんじゃないのか?」

「違うよ。直前に僕が強く思っていたことが核の意志になる。能力の発動は僕の任意だから僕が解くまではずっとこのままだ。」


 なるほど、と得心する。

 俺の予想はおおむね正しかった。ある程度の予想はできていたしそんな感じだろうなと思っていた。まさか本人が操ることの出来ない類だとは思っていなかったが。


「僕の核にはあんまり知能がない。だから僕が作り出す前に組み立てた知能だけの事しか考えられないんだ。だから今回は強硬手段で君たちを捕獲しようと考えながらアレを作った。刃物系も沢山取り込んでおいたからあまり動かない方が良いよ。」

「なぜ捕獲なんだ?」

「人理の開拓者は一緒に活動できる仲間を探しているんだ。だから僕たちは君を仲間に入れようとしているんだよ。」


 俺は長く溜息を吐いて勧誘を拒否した。休日に家にやってきた宗教勧誘の人々を片手間に送り返すような気分だった。

 少しずつ気分が朦朧としてきた。

 腕を伸ばそうとしても腕が伸びないことに気づく。足もないし既に歩くことが出来ない。今の自分に頭があるのかどうかすらも分からない。ただ音は聞こえるみたいだ。


「あぁ、君、そういう感じなんだ。あの時、能力反応が二つもあったのはそういうことだったんだね。」


 外の様子が気になった。でも自分にはもうどうすることも出来ない。仲間の助けを当てにするしかない。

 お願いだ。助けてくれ。

佐々木! 一体どうなってしまうんですか!?

というかここから出られるんでしょうか!?

あとは佐々木のメモと仲間だけが頼りです。次回も水曜日です!

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