俺はやれば出来る子だ
「行ってらっしゃ〜い!」
先生の高らかな声が響く。
いきなりの事で混乱していた各班が少しずつ落ち着きを取り戻す。
そして落ち着きは確実に焦りに変わる。
1人の男子が班のメンバーに何か言って駆け出した。
それを皮切りに次々と散らばっていく。
「私達も早く行きましょう!皆に先を越されてしまいます!」
「何か……ちょっと…なんだかなぁ。」
「へ?」
殆どのクラスメイトが走って出て行ったにもかかわらず俺は行く気にはならなかった。
……何処にあるか分からないものを探し出す事はどう考えても非効率だ。
「だからと言って探さなきゃ、何も具材のないカレーかアレを食わなきゃいけないんですよ!」
まぁ、そうだ。
でも、だからと言って、闇雲に探すのも、なぁ…
「トシはちょっと不満があるとすぐやる気が無くなるんだ。不満っていうか『やりたくない』って思ったらそっちの方に流されるっていうか……面倒臭い性格だよ。」
本気を出せばすっげぇんだぜ、と付け加えるようにフォローをする所が傑のイケメンたる所以だ。
「やる気を出してあげれば良いんですか?」
「そうなんだが…こうなっちゃうとなかなか立ち直らないし、ねぇ……」
「やってみようと思います。」
「へ?」
「そう、効率的じゃない……効率的じゃないんだよ……」
「どうすれば効率的に出来るんですか?」
「どうって……そうだな……うーん……こう、もっと、出来るはずなんだよ……何か、」
「考えて思いつくなら、それ出来ると思います。」
「ん?」
「何をするのか知らないし、私には想像もつかないけど、佐々木くんになら出来ると思います。」
「なん…で?」
「初めて会った時、私、佐々木くんにすっごく励まされたんです。思い返してみてもそんなにそれらしい事をして貰ってはないんですけど、それでも元気にはなったんです。その後はちょっと痛ましかったですけどね……」
「そっか…それは、良かった。」
「だから、出来ると思うんです。」
「なんだ、それ……。ハハハ、」
乾いた笑いが漏れる。
全然理由になってないし、俺に出来る確証も無い。
それに良い方法が思いついてさえいない。
でも、何だか少し、心の枷みたいなものが外れた気分だ。
「少し一緒に考えようか。」
「はい!」
「小日向さん。やっぱりすげぇよ。俺だったら諦めて探しに行ってたぜ。」
「もっと褒めてくれても良いんですよ。」
小日向さんもなかなか誇らしげだ。
「しかし、考えるにしては情報が少なすぎる。どうしたものか…」
「先生に聞いてみたら良いんじゃないですか?」
せんせーという声が辺りに響く。
パタパタと先生が走ってやってくる。
「おやおや、悪巧みですか?先生、そういうの許しませんよ。」
ニヤニヤとしている。
生徒が混乱したり焦ったりしている姿を見てこんな笑顔を浮かべるとはなんと卑劣な……
ではなくて、
「紙を隠したのは先生なんですか?」
「そうですけど……もちろん、隠し場所は教えませんからね?」
ふっふっふっと笑っている。
「分かりました。それが分かれば、良いです。」
「ん?は?え!?」
先生の顔が途端に青ざめる。
「私、そんなにヘマしちゃいました?」
「いや、そんなに事は、」
「ないと思うんですけど…」
傑と小日向さんが先生の意見に同意する。
いや、十分だ。
「皆、こっち来てくれ。あ、先生はそのままで良いですから、」
「ちょ、まって、まって下さい。何が分かったんですか?」
「秘密です。」
今度はこちらがニヤリと笑う番だ。
なんかしちゃいましたか〜!という声が響くのを尻目に俺達は少し離れた場所に行った。
「で、何が分かったんですか!?」
小日向さんが興味深々に聞いてくる。
「紙は先生が隠したって言いましたよね。」
「はい。確かに言いました。でもそれだけでは隠している場所は分かりませんよ?」
「いえ。だいたい予想をつけることは出来ます。」
「どういうことだ……?」
どう説明しようか、暫し考える。
「例えば、小日向さんは初めて来た場所に上手く物を隠すことは出来ますか?小日向さんは急に言われて準備も出来ていないし施設のマップしか持っていないものとします。」
「どうでしょう……わかりません。でも多分出来ないんじゃ無いでしょうか…」
「普通は難しいと思います。新任の先生なら忙しいし尚更です。」
「分かったぞ!トシ!つまり、先生は何らかの方法で隠し場所をあらかじめ決めていた。いや、誰かに教えて貰っていたんだな!」
「おそらくは同学年の先生の誰かだろうな。毎年恒例の行事となっているとしたらいつも隠し場所は決まっていると考えた方が良い。」
つまり、と前置きして2人を見る。
「初見でも場所を伝えやすいそれっぽい場所に隠されているってことだ。」
そうだな、と辺りを見渡す。
ニッと笑う。
不自然に置かれた観葉植物。
普通、花壇の横に並んで観葉植物は置かないだろう。
観葉植物の中……には紙は入っていなかった。
ならば、と植木鉢ごと持ち上げる。
下には折り畳まれた色紙。
傑が横からひょいと植木鉢を奪い取るように持つ。
俺は下に置いてある色紙を拾った。
なるほど。
色紙なら偽造もしにくいだろう。
『にんじん』
開いた紙にはマジックペンでそう書いてあった。
「やっぱりやる気を出したトシは違うなぁ。」
「凄いですね…佐々木さん。ちょっと引いちゃうレベルです。」
小日向さんとの距離が前より少し遠くなった気がする。
彼女がやらせてくれたんだ。
ちょっぴり悲しいがそれでも悔いはない。
「じゃあこの調子で頑張りましょう。傑は遠いところを回ってきてくれ。お前の足なら今からでも見て回るぐらいは出来るだろ?」
もちろんバレないようにではあるが、長い付き合いなのでそれは分かっているはずだ。
「当たり前だ。自慢じゃあないが俺は100m5秒フラットで走れるんだ。」
「どこかで聞いたようなセリフだな……小日向さんは近くの場所でそれっぽい場所を探してくれますか?」
こういうのは急ぐあまり遠くに行きがちで、近くの方が疎かになりやすい。
小日向さんの耳元で呟く。
「チートは使って構いません。それで15分は稼げるんでしょう?」
「もう少し使うのが早ければ2回使えたんですけど……」
時間は既に30分過ぎている。
「大丈夫です。それは必要無いですから。」
「……はい。分かりました。」
耳が幸せだと感じたのはいつぶりだろう。
さて、気持ちを切り替えていこう。
「30分後に集合だ!解散!」
パァンと掌は乾いた音を奏で、それを合図に3人は一斉に走り出す。
佐々木宗利、やる気を出す。
連続投稿もはや1週間になりました。
まだまだ1ヶ月まで長いのなんのって……
という訳で是非ともお付き合い下さい。
気に入って(ry