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そして始まる

「もう明日か。思ったよりも早いな。」

「そうですね。リレーの練習してたらあっという間って感じでした。」


 俺と小日向さんは放課後のリレー練習終わりにグラウンドを眺めていた。


「まさか俺がリレー走者になるなんて思わなかったよ。」

「私もそうなるとは思ってませんでしたよ。」

「だろうね。」


 俺はハハハと苦笑いしながらそう相槌を打った。


「あら、お二人さん。仲がよろしい事!オホホホホ。」

「茶化すな、木原。」

「ウブだねぇ。お若いわぁ。」


 木原が茶化しながらこちらに近づいて来た。

 多分木原のところでも練習を終えたのだろう。俺は近づいて来た木原に毒を吐きながら恥ずかしさを必死に紛らわそうとしていた。

 少し慣れてしまっていたが、俺は女の子と二人で話が出来るほど肝っ玉が据わっているわけでも人生経験が豊富な訳ではない。


「どうかしましたか?顔真っ赤ですよ。」

「うるさい。」


 小日向さんが半笑いでそう言って来たので顔を背けながら誤魔化した。それを見ながら小日向さんは顔を手で押さえて笑っていた。

 小日向さんも性悪だ。性悪女だ。


「佐々木ィ。大丈夫か?明日のリレー。緊張でお腹壊して出場停止とか起こさないだろうな?」

「お前がこのまま明日の朝までプレッシャーをかけ続けたら、そうなるかもな。」

「それは悪ぅございました。」


 木原がうやうやしく頭を下げる。


「そういうお前は大丈夫なのか?」

「当たり前だ!俺は毎回毎回リレーに出てるリレー上級者だからな!」

「へぇ。そういう一軍構成ができれば明日も上手くいくかもしれないな。」

「それはお前の努力次第だろ!」

「努力次第ねぇ......」


 俺は努力が嫌いだ。

 努力するためにはやる気を出さなければいけない。やる気を出すのは疲れる。他の人がどれくらい疲れているのかは知らないが、多分俺はその何倍もやる気を出すのに時間が居る。

 でもやる気を出さなければ何も出来ない。

 それを出したままにするなど考えられない。

 努力と言うのはやっていて苦痛な事を無理にやって出来るようにすることだ。

 俺はそんなものは嫌いだ。


「あら、まだ帰っていなかったの?」

「あぁ。新浜さん。そっちもまだ帰っていなかったの?」

「生徒会は明日の準備で忙しいのよ。少なくともあなたたちの数倍は忙しいわ。」

「そ、そうですか。」


 新浜さんは少しイライラとしながらそう答えた。


「明日のリレー成功させましょうね。」

「それをあなたが言うの?佐々木君にはもっと頑張ってほしかったのだけれど。」

「ハハハ......」


 何故か怒られている。

 自分なりに頑張ったつもりなのだが。


「絶対一位取るわよ。」

「えぇ。頑張りましょう。」


 そう言うと新浜さんはどこかに行ってしまった。


「新浜さん、何か焦っているみたいでしたね。」

「生徒会の仕事が忙しかったんじゃないか?」

「そう言うのとはまたちょっと違うというか。」


 それは俺もなんとなく気づいていた。

 あの時に聞いた『私は一番出なければいけない』という内容の言葉もなんとなく引っかかる。


「まぁ、要するに頑張るしかないってことだな。」

「そうですね。」

「なんで俺が頑張れとか云々って言った時には全部うるさいとしか答えないのに対応が違うんだ?」


 木原が首を傾げている。

 自分のことをもう少し見つめ直してからそういうことを言ってほしい。


「おっ。俺の事でも待ってくれてたのか、トシ?」

「待つわけないだろうが。」

「え、待ってたわけじゃないんですか?」


 それを言うとつけあがるでしょうが、と小日向さんに言うことも出来ず、ただ無言を貫き通す。

 傑がおまたせしましたといいながら俺達の隣に座り込んだ。


「いよいよ明日かぁ。なんだか感慨深いなぁ。」

「そんなに思い入れがあるかと言われるとそうでもないけどな。」

「そうか?で、どんな感じだよ。リレー上手くいきそうか?」

「さぁな。」


 トシはその言葉を聞くと笑った。

 俺は何が可笑しいのか良く分からず困惑した。


「トシがそういうことを言うときには大抵成功するんだ。なぜならトシがやる気を出そうとしているから。」

「えらく持ち上げたな。」

「まぁ、トシは持ち上げるに越したことは無いんだぜ。」

「うるさい。」


 ひっひっひと傑が気味の悪い笑みを浮かべている。

 なんだか嫌な笑顔だ。

 でもなんだか少し気持ちが落ち着いてきたような気がする。自分にできることをすればいいのだ。それ以上のことは誰も求めていない。

 上手く出来そうな気がする。


 --------------------


「でもいざとなるとかなり緊張するな。」

「昨日の帰りはあんなに自信たっぷりだったじゃないですか!」


 目の前には真っ白なテントとブルーシートのコントラストが広がっていた。空の色まで秋晴れの浅い水色で自分をあざ笑っているように見える。

 絶好の体育祭日和だ。


「なんでこうなっちまうかなぁ。雨にでもなれば中止とはいかないまでも延期はあり得るだろ。」

「トシ、こういう時に雨降ったことないじゃないか。」

「それはそう。確かにそう。だけどそんなのものは運の問題じゃないか。」

「チートかもしれないだろ?」


 そんなチートがあるのなら見せてほしい。


「まぁ、トシは強運だから。」

「馬鹿言え。」


 鼻で笑い飛ばしてやる。

 俺はいつだって付いていないのだ。

 こんな時には大体何か予想していないことが起こるし、何か嫌なことが起きる。

 三浜柳祭の時もそうだったではないか。何か変な奴が来て俺のせっかくの祭りをかき乱していったではないか。

 今回も嫌な予感がする。


 --------------------


 黒髪の女は手のひらにソフトボールサイズの何かを持っていた。

 それは人の言葉を極めて低い声で発し始める。


「今回 異能力者 数 把握?」

「違うわ。K9。今回は暴れて良いのよ。」

「了解 敵 殺害」

「あら、捕獲が目的って言われてたでしょ?」


 黒髪の女はべたついた髪の毛を指先でいじりながら、ソフトボールサイズのものをギュッと強く握りしめた。

 ソフトボールは茶色に変わり、甲高い声で嬌声を上げる。


「リソルブ 痛い」

「痛くしてるのよ。でないとあなた、私の言うことなんて聞かないでしょう。」

「殺傷! 殺害! 殺戮!」


 ケタケタと笑うソフトボールに黒髪の女が唾を吐きかける。

 ソフトボールはその中から刃物を取り出して黒髪の女に向けた。


「あら、やりあう気?あなたがその気なら私もその気になろうかしら。」


 ソフトボールは刃物を自分の中に仕舞った。


「そう、いい子ね。K9」


 黒髪の女は髪を艶やかに揺らしながら祭り騒ぎの人ごみの中に紛れ込んでいく。

体育祭、始まってしまいました。

また佐々木君がトラブルを呼び寄せていますね......

果たして佐々木はこの体育祭を無事に、そして満足のいく結果で終わらせることができるのでしょうか!?

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