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人に興味を持ってもらうためには自分が興味を持たなければいけない

「あ、佐々木だ。」

「あなたは......」


 同じクラスの女の子だ。だがあまり話したことがない。

 俺は人の名前を覚えるのが苦手だ。

 話したことがない女子の名前はすぐに忘れてしまう。テレビのアナウンサーの名前もアイドルの名前も全く分からない。人の誕生日なんかひとつも覚えていないし、下手したら明日が休日でもその日になるまでその事を知らないタイプである。


「まさか名前......まだ覚えられてないの!? もう半年だよ!?せめて自分のクラス人の名前ぐらい――」

「待てッ! ちょっと待ってくれ! 時間をくれ!」


 この子は確か、クラスのムードメーカーで色々なことにちょっかいを入れ口出しする目立ちたがり屋の人だ。確か同じリレーのメンバーだったはず。

 ここまで出てきているのに。ここまで出てきているのに!!


「おー、竹内と佐々木じゃねーかー! 何やってんだー!」

「そう! 竹内さん! 竹内朋美(ともみ)さんだッ!」

「なんでそんな『犯人はあなただッ』みたいなテンションで言われなきゃならないのよ!!」


 声をかけてきた木原のおかげで助かった。危うく名前を憶えていないところがバレてしまう所だった。


「まさか佐々木に名前覚えられてないとは思わなかったよ。結構あんた色々な人に無関心なタイプ?」

「な、名前は憶えてたじゃないか!」

「あれは憶えてたって言うのかな。」


 竹内さんが怪訝そうな目でこちらを見てくる。視線が痛い。


「そんなことより、どうしてこんな時間まで残ってるの?」

「リレーの練習だよ。」


 そう。俺はつい先ほどまで傑と一緒にリレーの練習をしていたのだ。おかげで何の役に立つのかは分からないが超高速バトン渡しを体得した。勢いで体得してしまったがホントに何の役に立つのか分からない。

 新浜さんは練習には来なかった。多分、色々な事で忙しいのだろう。

 思えば毎日放課後に残れる人間なんて言うのは、帰宅部で家に帰っても何もしていない人間ぐらいである。


「あー、竹内さんもリレーの練習なの?」

「すごい興味なさそう。そうよ。私もリレーやってたの。そこに居る木原君から受け取って新崎君に渡すの。」

「何で俺だけ君付けじゃないんだ?」

「え!? そこ!? うーん。つけなくても良いと思ったからじゃないかな? つける価値ナシってヤツ?」


 俺は絶句した。まさかそんな風に人から思われているだなんて。

 何かしただろうか。


「なんか、人に関わろうとする人でもないしつまんない人だなと思って。だから私も気を使う必要ないでしょ?」

「えぇ......」

「あはは。ごめんね。なら自分から私に関わるとかしてみたらどう? 実際名前も覚えてもらってないみたいだし。良いように扱ってほしいならそれなりの事しないと。」


 ぐぅの音も出なかった。これが俺に対する普通の反応なのかもしれない。

 この人は陰で言わずに面と向かって言ってくれている。それは素直に感謝すべきところなのではないだろうか。はたまた陰で言う価値もないということかもしれない。

 俺の周りに居る人は少し優しすぎるのだ。

 竹内さんはそれだけの悪口を言いながらも場の雰囲気を暗くすることなく話し始めた。


「それでね、新崎君も木原君もかなり足速いからバトンのタイミングが合わなくてね、でも『スピードは落とせないから取ってくれー』って言うもんだから私チョー大変なの。」

「へ、へぇー。」

「また興味なさそう。」


 竹内さんは薄い唇をとんがらせてそっぽを向いてしまった。

 どうしようか。無意識にそういう返答しか出来ないようになってしまっているのだ。

 そう頭を悩ませていると青天の霹靂の様に頭の中にアイデアが流れ込んできた。


「なぁ、超高速バトン渡しって知ってるか?」

「何それ?」

「今さっき俺が名付けたヤツ。役に立つかは分からないけど、何かの参考になるかもしれない。」

「ウソ!? マジで?」


 --------------------


 それから俺は木原を練習台に傑とやっていたことをトレースさせた。

 傑はチートを使うので中々同じようには出来なかったがそれでも走る速度に大きな差があることに変わりはない。

 竹内さんはあまり走るのが早い方ではない。中の下かド真ん中ぐらいだ。


「うおぉぉ! 出来たぁ! 出来たぞ! 何だコレ!? 凄い役に立たなさそうだけど何だコレ!?」

「凄い役に立たないけどなんかすごい高速でやってきた人でもバトンが渡せるヤツだよ。名付けて超高速バトン渡し。」

「そのまんまじゃん。」


 超高速バトン渡しはできたもののそれが何の役に立つのか分からずにゲラゲラと3人で笑う。


「でもなんか私も勘違いしてたみたいだなぁ。」

「何が?」

「佐々木ってもっと冷たい奴なんだと思ってた。」


 その言葉に俺は目を丸くする。

 まさかこんなことで印象が変わるなんて思ってもみなかったからだ。

 いや正確に言えばこれまでの俺に対する印象が何もなかったのだろう。


「俺には冷たいけどな。」

「うるさい。お前はそれぐらいで良いんだよ。」

「あれ? 褒めた!? もしかして俺、初めて褒められた!?」

「うるさいうるさい。ほんとうるさい。静かにしろ。それに褒めてない。」

「なんだぁ。」


 木原がしょんぼりとしている。

 コイツと話しているとなんだか高校生って感じがする。いつもは高校生活を感じる事なんてあまりないが木原は普通の男子高校生って感じだ。だから話していると俺が男子高校生ということを改めて思い知る。

 半年たてば生活に慣れてあの高校生活も中学の延長線だったことを思い知る。

 多分、木原みたいなヤツが友達に居た方が良いのだ。


「俺はお前と友達なんだろうか。」

「どうした急に!? ここまで来て友達じゃないとか言われたら今までの俺達の関係は何だったって言うんだよ!?」


 多分俺の中での友達というハードルは他の人が思っているそれよりも数倍高いのだ。

 それを乗り越えたものにしか友達という位を与えない。それが俺のコミュ障の一つの要因だ。


「そっか。友達だったのか。」

「今更だなぁ。」


 感傷に浸っていると竹内さんが上目遣いでこちらを見ているのに気が付いた。この人はあざといのかそれとも奇をてらっているのかまだ良く分からない。


「どうしたんだ。」

「私だけ置いてけぼりだなーって思って。」

「それはすまない。」

「別に良いですぅー。」


 竹内さんはそっぽを向いてどこかに行ってしまった。

 木原は苦笑いしながら彼女を追いかけて行った。俺も行った方が良いのかと思ったが足がすくんで動けなかった。怖いわけではなかった。

 ただ行っても何にもならないだろうと思っただけだ。


「俺、やっぱり最低だな。」


 自己嫌悪を聞いてくれる人はそこにはおらず、ずっしりと重荷のようにのしかかった。

体育祭、一体どうなるんでしょう。

竹内さんとの関係はとりあえず上手くいった......のかな?

佐々木はこれからも負けずに頑張っていくしかないですね。


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