一番は大事なものだろうか
「ジャッジマン!! 今年もやるぞ! その名もチーターズパーティー!! どうだ面白そうだろう!」
「全然面白くないだろう。なんで文化祭で超常現象起こしてさらし者にならなきゃならんのだ。それに今年はそんなにチーターが居るわけでも無いだろう。」
「貴君、俺がそんなことに気が付かないとでも思っていたのか? そのことならもう話はつけているぞ!」
「こういうときだけ動くのが早すぎるんだよ......」
自称魔王の13番目の落とし児、オルクス=ルシフェノン。本名、田中太一。黒狼団の団長にしてチートをこよなく愛す一般人である。
そんな中二病をこじらせた彼は、お手製のマントを翻して偉そうに高笑いした。
「昔の連中にも声をかけておいた。黒狼団のメンバーは何人か来る予定だぞ。」
「そんなこと言いなが当日にドタキャンされるんだろ? 分かってるんだからな。」
「貴君、疑り深いのは誇っても良い事だが、仲間も信じられない人間は何も信じられるわけがないぞ。」
「それっぽい良い事を言うんじゃない。」
やれやれと言うように首を振る。
オルクスはかなりロマンチストで人の言葉をそのまま信じてしまうところがある。純粋と言えば聞こえは良いのだが、もう少し人を疑うことを覚えてもいいのではないかと思う。
それにアイツらの大半はチートの無い中二病の集まりだ。いくら来てもサクラにしかならないだろう。使えないと言っているわけではなく、手伝ってはくれないのだろうと容易に予想が付いてしまう。
野次馬根性しか無くて自分を正当化するのにチートを利用していたような連中がほとんどだ。
ようするに意気地なしなのだ。
「それでは貴君! 計画書の提出を求める!」
「えぇ......誰が来るかもわかっていないのに計画って何だよ。」
「誰が来ても最大限の事が出来るように計画を練ってくるのだ!」
「無理難題じゃないか。」
俺に何を期待しているのだろう。
どいつもこいつも俺ならどうにかしてくれると思っているのだろうか。
「期待しているぞ! 全国のチーターが君の働きを応援しているはずだ。」
「そんなことは無い。」
オルクスはマントを翻して向こうに行ってしまった。
長いマントの裾を踏んだのか途中でこけて、それを見ていた人に軽く頭を下げ、マントを取り外しきちんと丁寧にたたんでカバンの中にしまい込んだ後、廊下を足早に駆け抜けていった。
そう悪態を吐きながらも断れないのが俺の悪いところだ。
ただ腹が立つ人間というだけならこんなことを頼まれても無視するだけなのだが、何故か憎めないのだ。
そこも含めて腹が立つのだが。
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「中々、様になってきたみたいね。」
「お褒めに預かり光栄でございます。」
「そのふざけた態度は嫌いよ。」
新浜さんが放課後のリレー練習に付き合ってくれている。
俺は少しずつ受け渡しに慣れてきて今ではバトンを落とすこともほとんどなくなった。まぁ、数日間頑張ってもこの程度と言われてしまえばそれまでなのだが。
「これで大方バトン渡しの練習は終わったかな。」
「本番は緊張するから今のままでは十中八九バトンを落とすわよ。トップ選手でもバトン渡しでミスをして大幅なタイムロスになったり、最悪失格になってしまうこともあるのよ。」
「そんなこと俺に言われても困りますよ。今からトップ選手になれって言うんですか?」
自分でも意地悪な答え方だとは思っていたが、俺も新浜さんの言うことに悪意を感じたのでお互い様と言ったところだろうか。
新浜さんは頭を抱えてため息を吐く。癖になっているのではなかろうか。
「貴方には自主的に頑張ろうという意思が足りないのよ。」
「頑張ってるんだけどなぁ。」
「自分で頑張っていると思っているうちはまだ頑張り切れていないものよ。本当に頑張っている人はどこまでやってもまだまだ足りないと思うものなの。」
俺はその言葉を迷いなく発することが出来る新浜さんに何か自分とは違うものを感じた。少しこの子は危うい感じがする。
上手く言い表せないのだが強い芯が一本通っているのに、その芯は折れたことがないせいで何かがあった時にとても脆くて、折れてしまったらとてつもないことになってしまう気がする。
せめてその芯を支えている物が強固であればいいのだが。
「ところで肝心の走りの方はどうなの? 100mのタイムは?」
「まぁ、普通の人並みかなぁ......」
「そう。それで? タイムは?」
「タイムなんて分かるはずないだろ。」
「え?」
普通の人間がそんなこと覚えているはずがない。そもそもタイムを測る機会が少なすぎてタイムを安定させることも出来ないのに、そんなタイムに意味はあるのだろうか。
「測ったことないの?」
「それぐらいはあるが、何秒かなんて正確な値はわからないでしょう?」
「あなた、本当にズブの素人なのね。」
呆れたような声を出しながらまた頭を抱えている。
「本当に一番になれるのかしら。」
「前から思ってたんだが、一番ってそんなに大切な事なんですか?」
「......」
新浜さんが黙り込んだ。呆れた目をしていた。まるで汚物を見るような目だった。
「やるからには一番を取らなければやる意味はないわよ。」
「でもこういう体育祭って過程が大事って言うでしょう。」
「......私はそういう生ぬるいことを言って、結局何も頑張らない人間が一番嫌いよ。」
俺に話しかけているわけではないような気がした。むしろ自分に言い聞かせているようなそんな雰囲気だった。そう言って自分に暗示をかけているような、そんな気がした。
「そういう人間に限って何かを必死に頑張ったことなんてないの。上手くいかなければすぐに言い訳の様にその言葉を使うのよ。」
「それが許せないんですか?」
「私はそんな人間にならないし、そんな誰かのせいで私の行為を無駄にされたくはないの。」
彼女は特定の誰かに私怨を感じているわけではなかった。
でもそんな私怨よりも強い心でその人種に対して恨みを持っているようだった。
「それに私がそんな人間になってしまったら合わせる顔が無いもの。」
「え?」
「少し喋りすぎたわ。」
彼女は足早に帰っていった。
俺を振り向くこともなく逃げるように去って行く、彼女を俺はただ見送るしかなかった。
ゾワゾワとしたものが心を掻き立てた。
あまり良い流れとは言えませんね。新浜さんの心に焦りが見えます。
佐々木君も責任重大で大変ですね。私だったら佐々木君の役回りだけはしたくありません。