青春は甘酸っぱいというより苦い
「なるほど、つまり俺はなんとも思われていなかったということか......何か悲しいな。」
「まだどうにでもなるさ。」
「あぁ、そうだな!これから俺の事を好きになって貰えるように精進し直そう!」
「頑張れよ。」
自分としては複雑な気分だが人の純粋な気持ちを自分の思いで無理矢理ねじ曲げるほど俺は野暮ではない。
俺の見極めは既に終了していた。
めんどくさそうで不器用だが、悪い奴ではない。雨姫がそれを望むなら、彼氏として及第点をあげなくもない。
そうと決まれば俺は応援してやりたいと思った。
俺にはそれしか出来ないのだから。
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それから内藤は少しずつ雨姫との距離を近づけようとかなり努力していた。普通の女子ならすぐに仲良く話せるぐらいにはなると思うのだが相手が雨姫となれば話は別である。
さりげなく隣に座ろうが見向きもしないし、話しかけても自分に話しかけられたことに気づかないことさえある。言うまでもなく雨姫は話すのが得意ではないので、会話がスムーズに進むわけもない。
教室移動でもさりげなく隣から話しかけているのに、挨拶以上の話に発展したためしがない。
内藤はさりげない気遣いも見せていた。教室移動の時は率先してドアを開けたままキープしてあげたり、物が落ちたら動きの遅い雨姫の代わりに拾ってあげている。遠目に見ている俺でも分かる気遣いだ。
それを何日も続けている。まだ何日かしか続けていないと言ってしまえばそれまでであるが、普通の人間なら「こいつ、私に気があるんじゃないか?」ぐらいは意識しても良い頃だろう。
「で、内藤のことはどう思ってるんだ。」
「......良い人。」
これである。
俺だったらもしかしたら諦めているかもしれない。どうやっても気づいてもらえないのだ。むしろどこまでやったら気づかれるのか試してみた方が早いと思う。
内藤が不憫になってきた。
「そうか。気長に続けていくしかないな。」
「お前ホントに良いヤツだったんだな。」
「諦められないだけだ。」
最初に出会った時はスポコンでリーダー気質なので、ほんとにめんどくさいと思っていたのだが、まさかここまで一途だったとは正直驚きである。
「こうなったら勢いで押し切ってみないか?」
「どういう意味だ?」
「いっそのことダメ元で告白してみるんだよ。今のままだと記憶に残れるかどうか分からないから、友達から始めるって形でフラれてもプラスだろ?雨姫なら多分友達から始めるという言葉も言葉通りにしか受け取らないはずだ。」
「えっ......いきなりやるのか......?」
内藤が困惑した顔をしていた。困惑というより恥ずかしがっていると言った方が正しいだろうか。
「方法はそれしかないような気がするんだが。」
「そうか? もっと他に......いや、確かにそれが一番早いかもな。」
どうしたのだろう?
こんなに早く案を採用してもらえるとは思っていなかったので少し疑問に思った。普通ならいきなりそんなことを言われたらもっと迷うはずである。
「言わなければ伝わらないこともある。この数日間ではっきりと身に染みて分かったんだ。」
「内藤......お前そんなに苦しんでたのか......」
確かに好きな女の子からあれだけの扱いを受ければ、俺だって良い気はしない。もちろん雨姫にそんな気はないのだが無自覚ゆえに人を傷つけてしまうことだってある。
「よし、行ってこい!! 今回は下駄箱に手紙を入れて呼び出しても良いんだぞ!」
「前のはダメだったのか?」
「ダメだよ。告白とかの時以外ああいうのはしちゃいけないんだ。」
「肝に銘じておこう。」
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「いよいよこの時が来たな。」
「大丈夫だろうか......手紙は読んでくれているだろうか......もしかしたら読まずに投げ捨てているかも。」
「いや、それは無い。雨姫はそういうことはしない。ただ、手紙をポケットに入れたまま読み忘れているということはたまにある。今回は読むように勧めて来たから大丈夫だ。」
「恩に着る。」
「なぁに。良いってことよ。そんなことより頑張れよ。」
この数日間で俺と内藤の仲はとても良くなっていた。お互い何を考えているのかが分かり始めた感じである。
それもこれも雨姫のおかげ......いや、雨姫のせいである。
「誰か来たみたいだ。」
「俺はそこの物陰から見ておくから。」
「あぁ、俺の成功を祈っておいてくれ。」
屋上の扉が開いた。
入ってきたのはいつも通りの無表情の雨姫だった。彼女が一体何を考えているのか俺にも分からない。正確には何も考えていないのかもしれない。雨姫はそういうことがたまにある。ただこの状況下でも何も思い当たる節がないというのは流石としか言いようがない。
「......何?」
「雨姫さん......あの......俺!のことどう思ってますか?」
「どうって......どう?」
雨姫が小首をかしげる。
内藤! そこで日和るんじゃない!! 行け! 押せっ!
自分ではどうにもならないことを人を応援することでどうにかしようとしている。気分は野球観戦だ。
「いや、どう思われていたってかまわない! 雨姫さん! 俺は貴方のことが好きだ!!」
言ったぁぁ!!ついに言った!!
まるで俺が告白したかのように体中が熱くなる。自分が隠れていることを忘れて叫んでしまいたいぐらいだ。
「......そう。」
「俺と付き合って下さい!!」
「......付き合う?」
嫌な予感がした。まさかとは思うが......
「......付き合うって何?」
「「そこからだったか......」」
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「それで内藤君の恋は玉砕したの。」
「あぁ。不憫な話だ。でもまだあきらめてはいないらしい。それどころかまだチャンスはある!なんて言ってたよ。」
俺はそのことを小日向さんと話していた。
俺と内藤だけの秘密にしようとしていたのだがやっぱり止めた。これで完全に失敗したのなら内緒にしておこうと思ったがそうでは無い。ならば協力者は多い方が良いではないかと思ったのである。
「でもそれって野暮じゃないですか? 人の恋路にそこまで口を出してはいけないような気もします。」
「言われてみれば確かに。」
「私は何もしないのが一番だと思いますよ。」
「結局俺達には何もできないのか。なんだか煮え切らないな。」
「まさに青春って感じですね。」
モヤモヤとした気分は青春の象徴のように心の中に居座り続けていた。
内藤君不憫ですね......
ちなみに佐々木君が聞いてみたところ、雨姫は無口でガールズトークもしなかったため付き合うという言葉はそのままの意味でしか知らなかったみたいですよ。それにしても知らないって......世間知らずもここまでくれば一級品ですね。
ともあれ次回からは体育再編!秋も深まってまいります!!




