恋心は無情だ
「内藤ぉぉぉぉおおおおーーーー!!俺のこの純情を返せぇぇぇぇええええーーーー!!!」
俺の心は粉々に砕け散った。童貞のささやかな純情は期待もしない形であっさりと裏切られ、慟哭は空に消えていった。目の前に佇む内藤は怪訝そうな顔をして屋上の手すりにもたれかかっていた。
ひとしきり叫んだら急にテンションが下がった。自分がしていた行為がなんだか非リア充の僻みのようなものに思えて冷静になってしまった。なりたくもなかったのに。
なんだか深夜テンションのまま徹夜でくだらないゲームをしていて、いざ朝になると「何でこんなゲームを一日中していたんだろう?」なんて考えてしまい疲れがどっと出てきて、そのまま倒れ込むように眠り起きると夕方でものすごく損したような気分になるアレによく似ている。ソースは俺だ。
「あんなまわりくどい方法で呼び出さなくても良かっただろ。」
「別にいいだろ。呼び出し方なんて。」
よくない。絶対よくない。
「それより何の用だ。」
「あの......そのだな......」
丸坊主の頭が秋の爽やかな日差しに照らされて煌めいた。
照れているのか言い出しにくいのかは分からないがもじもじしている。告白するわけでもないのだからそんなにモジモジしなくてもいいのに。いや、告白されないのか?ほんとにそう言い切れるのか?俺は男だが、それだけで否定する理由にはならない。
それはホントに困るぞ!?
「佐々木、お前と雨姫さんはその......どういう関係なんだ?」
「は?」
予想の斜め上を行く返答に俺は思考停止してしまった。
確かに俺たちの関係をひけらかしにはしていない。言っても多分良く分からないと思うのでそれなら言わない方が良いと思っていたのだ。
一緒に家から出てくるところを見られたのか?だとしたら誤魔化しは効かない。
「お前らが一緒に登校してくるところを見たんだ。それも何回も。でも特別親しい感じもしなかったからどういうことか聞きたいんだ。」
「どうしてそんなこと聞きたいんだよ。」
「それは......その、だな......」
「なんだよ。」
またもじもじしている。そもそもなんでそんなことが気にかかるんだ?
余りにも一緒に歩く姿がぎこちなかったからか?最初の頃は気を使っていたが夏休み前頃になるとその必要もなくなってしまい、無言で学校まで一緒に行けるようになってしまった。
確かに違和感があるかもしれない。
「俺、実は......雨姫さんのことが好きなんだ。」
「はーーー。へ?」
俺は一種の放心状態にあった。雨姫さんのことが好きなのか。そうなのか。
あっ!?雨姫のことが好き!?
その言葉が脳内で変換される数秒のラグと共に訪れたのは驚きでも疑問でもなく困惑だった。
だから俺にどうしろと言うんだ!?
まさか恋のキューピッドでもしろという訳ではないだろうな!?恋愛の一つもしてこなかったこの俺にそんな役目をさせるなんて愚の骨頂だぞ!?
「で、どういう関係なんだ。」
好きだということを聞くまでは何でもない関係だと言おうとしていた。でも気が変わった。
「俺は雨姫の兄だ。」
「......は?」
「俺はアイツの兄ちゃんだ。」
「おいおい。下手な冗談はよせ。お前と雨姫さんでは全然顔が違うではないか!お前は根暗そうなイメージしかないが、雨姫さんはとても可愛いではないか!」
「それは俺を馬鹿にしているのか?雨姫はうちの養子として引き取ったんだ。だから俺の家族。とある事情で年齢云々は言わないが、俺の方が兄だ。」
実質的には年齢に二倍ほどの差がある。6年前に失踪届けが出されており失踪宣告の取り消しと共に孤児院への養子の申し入れをした。法的に言えば俺の方が弟だ。だが、それでは色々面倒くさいことになるし、きちんと高校に行きたいという雨姫の思いもあって同じクラスに転校という形になった。
だから俺の方が兄だ。
「えぇ......?」
「受け入れろ。そして俺を納得させるんだ。」
「納得?」
そうだ。俺はその為に自分が雨姫の兄であることを明かしたのだ。
はっきり言おう。俺はシスコンだ。妹達のことが可愛くて可愛くて仕方がない。ましてや雨姫は頼りないので俺からしてみれば面倒を見てあげなければいけない妹だ。手元から旅立たせるのは不安しかない。
「お前が雨姫と付き合うためには雨姫の気持ちが一番重要だ。だが、次に大事なのは俺の気持ちだ。俺の許可なしに雨姫に告白するのは許さん。」
「は?」
外道と言われようが、シスコンと言われようが、変態と言われようが構わん。
たかが彼氏だろうが雨姫を信用できない男に渡すわけにはいかない。
「大体、雨姫のどこを好きになったんだ!言ってみろ!」
「はぁ!?なんでお前にそんなこと言わなきゃなんないんだよ!?」
「良いからつべこべ言わずに言え!」
何様のつもりだと思われているかもしれない。
しかし、これはお前の気持ちを試すためのいわば試験だ!必要な行為だ!
「それは......雨姫さんは小さくて可愛いし、素直だし、文化祭の時には一緒のシフトだったのだが、横から見ていて一生懸命な姿がなんというか......とても愛らしかった。特に料理を運ぶ姿が......言葉では言い表せない。あまり話さない子だけれど......いや、だからこそ、雨姫さんのことをもっと知りたいと思ったんだ。」
「お前......なかなか分かってるじゃないか。」
「おぉぉ......?」
中途半端な気持ちなら一蹴してやろうと思ったが中々見所があるではないか。
自分の娘が褒められたような気分だ。自分が褒められたわけでも無いのにかなり嬉しい。中々良いじゃないか。
「雨姫に彼氏はいない。だがまだ告白することは許さん。まだお前の気持ちが確認できてない!」
「......どうすればいい。」
「数日かけて俺を納得させてみろ。俺は中途半端で雨姫の事を大切にできないヤツのことを認めるつもりはない。俺に証明して見せろ!!」
「あぁ。証明して見せようじゃないか!!」
二人で屋上。叫びあう。
......何をやっているんだ俺たちは。
佐々木君はすぐに熱さが冷めてしまうんですよね。熱くなりやすく冷めやすい人間です。もうちょっと本気で熱くなるためにはそれなりの理由がいるんです。
バカになりきれない人間っていうのも考えものですね




