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秋晴れには純情を

俺は9月1日という日を殊更に特別に感じたことはない。夏休みからまたいつもの日常に戻る。ただそれだけのことである。

世間では自殺人数が一番多い日だと騒がれていた。そんなに学校に行きたくないなら学校に行かなければ良いのに、なんて事を思ってしまうが、そんなに簡単なことでも無いのだろう。


俺は制服のボタンを止めながら、学校に行きたくないと駄々をこねる由佳の尻を叩き、久しぶりに結ぶリボンの結び方が分からなくなってしまった雨姫のリボンを結んでいた。

由佳は「昨日の真夜中まで夏休みの宿題をしたので眠たいから今日は休む」などと訳の分からないことを口走っていた。それなら宿題を夜中にする意味が無いだろうが。


家を出て由佳を中学に送り出し、俺と雨姫は高校へ向かった。

こうやって2人で歩いていると傍から見ればカップルのように見えているのかもしれない。どう見ても年が同じ兄妹という風には見えないだろう。

カップルに見られること自体は良いのだが、歩いている間に話すことも無いので一直線に学校に向かうだけなので、それで喧嘩中かと思われるのは癪に障る。

そしてそういうのが気になる年頃と言われるのはもっと腹が立つ。


面倒臭い人間だ。


学校につくとクラスメイトはどんよりとしたオーラを放っていた。入学式の時とは大違いである。新鮮さの欠けらも無い。


「おはようございます!佐々木君!」

「あ、おはよう。小日向さん。」


小日向さんは相変わらず元気だ。感心する。スタンディングオベーションしたいぐらいだ。

とん、と肩に手を置かれる。悪い予感がして肩を置かれた方とは反対に振り返る。


「むぐっ。」

「おはよう、トシ!」

「お前とはおはようしたくない。一生家にこもってろ。」


そこでは(すぐる)が意地汚い笑みを浮かべながら俺の頬に指を当てていた。

こうして俺の二学期が幕を開けた。


--------------------


幕を開けたところで始まるのは、変わり映えしない退屈な日常である。小日向さんと笑い合い、傑に悪態を吐く。実に退屈。人によっては恵まれていると言うかもしれないが俺にとってはこれが普通なのだ。


だが、予想外は突然起こる。例外なく突然なのだ。


始業式が終わり下駄箱に帰る。

校長の長ったらしい話を校庭で聞かされうんざりしながら、上履きを出そうと下駄箱の扉を開いた。

その時にハラりと落ちかけた物を俺は見逃さなかった。

一瞬で掴み取り、瞬時に状況を判断し、誰にも気づかれないように懐に収める。


手紙だァァァァァッ!!!!


心臓の鼓動が昂っているのを誰にも気づかれまいと下を向きながら歩く。手紙を貰ったことさえ誰にも気づかれていないッ!!


まさか俺にもこんな青春な感じのするイベントが起こるとは思ってもみなかった! チーターなのだから何かしらの恩恵はあっても良いだろうなんて事を、一人悶々と考えた日がどれだけあっただろう!

靴箱、手紙、なんて古典的な手法だ! 今どき告白なんてものはどんな媒体でもできるというのに!


俺は人の目を気にしながらクラスに戻った。音を立たせないように席に着くと、手紙を慎重に開ける。


『放課後、屋上で待っている。』


古典的! お決まりのパターン!!

こんなにも踏襲する必要があるのかと思うぐらい自然な流れだ!!

しかし妙だ。ラブレターならもうちょっと装飾すれば良いのに随分と質素だ。字も堅い。

まぁ、こんな古典的な方法を取る人だろうから、結構お堅い人なんだろう! 字だって緊張しながら書いたらこんな風になる! 俺だって多分そうなる!


相手は一体誰だろうか。

お堅いと言えばこの学校の首席で入って来た新浜香奈さんだ。もしくは引っ込み思案という点を踏まえれば、文化祭で一緒に料理に配属された原田千歳さんということもある。

もしかするといつも話しているから言い出すタイミングが見つからず、やむを得なく下駄箱にラブレターを入れた小日向さんという可能性も!?

待て待て。

俺があまり話したことの無い女子かもしれない。もしかしたら他クラスから気になる俺のことを遠目に見ていた、臆病な女の子とかかもしれない! そんな女の子が居たら真っ先に気づくとおもうのだが、俺は実は鈍感なのかもしれない......罪作りな男だ。


「トシ、顔が赤いぞ。どうかしたのか?」

「な、なな、なわけあるかい! お前さんよぉ!」

「ふーん......そうか。」


傑はフッとニヤけてどこかに行った。

まさかバレていないよな。手紙は隠していたはずだよな? 見られてないよな?


しかしそれから何も起こることは無く放課後を迎えた。俺の胸の高鳴りは最高潮に達していた。今なら周りの目も憚らず廊下でタップダンス出来てしまいそうである。


「あだッ」


少し浮かれすぎて屋上に向かう階段の手前でコケてしまった。クスクス笑う女子や、痛そうだと目を閉じる男子を後目に俺は何も無かったかのように歩き始めた。

少々浮かれすぎである。そもそも告白されたらどういう答えを返すんだ?

俺には小日向さんという片思いしている人が居る。にもかかわらず、他の人をOKして良いのか? 大抵の場合は多分断るだろう。でも俺は押しには弱いタイプである。ちゃんと断りきれるのか?

もしも絶世の美女が俺に告白してきたとしたら俺はどうすれば良いんだ!?


「迷う......」


まだ何も決まっていないにもかかわらず、勝手に迷っている。

なんて気が早いんだ。


そんなことを考えながら俺は屋上の扉まで来てしまった。

俺は屋上の扉に手をかけて1回手を離す。もう一度かけてはまた考え込んだ。


この先に人が居る。居るとは思うのだが、もしも居なかったらどうする?

俺はかなり早いスピードで放課後が終わってから、屋上まで上がってきてしまった。何の躊躇いもなくである。

告白される側の方が待合場所に先に来るってそれはそれで嫌じゃないか!? 期待してずっと待ちぼうけを食らわされていた感が出てしまうんじゃないか!?

それは男としてプライドが許さない。

どうする!?

それでも行くしかない! まだ来ていなかったらその時はちょっと離れたところで待とう!


手汗でぐっしょりと濡れたドアノブを服の裾で拭いながら、息を整えてドアを開ける。

人影が見えた。


綺麗に切りそろえられた黒髪、高い身長、ピンと伸びた背筋、がっしりとした体格、毛のほつれ一つない男性服のズボン。


「よう、佐々木君。遅かったではないか。君と話すのは久しぶりだな。同じクラスだと言うのに。」


俺の心が音を立てて壊れるのが聞こえた。


「内藤ぉぉぉぉおおおおーーーー!!俺のこの純情を返せぇぇぇぇええええーーーー!!!」


その声は秋晴れの遠い空に高らかに響いた。

二学期編始まりました!

今日も三浜柳市は平和です!

男の子の純情を持て余した輩は入学式オリエンテーション以来の登場である内藤君でした!別に覚えていなくても結構ですよ。

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