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美少女の笑顔は理性さえも破壊する

予想通りその中は人だらけだった。

人々をかき分けながら進むというほどではないが前に進もうとしてもなかなか前に進めない。


「別にそんなに急いで前に行く必要もないじゃないですか。」

「そうなの?」

「そうですよ。色々、出店があるんだからゆっくり見ていけば良いのに。」

「そういうものなのか......」


こうたくさんの出店があってはどこも同じような気がする。

確かに色々な物が売っているがどれも値段が相場より値段が高いし、ここで買わなくても近くのスーパーで買えばもっと安く買えるだろうなんて思ってしまう。

単に俺の貧乏性のせいだが、お金を使い慣れていないというのもあるのかもしれない。


「こういう時はケチっちゃダメなんだぜ。」

「そうだよ!おにーちゃん!ただでさえいっつも使わないのにいつ使う気なの!?」

「うーん。分かってはいるんだがな......」

「......ドケチ。」

「直接的すぎる罵倒。俺でなきゃ耐えられないね。」


じゃあ、と言って小日向さんの振袖が俺の目の前で揺れた。ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐる。こちらを振り向いた時におさげの髪がふわりと宙を舞う。


「そこのりんご飴、私に買ってもらえませんか?」


俺は目の眩むような光景に理性が揺らぐのを感じた。


--------------------


結局、小日向さんにりんご飴を買ってあげると、由香と雨姫も便乗するように欲しがったので出費は三倍に膨れ上がってしまった。ワンコインを余裕でオーバーし、一枚お札を出してしまった。

だがそのおかげで自分が買えたものもある。


「何、ジロジロ見てるんですか?」

「そんなにジロジロ見てたか?」

「そうですね。いつもの佐々木くんの5倍はジロジロ見てます。」

「いつもの俺も結構見ていたのか......」


小日向さんは俺をからかうようにそう言うと、りんご飴片手に小さく笑った。

りんご飴をなめている姿は天使と言っても過言ではない。小さな舌が少し出てきては飴を舐めとり口の中に戻っていく様をじっと見ていると、俺のすさんだ心がなんだか浄化されるような気がした。そんなものを見て浄化されるような心は心の底が腐りきっていると言われそうである。


「私たちも可愛いでしょー。」

「おう、可愛い可愛い。」

「感情がこもってなーい。」

「演技は下手なんだ。お前も知ってるだろ。」

「何だろう、この敗北感。」


ぐぬぬ、と唸っている由香は放っておくことにする。

下手に手を出すと俺の腕まで引きちぎられそうだ。

雨姫は俺たちがそんなやり取りをしている間も一心不乱にりんご飴をしゃぶり続けていた。美味しそうに食べている。

これは自分の分も買っておくべきだったかななんてことを思い、顔を振って思い直す。

いかんいかん。財布の紐がかなり緩んでいる。しっかりしなければ。


--------------------


そう自分に念押ししたは良いものの、いつもの日常とは違った雰囲気に俺は浮足立っていた。

むせ返るような熱気の中だがそんなことも忘れてしまうくらいに小日向さんは可愛かった。

気の向いた出店に立ち寄り、気ままに遊んで盛り上がるのもなかなか悪くない。自分は良い格好をしようとしてことごとく失敗してしまうのだけれど、それを笑ってくれる小日向さんにとても救われたような気分になった。

妹達は茶化してくるが、それは気にせず放っておくことにする。

傑は格好付けてるわけではないがイケメンなので何でも似合ってしまうのだった。おまけにそつなく何でもこなしてしまうし、気配りもできる。由香が猫撫で声を上げながら傑に近づいていた。俺はそんな妹に育てたつもりはないぞ。


「次、あれやりましょう!」


小日向さんがノリノリで指さしたのは金魚すくいだった。


「まさに祭りって感じだな。」

「金魚すくい、いつ以来やってないかな。結構久しぶりに見た気がする。」

「まぁ、こういう所来ないと出来ないしおにーちゃん引きこもりだからねー。」

「そういうお前はどうなんだ。」

「私は毎年見てるもん。」

「まさかここまで綺麗なブーメランが返ってくるとは思わなかった。」

「......私は初めて。」

「雨姫は初めてでも案外上手くできたりするから侮れないんだよなぁ。」


俺はそんな雨姫を尻目に見ながら、金魚すくいの店前で五人分のポイを貰った。


--------------------


「こういうのは慣れてないんだけどなぁ。」

「体動かすもの大体向いてないですよね。」

「なかなか小日向さん鋭いね。でもこの世のものは大体、体を動かすものだらけだから、それが出来ないって言われたらかなりの大ダメージ何だよなぁ。」


自分のマイナスなことを話す時には小声で早口になってしまう。陰キャの塊のような戯言を放ちながら金魚の入った水槽を覗き込んだ。

こうやって向き合うとどこからポイを突っ込んで良いのか分からなくなってしまう。

そんなに祭りに来ていなかったかと思いながら俺は自分の中学生活を思い返していた。


「よっと。うー。」


近くから聞こえた小日向さんの声で現実に戻ってくる。

ポイから飛び跳ねてまた水の中に戻っていく金魚が見えた。


「難しいですね。」

「まぁ、そう簡単にはいかないんじゃないですか?」

「佐々木くんも、もっとやる気だして下さい!」


小日向さんが振袖を腕の肘のあたりまでまくり上げて、ポイを必死に動かしていた。

服の袖から覗く上腕がスッと伸びていた。


小日向さんにそう言われては仕方ないので少しだけポイを水に浸ける。

今にも破れてしまいそうなこのポイでも救い上げられるのだろうか。そう思いながらやってきた金魚をすくいあげようとするもすぐに逃げられてしまった。

これは一筋縄ではいかないらしい。

慎重なのがいけないのだろうか......いや、多分そうでは無い。

慎重なのは良い事なのだ。そして時期が来たら......一気に牙をむくッ!!


--------------------


「結局取れませんでしたねー。」

「小日向さんこそ取れなかったじゃないですか。」

「仕方ないでしょー。アレは難しいですよ。」


そんな俺たちの手には一匹ずつ金魚の入ったビニール袋が手渡されていた。金魚の店番のご主人の好意にすがった形である。

そして傑の手には沢山の金魚が入っていた。


「俺、こんなに取るつもりじゃなかったんだけどな。ついつい熱が入っちまった。」

「凄いです!傑さん!」

「お前は何でもできるから良いよなぁ。」

「こう見えてもイケメンだからな!」


そう言って胸を張った。


「それで雨姫。それはどうしようか。」

「......どうするって?」


雨姫は一際大きい金魚をすくいあげていた。水槽のヌシである。

雨姫は意外に大物狙いなところがある。しかし、それでちゃんと取ってしまうのが驚きだ。

俺ならそんなハイリスクなことはできない。

デカいまだら模様の金魚がこちらを見つめながらどっしりと構えていた。

なんだかふてぶてしいその立ち振る舞いになんだか自分に似たモノを感じる。

好きになれないなと思った。


「じゃあ、次の出店に行きましょうか!」


夏祭りはまだ始まったばかりだった。

佐々木君楽しそうですね。いいなー。自分もこんな楽しい夏が過ごしたいですよー、まったく......

夏祭り編はまだまだこれからですよ!

次回もよろしくお願いします!

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