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夏祭りには浴衣が映える

「おにーちゃんはちょっと出てて!」


ここは由香の部屋の前。

俺は部屋の外から二人の妹達が色々と言いあいながら着替えているところを、外で待たされているのだった。少しの間どこかに行っていようかと聞いたのだが、それはいけないらしい。

これを羨ましいと思うのは多分これを経験したことが無い人間なのだろうと思った。

男の着付けはすぐに終わるのだが、女の子は色々とやることがあるらしい。こういう時に俺は自分が男で良かったと思う。


廊下の壁を背にもたれかかっていると不意に部屋の扉が開く。妹がドアの隙間からひょっこりと顔を出してニヘラ~と笑っている。


「出来たよ!おにーちゃん!入って!」


出ろと言われたり、入れと言われたりでとても忙しい。

俺は部屋の中に入りその光景に思わず感嘆の声を漏らした。


それは二人の浴衣姿だった。

雨姫の浴衣は裾の長い藍色と紫色のコントラストが大人さながらの妖艶さを引き立てている。由香に化粧をしてもらったのだろうか、少し濃いめの口紅が印象的に映えていた。いつもは長くて顔にかかり気味の前髪が黒い髪留めで止められていた。

対照的に由香のは裾がひざ下ぐらいの物で黄色の地の色に橙色の花柄がちりばめられた今時なスタイルだった。少し幼げにも見えるが逆にそれが由香の元気さと合わさり由香の魅力を全面的に引き立てているように思えた。流石、我が妹。勉強はからっきしでもこういう時は抜かりがない。



「どう?おにーちゃん!似合ってる!?」

「おう、すごく似合ってるぞ。」

「やったー!」

「......いえーい。」


ハイタッチする雨姫と由香を見ていると急に自分に自信がなくなってきた。

ちゃんと自分はこれに見合うぐらい着こなせているのだろうか。

俺のは黒の地にところどころに白のストライプが入った浴衣だった。帯は青と白の縞模様である。正直、少し地味ではないか?大丈夫か?俺、これに釣り合ってないんじゃないか?


「大丈夫だよ!ね、うたかちゃん?」

「......うん。似合ってる。」

「そうか?変だとは思わんが......俺、正直、見劣りするんじゃないか?」

「うーん。素材が素材だからねー。浴衣は似合ってるんだけどねー。」

「それ、俺の力ではどうにもできなくないか?」

「ウソだよ!ウソウソ!さっさと行こ!」


そう。

今日は夏祭りの日。

俺には縁遠いと思っていたこの日がついにやってきたのだった。


--------------------


「待ち合わせってここで良かったんだったっけ?」

「そのはずだが......あ、来た。」


向こうから手を振っているのは傑だった。

明るめの青を基調として淡い青色で菱文が描かれていた。帯は紺色で腰のあたりに扇子を挿している。ルックスの良さもあってか周りとはそこだけ雰囲気が違うような気さえしてしまう。


「待ってた?」

「まだ時間前だよ。」

「やっぱり傑さんは何を着ても似合いますね!」

「ん?あぁ、ありがとう。由香ちゃん。」


そう言いながら傑はポンポンと由香の頭を優しく撫でた。由香は......もはや特筆することは無い。

まさしくイケメンの為せる業。ここで俺の妹に手を出したら許さない、なんて言うと俺から本当に小物臭がしてきそうなので口をはさむのはよしておこう。


「小日向さんはまだ来てないんだ?」

「まぁ、まだ待ち合わせ時間前だけどな。」


しかも驚きの30分前。俺は由香に急かされるように来てしまったがやはり早かったと後悔する。

傑はいつも間に合わせにはかなり早く来る。心持ちからしてイケメンとは憎めなさ過ぎて逆に憎い。


「あ、みなさーん。お待たせしましたー!」


遠くから声が聞こえた。聞きなれた声だ。まさかこんな早い時間に聞けるとは思っていなかったが。

俺はゆっくりと振り返った。

瞬間、絶句した。


小日向さんの浴衣姿は似合っているという一言では済まされなかった。

白地にし赤色で牡丹の花が描かれており、白と赤のコントラストが絶妙で美しい。下駄の鼻緒も赤と白であった。爪は薄いピンク色だ。長い髪は一つに結われて肩から前に掛けられていてほのかに見えるうなじが艶っぽくて美しい。笑顔で空気に花を添えることが出来るのだということを知った。


本当に感動した時は声が出なくなるということを聞いたが、それがこの気持ちなのだということに今気づく。動揺を隠そうと表情を平静に保とうとする。


「どうしたんですか?」

「いや、いや!!なんでもないですよ!ほんと何でもないですです!」

「もしかして......ちょっと派手でしたか?」

「そんなことないです!すっごく似合ってます!」

「おにーちゃん。私の時、そんなに褒めてくれなかったじゃん。」

「そんなことないだろ!多分!」


明らかに自分が焦っているのが分かる。小日向さんが由香に初めましてと挨拶し、うちの兄がお世話になっておりますと由香がお辞儀するのを横目で見ながら頭の中を整理していた。

頭の中が暴発しそうなまでに情報がグルグルと駆け巡っている。

今にもパンクしそうだったが、それがまた心地いい。今だけ、少しだけで良いからこの余韻をじっくりと味合わせてくれと言いたい気持ちだった。


もう何も言葉が出てこない!


「それにしてもみんな早いですね。私は少し早いかなと思いながら来たんですが......ちょっと待たせてしまったみたいですね。」

「いや、みんな今来たところだよ。俺はもともと待つつもりだったし、予定が早いに越したことは無いさ。」

「そうですよ!小日向さん!もともと私が兄を急かしたんですから。」

「......時雨は気にしなくても良い。」

「皆さん、ありがとうございます。」


小日向さんがぺこりとお辞儀をした丁寧に編まれた髪がふわりと揺れた。


なんかもうこれだけで満足してしまった自分がどこかに居るけれどこんなことで満足してはこれからのことが楽しめなくなってしまうかもしれないと思い気持ちを入れなおす。


「じゃあさっそくですけど行きましょうか!今日は佐々木君に夏の楽しみ方を教えなければなりませんから!」


これ以上に楽しいことがあるのかと思いながらも、俺たちは人々がひしめき合う大通りの中に消えていった。

今回から夏祭り編に突入!

やはり小日向さんは和装も似合いますね(感嘆)

という訳で皆さんもこの夏祭りを一緒に体感するような気持ちで読んでみて下さいね!

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