体調には気を付けて
「ゲホッ、ゲホッ......」
『人間も大変じゃのう。そんな何でもないことで風邪を引くとは。』
『風邪がうつるから出ていけ......って言っても犬に風邪うつるのか......?』
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平日の昼間から家に居るというのはかなり珍しい。
というのも俺は滅多なことでは風邪を引かないしあまり学校も休んだことがない。中学の時は片腕で数えられるほどの日数しか病気で休んでいないのだ。インフルエンザの予防接種は逆にしたら病気にかかってしまう体質?だったので中学校に入ってからは一切することは無かった。
そんな自分が風邪にかかっていれば何があったのかと問う声もあるかもしれないがなんてことは無い。ただ雨に濡れた後の下処理を怠り知恵熱を出し睡眠もロクに取れなかっただけである。
......こうして列挙してみると結構色々な要因が重なっているように思う。いつもとは違う状況すぎて頭が混乱していたから風邪を引くかもしれないということまで頭が回らなかったというのもあるかもしれない。
それにしてもあの時の小日向さんの「だれにでも優しくするわけではありませんから」と言う言葉はどういう意味だったのだろう。それは一切関係ない人には身を挺してまで優しくすることはできないというのであればすんなりと理解できるのだが、もしかすると自分が特別な存在だから他の人と同じようには出来ないという意味かもしれない。
ラノベとかだとそういうのはよくある。ヒロインが主人公に惚れているけれど奥手で直接気持ちを伝えられないとかいうシチュエーションでロマンチックなことが起こり、最終的にヒロインが意味深な事を言うけれど鈍感な主人公はそれに気が付かない......とかいうストーリーだ。
小日向さんならそんなことはありえない。そんなに遠回しな事しかできない人ではないはずだ。言いたいことははっきりと言うし、やりたいことはやる。もしも小日向さんがしたのがそんなありきたりなライトノベルのような内容であれば俺は多分小日向さんを好きになってはいないだろう。
それでもそうだったらいいなとは思う。
自分の中でうごめく矛盾と欲望がグルグルと脳を支配していた。
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『どうしたんじゃ。深刻そうな顔して。そういう時には寝るのが一番じゃぞ?』
『寝れないから寝てないんだろ。』
『さてはご主人、何か悩んでおるの?それは......恋の話じゃな?』
『......犬に気持ちを勘づかれる俺の身にもなってくれよ。』
『恋か!えぇのう!ワシも結構ブイブイ言わせたもんやで!』
『お前は今でも現役だろうが。いっつもスケベな事ばっかり考えやがって。この前も妹と雨姫に手を出そうとしてただろ。次やったらもう許さんからな。』
『いつになっても若い子はええからのう!それに犬なら何やっても叱られることは無いし、女の子のおる家に拾ってもらってほんまよかったで!』
『待ってろ。今すぐ捨ててやる。』
立とうとするがうまく立てない。どうやら相当体はまいっているようだ。よろけるように布団に突っ伏せてしまう。
その時、ガチャリとドアが開く。
「おにーちゃんダメだよ。あんまり無理しちゃ。今日はゆっくり寝てないと。」
「なぜ由香がここにいる。学校は行かなくていいのか?」
「別に学校なんて毎日行かなくちゃいけないわけじゃないじゃん。今日ぐらい休んだって大丈夫だよ。それにお父さんもお母さんも今日は忙しくて外に出てくるみたいだから、おにーちゃんの世話は私がしてあげないと。」
由香が持ってきてくれたおかゆを口に入れてくれる。
温かくて、喉をスッと通り抜けていく。やけどするような熱さではないけれどお腹の中に入るとじんわりと体の芯から温めてくれる。お米の甘みが口いっぱいに広がって途端に口元が緩む。千切った梅干しが自分の体に足りない塩を補充しているような気がした。食べる前は食欲がわいてこないと思っていたがいざ一口腹の中に放り込んでみるともう一口食べたくなってしまう。
「そんなに気負う必要ないんだぞ。」
「そういう時は素直にありがとうって言えば良いのに。はい、あーん。」
「美味しいよ。ありがとう。」
「どういたしまして。」
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食べるといつの間にか寝てしまっていたようである。
いつ眠りについたのかは覚えていなかったが気が付くと開けたままの窓から西日が差しこんでいた。
随分と長い時間寝ていたようである。
もう体温は高くないみたいだ。
気づくと横に人影がある。
椅子に座りながらこちらを見ていた。
「......おはよう。」
「今はおはようなんていう時間じゃないけどな。おはよう雨姫。学校はもう終わったのか?」
「うん。」
今の時間を見ると4時半ぐらいだった。
確かに学校が終わっていてもおかしい時間じゃない。
この時間帯に家に帰ってきているということは結構帰り道を急いだんだろうか。俺の知らないところで色々な人にかなり心配をかけているようだった。
「時雨ちゃんも......心配してた。」
「時雨ちゃん......?あぁ、小日向さんのことか。心配しなくても良いのに。」
そんなことを言ったら『それでも心配してしまうではないですか!』と怒られてしまいそうである。彼女のことだから自分のせいではないかと気負っているのかのしれない。そんなことは無いと明日学校に行って伝えなければならないな思いながら少し笑う。
「新崎は明日は学校に来いって言ってた......他には何にも言ってなかった。」
「だろうな。多分そうだと思ってた。」
何も言わなくても心の中では心配に思ってくれているような奴である。
なぜそこまで言い切れるのかと言われればなぜだろうと首をひねるしかないが、ともかくそれは多分当たっていてそれなりに心配はしてくれているんだろうなとも思う。
明日は学校に来い......か。
行ったらどんなことを言われるか分かったものではないが明日は絶対に学校に行こう。そして心配してくれた人に謝らなければいけない。心配させてすまないと言わなければいけないような気がする。
「風邪はすっかり良くなったみたい......?」
「あぁ。もう大丈夫だ。随分心配かけたな。すまない。」
「ううん。全然......良い。むしろ来ない日があっても良い。」
そう言って雨姫がにこりと笑う。
もう少しましな励まし方もあっただろう。そんな言い方だと来ない方が良いみたいな感じじゃないか。俺は学校に行けなかったことを落ち込んでいるわけではないんだぞ。
まぁ、ここで突っ込むほど俺も野暮ではない。
俺はベッドからゆっくりと起き上がり雨姫の膝の上で気持ちよさそうにしているポチ太を引きはがしながら雨姫と部屋を出た。
今日は佐々木君風邪でしたね。
自業自得なのに女の子に囲まれて羨ま......何でもないです。
結局小日向さんの言葉の真意とは何だったんでしょう。
......まぁ、こういう時は大抵相手は何とも思ってないんですけどね(落涙)




