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交渉に必要なのは信頼だ

三祭二日目。

校内は昨日にも増して熱気が漂っている。

朝の仕込みも終わった。

今日のシフトは昼が終わればそれで上がって良しとなっている。

午後はしっかりと三祭を楽しむ。


その時の俺は知らなかった。

これから起こることの顛末を。


--------------------


段々とお客が席を埋め始める。

「しかし、本当に来る人の量が多いよなー。最初はこんなに来るとは思ってもみなかったよ。おかげで仕事がなくならない!」

「それは愚痴か?」

「何言ってんだよ!嬉しい悲鳴ってやつさ!」

木原は片手にお玉を持ったまま俺の背中をバンバンと叩く。

「俺もこんなに人が来るとは思ってもみなかった。最初に講義室を見たときは、こんなに大きな部屋を借りたのかって思ったけど、この部屋がみんな人で埋まってた。正直驚いてる。」

「何か良いなぁ!こういうの。料理の作り甲斐もあるってもんよぉ!」

「じゃあどんどん作れよ。手、休ませてないで。」

木原はクルクルと回していたお玉の動きをぎこちなく止めた。

「キビシーネー!」

「お前には厳しくって決めてるからな。」

「出会って二ヵ月なのに酷い言われようで涙も出ないよ。これが理不尽ってやつですか?」

「友情の証だよ。涙が込み上げて来そうだ。」

木原はおとなしく持ち場に戻った。


客足も増え始める。

やがて私語をする間もないほどに客の出入りは激しくなり俺たちの語気も自然に上がる。

「これ、5番テーブルに持って行って!」

「はい!了解です!」

「新浜さんはこれ8番テーブルに!」

「分かっています。」

新浜さんは言われる前にお盆をスッと持って行ってしまった。

注文を大体覚えているのだろうか。

それなら凄いとしか言葉が出てこない。

流石、秀才。

頭の出来が違うのだろうか。

「何ジロジロ見てるんですか?気が散るのですが。」

「いや、あ、その......何か......すいません。」

俺はこういう時のうまい返し方を知らない。

とにかく異性相手にこういう話になると委縮してしまうのだ。

特に相手が高圧的な態度だと何も言葉が出てこなくなってしまう。

「ま、いいけど。」

新浜さんはそのまま料理を取ってまた行ってしまった。

少し心残りのある別れ方だった。

「ほんと、コミュニケーション力が欠けてるっていうか......残念ですよねぇ。」

「......コミュ障。」

「うるさい。」

雨姫に至っては俺と同じくコミュ障だろうが。

「2番テーブルと3番テーブル。これとこれ。お願いな。」

「「はーい。」」


こう働いているのは最初に想像していたよりもずっとやりがいがあった。

もちろん、俺が今している仕事が目に留まるものだからかもしれない。

クラスメイトと触れ合う機会があって、積極的に関わり、いつもは出来ないことができて少し浮かれているのかもしれない。

いつもと違うのはただ疲れるだけだと思っていたが、案外悪くないかもしれない。

ただ、いつもの生活でこれをしようと思うと積極的に話しかけなければいけない。

それはまだ俺には少し難しい。


「いらっしゃいませー。」

受付係がとめどなく声を張り上げている。

あの仕事はあの仕事で大変そうだ。

この位置からなら色々なものが良く見える。

「フーン。ここが......ねぇ。」

入ってきたのは一人の男。

目深に帽子を被っている。

間違いない。

昨日見た男だ。

背中を何か冷たいものが走る。

男は席に座ったが一向にメニュー表を見ようとはしなかった。

周りを眺めているだけである。

一見、メイド服の女の子を眺めているだけのようにも見えるが、その視線に一切の下卑たものは感じられない。

「こうやってても分かる訳じゃねぇしなぁ。」

カウンターから近い席だから分かるつぶやきだが、俺以外のクラスメイトや客はこの男がそんな風に独り言をつぶやいていることにすら気づいていない。

不意に男の視線が強くなる。

鳴り響く警鐘。

俺の中での危険察知システムがマズイマズイと叫びだす。

経験則。

確証は一切ない。

だがこのままでは危害が及ぶ。


「おやめください。」

カウンターを出て距離を一気に詰める。

相手がこちらを振り向く。

「誰だ、オマエ。」

狂気の視線。

殺気が俺の体に纏わりつく。

「店内で、暴れるのは、おやめください。」

緊張を悟られぬように少しずつ区切って言葉を発する。

荒くなる吐息を必死に隠しつつ、話を進めようとする。

「まだ、暴れてねぇよ。......あぁ、そういうことか。分かったぜ。だが、まだ確証がない。ちょっと試してみねぇとな。」

何かを閃いたようにニヤリと笑う。

「ダメです。」

「......なんだ、この手は。」

少しずつポケットに忍ばせようとしていたこの手を見過ごすはずがない。

俺はその手を無理やり握りポケットの中に入れさせないようにしたのだった。

「ふん。まぁ良い。ついてこい。」

「それは......」

「それともここで暴れられたいって事ならここで話しても良いんだぜ?」

「分かりました。着いて行きましょう。」

こうなったら俺に拒否権は無い。

俺はエプロンと三角巾を素早く脱いで傑に渡した。

「すまない。すぐ戻る。」

「あぁ、分かった。」

傑は俺の前を先行する男をチラリと見た。

これから何が起こるかもわからない。

すぐ戻れるかもわからない。

でも皆を巻き添えにするわけにはいかない。

「トシ......」

傑がそうつぶやいたように聞こえた。


--------------------


そこは体育館裏だった。

体育館裏と言われると良いイメージがない。

「お前、異能力者か?」

「そうだ。」

単刀直入な質問だが、それが一番わかりやすい質問であり、それに対する俺の答えは肯定する一つしかなかった。

男が薄気味悪く笑う。

「そうか。それなら話が速ェ。俺の仲間にならねぇか?」

「は?」

いきなりのことで思考が追い付かない。

仲間?俺が?

「簡単に言うと俺たちは異能力者を集めてるわけよ。」

「なんで?」

「集める理由なんて決まってるだろ。デカい組織を作るためにだよ。」

「何が目的なんだ?」

「そりゃあもちろん。俺たちの生きやすい世の中を作るためにだよ。」

そんなことだろうと思っていた。

「生きやすい世の中を作るならチートを使わなくてもいくらでも方法はある。それにチーターはすぐに武力行使を考える。そんな正攻法じゃないやり方でやっても上手くはいかない。」

「馬鹿じゃねぇの?これまでその『正攻法』ってやつで俺たちの住みやすい世の中にしてくれたヤツは誰一人としていねぇだろうが。同じ異能力者なら分かるだろ?」

「そうかもな。だが、そんなことはしない。」

「交渉決裂か。良いぜ。そっちの方が面白い。」

醜悪な笑みだ。

虫酸が走る。

警鐘が鳴りやまない。

歯の根が震える。


「ちなみに、生徒会長はどこにいる?」

「今は病院だ。ここには来れない。」

「............何!?」

「嘘じゃない。三浜柳病院にいる。前に面会もしてきた。」

面会と言っても何も話してはもらえなかったが。

「じゃあ昨日の異能力反応は一体!?お前以外にも他に異能力者がいるというのか!?」

「さあな。」

「とぼけやがって......!いいぜ。その気にさせてやるよ。」

相手はポケットに手を伸ばす。

この位置からでは止めることはできない。

クソッ!

俺は咄嗟に回避行動をとった。


こんな時、俺がダメチーターでなかったらと思う。

ダメチーターでなかったら。

自分の身を自分で守るぐらいの力があったら。

そう思う。


相手の能力も分からない。

この回避行動が役に立つかもわからない。

普通の人間と同じなのになぜか巻き込まれることだけは多い。

それに俺のコピーは劣化版だ。

真正面からやっても絶対に勝てない。

そうできているのだ。


「『増幅(グロウ)』」

「ッッ!?」

相手はポケットの中から米粒サイズの何かを取り出した。

数個バラまいた。

瞬間。

一気に大きくなるそれらの物体。

円柱状に、太く、長く、かなりの質量を持って。

円柱の先はこちらに伸びてきていた。

何という力業ッ!

このままじゃぶつかるッ!!


回避行動など本物のチートの前では意味がなかった。

相手に背を向けた時点で俺は普通の人間と変わらなくなっていた。

終わる......!


その瞬間、円柱は大きく軌道を変えた。

上にはね上げられるようにして飛んで行く。

「何とか......間に合ったみたいだな。」

「オマエか。二人目の異能力者って言うのは。」

「ふーん。そんなこと話してたんだ。なんかいい話だったら結構照れるなぁ。」

「ほざけ!」

やってきたのは傑だった。

折れ曲がるようにして伸びてくる円柱を、次々といともたやすく弾いていく。

「あら、イケメン。」

「惚れても良いんだぜ?」

傑はいつもと変わらぬ調子でニカッと笑った。

三祭二日目はなんと変な奴と遭遇してしまいました。

相手の正体は何者なんでしょう。

言っていることからして良いヤツではなさそうですが......

来週からバトルパート!

前作は戦闘ばかり書いていた戦闘狂の腕が鳴るぜ......!

来週水曜日もよろしくお願いします!

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