理不尽が忍び寄る音がする
「次、そっちのテーブル!二番だ!」
「分かった!」
まさに今がピーク時。
どこから噂になったのか、店内は予想を超える人数が押し寄せてパニック寸前になっていた。
大きな部屋を借りてよかったと心の底から思う。
「メモ、ここに貼っておくぞ!」
「ああ!すまん!醤油ラーメン!肉うどん!それぞれ一つだ!」
「了解!」
店内フル稼働と言った感じである。
これが今日を含めて二日間......気の遠くなるような話である。
「でも、やるしかないのか。」
ボソリとつぶやく。
半分は自分が提案したことから来る責任感だが、もう半分は後の達成感のためである。
それに予想外に繁盛しているというのは、予想外に閑古鳥が鳴いているよりは気が楽である。
「出来たぞ!!」
後ろから料理の入った器が差し出される。
「ほいほい!」
腹減ったなぁ......
目の前の飯が本当においしそうに見える。
飯テロと言う名の銃撃戦で俺の心はもうボロボロ。
頑張れ、俺。
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「はい!次ィ!!」
「木原何か乗ってないか?」
「そうかァ!?次々行くぞォ!!!」
「ありゃぁ、完全に壊れたな。」
深夜テンションまっしぐらと言った感じだ。
俺もそうなりたいとしみじみ思うが、そんなことをしてしまったら俺の場合はマッハで気力がなくなってしまうかもしれない。
「厨房......大変そう。」
「そうだねー。大変よー。他人事じゃないんだけどね。」
雨姫の言葉を聞いているとなんだか落ち着く。
小さいからだろうか。
メイド服もなんだかかわいい感じになっている気がする。
最早、マスコットと言った感じだ。
「これ、持てる?大丈夫?」
「子ども扱いしないで......」
「してないよー。全然。」
大分、俺の頭も制御が利かなくなってきた。
「じゃあ、行ってらっしゃーい。」
「うん......行ってくる......」
小さい体で良く持つなぁ。
............俺も頑張らないと。
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また一人誰かが近づいてくる。
「えっと......注文のメモは......」
よく見るとクラスメイトではない!
疲れすぎて人間違いをしてしまった。
......ん?
よく見るとアレは......
「あら、中学校の時の同志を忘れるなんて、高校生になって随分と偉くなった者ね。ジャッジマン?」
「あのー、どちら様でしょうか。」
「......寒いわよ。そのギャグ。」
「仕方ないじゃないか。疲れてて間違えたんだ。俺に罪はない。」
「私、別に文句を言ったつもりはないのよ?」
ゴスロリファッションを着こなし、片手には黒いボディに白いフリルの付いたいかにもと言った感じの日傘を持っている彼女の名前はララという。
もちろん本名ではない。
「大体、何でこんな時に来たんだよ。忙しいのぐらい見て分かるだろ?」
彼女は俺の様子を見てやれやれと肩を落とした。
「相変わらずね。そういう物言いしかできないの?もっと、『来てくれてありがとう!』とか『今日はどうしたの?』とかそういう気遣いを見せなさいよ。コミュ障なのが丸わかりよ。」
「その言葉はダイレクトに心に穴が開くから勘弁してください......」
彼女はふっと諦めたように薄い紫色をした唇で苦笑いする。
「まぁ、元気そうで何よりね。中学校の頃とは少し変わったみたいだし。本当のことを言うと少し心配だったの。黒狼団の参謀が無口でいじめにあってたら......ってね。」
「それは......」
否定はできない。
周りの環境が悪ければそうなっていたかもしれない。
「私の予想以上に参謀さんは人望が厚かったみたいね。あーあ、心配して損しちゃった。」
「うるさい。」
やれやれと大袈裟に肩を落とすそぶりをしたララに向かって俺はいつものように悪態を吐く。
懐かしい。
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ともあれ談笑している暇はなかったので別れようとした時の事だった。
後ろの方で皿の割れる音がした。
何事かと思いカウンターを飛び越えてそちらの方に向かう。
「おいおい!接客態度がなってないんじゃないのか!!」
「何よ!セクハラしてきたのはあんたの方でしょう!?」
言い争っていたのは竹内と大柄な男だった。
竹内はクラスのムードメーカー的な存在で、人当たりも良く明るい。
怒ったらかなり怒鳴り散らすが、何も無いのに怒るような人間ではない。
「どうしましたか!?」
「コイツがいきなり私のお尻触ってきたのよ!」
「言いがかりだ!そもそもこんな扇情的な格好をするなんて触ってほしいと言っているようなものじゃないか!?触られて文句が言えるとでも思っているのか!?」
「なん......ですって!!いい加減にしなさいよ、アンタ!!!」
確かに竹内のスカート丈は他の人のメイド服より少し短い。
胸元もきわどい。
でもあれが男を煽るためにやっているのではないことは平常心で考えれば分かるはずだ。
つまるところファッションを楽しんでいるだけなのだ。
竹内の手が大柄で太った男の首元に伸びる。
「待った。」
ここで手を出したらどうなるかは見えている。
そこから先は泥沼だ。
「ちょっと、ついてきてもらえますか?」
「ハァ!?行くわけねぇだろ!このガキ!!」
相手はすでに喧嘩腰だ。
カツカツとハイヒールの音が室内に響き渡る。
「ちょっといいかしら?」
「ん?誰だッ......」
後ろからやってきたのはララだった。
男は絶句した。
確かにララの格好は慣れない者が見ると少し声が出なくなってしまうかもしれない。
「座りなさい。」
彼女は男の首元にまるで刃物でも向けるかのように傘を仕向けた。
その瞬間、俺の中に違和感が走る。
「は......い。」
相手の男が従順そうに椅子に座る。
「そう。良い子ね。」
息を吐くように人前でチートを使っている。
俺にはそんなマネはしたくても出来ない。
彼女のチートは『誘導』だ。
強制力には欠けるものの、ありとあらゆる行動を誘導させることができる。
しかし、相手の心をだまして何かをさせることはできないため、少し相手をその気持ちにさせてやることが重要である。
相手が自分から行動を起こすように仕向けることができるチート。
距離はかなり近づかなければいけないし、即効性がある訳ではないが、現代においてかなり便利なチートであることには間違いない。
「では、単刀直入に聞くわ。あなたは痴漢をやったのね?」
「............はい。私がやりました。」
「そう、なら最初からそう言えば良いのに。手間をかけさせないでくれるかしら。」
「ごめん......なさい。」
相手が誘導されるように答えている。
事実を問うているだけだから、男がセクハラをしたことは事実なのだろう。
「なら、職員室に行きなさい。でもひとりでに罪を懺悔し始めてもあまり信じてもらえなさそうだから、特別に私も着いて行ってあげるわ。」
「ありがとう......ございます。」
本当にえげつないチートだなとつくづく思った。
「私はここでいったん帰るわ。明日も多分来ると思うから、その時は話し相手になってもらうわよ。」
軽くチートを使いながら話しかけてくる。
俺がある程度なら抵抗力があると分かっているから出来るのである。
「忙しい時にはくるんじゃないぞ。」
「それは私の気まぐれかしらね。」
白いカチューシャでまとめられた艶やかな黒髪を翻しながら彼女はまるで飼い犬でも連れてあるかのように男を引き連れて歩いて行った。
「さぁ、仕事だ。戻った、戻った!」
柏手を打ち鳴らしながら先ほどまでの出来事を無かったことにするように皆を持ち場に戻らせる。
ああいうのをチーターと言うのだ。
何事もなく自分に都合の良いように物事を進める。
チートも使い方次第であるとつくづく感じる。
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結局それから順調に店は回転し、事なきを得た。
あとでララにはありがとうと言っておかなければならない。
......まぁ、明日でも良いか。
こういうところがダメなのだと分かってはいるのだがついつい後回しにしてしまう。
「ともあれ、一日目終了って感じだな。お疲れー。」
俺は倒れこむように椅子に座る。
ああ、眠たい。
少し寝ていこう。
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『今日、三浜柳祭の中で異能力の発動を確認しました。』
「ほう。やはり生徒会長か。まだ横暴しているとはな。」
それは放課後の事である。
一人の男はスマホである人と会話をしていた。
深くキャップをかぶった男だ。
『それが......全く同じ時間にもう一人発動を確認しています。私の異能力では発動した異能力の種類までは分からないので生徒会長とは断言できません。しかし、少なくとも異能力者は二人以上居ると考えられます。』
「いいぜ。面白そうじゃないの。」
深い帽子をかぶった男は不意にこちらに気が付く。
携帯電話から発せられる声は良く聞き取れないが男が話している声は耳を澄ませば聞こえないこともない。
俺は何も聞かなかった風に通り過ぎる。
男はスマホの電話を切り、ベンチに座ったまま口の端を上げる。
「明日が楽しみだぜ。」
その瞬間に既視感のある悪寒が背中を駆け巡るのを感じた。
最後、何やら不穏な感じがダダ洩れていました。
現れた男は一体何者なのか。
佐々木達の運命はどうなってしまうのか。
三祭二日目、一体何が起こってしまうのか!?
次回は土曜日の夜です。




