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厨房の管理者

「おい!佐々木ィ!早くしてくれ!!」

「ああ、うん。今、行く......」

ダメだ......

「佐々木君。どうかしたんですか?」

やばい。

いきなりはダメだ。

特にこの頃は頑張りすぎている。

時間があれば準備もできるが、今はダメだ。

ドアの前に張り付けてある『定食処・三浜柳(みはまやなぎ)』の文字がグルグルと眩暈がするように回っている。

ガクンと膝が落ちる。

「どうしました!?佐々木君」

小日向さんが背中に手をやってくれている。

傑が腕を肩に絡ませる。

「あー、トシはちょっとダメみたいだ。何分か休ませてペシペシすれば多分元に戻るはずだから休ませてやってくれ。」

「これ、どういうことですか!?」

「んー。充電切れだな。」


--------------------


やる気スイッチと言う言葉を聞いたことがある。

俺のやる気はまさにそれによく似ている。

もしかしたら他の人もそうなのかもしれないが、多分俺は特殊だ。


俺にはスイッチがあって、それは普通の人よりも錆びついていてかなり固い。

時によってはテコでも動かないようなスイッチになるのだ。

しかしいざ動き出すと、電気は出力を間違えたように出るのだ。

そして充電が切れると動かなくなる。

溜めるのには少し時間がかかる。

そして溜まると普通に動き出す、と言った感じである。


人とは違うせいで色々な迷惑をかけてきた。

「全部お前の心の持ちようだ。」なんて言われてしまうとそれまでであるが、それが自分が把握している自分のすべてである。

限界を決めるななんて言う人が居るが、限界を知らなければ出来ることも出来なくなる。

自分のことを把握した結果がこれなのであればこれ以上望むことは無い。


ただ、少し申し訳ない気分になるだけだ。


--------------------


「お、ようやく戻ってきたな?」

「ん......すまん。......どれくらい経った?」

「んー。10分だな。何かした後ってわけでも無いし、まぁまぁ早い方じゃないか?」

10分か。

確かにいつもより早い。

今日は遊んで疲れたって感じなのか?

「それよりも今は調理場が大変だ。手伝え。」

「了解。」


「佐々木ィ!遅いぞ!まさか倒れるとは思ってなかったけど......」

「悪い。心配かけたな。多分、この頃は必要以上に頑張りすぎたんだ。」

「俺はまだ倒れたことないから分かんないけど、頑張りすぎてもそんな風になるもんかね?まぁ、気をつけろよ。」

「分かった。」

周りを見渡す。

コック服を身に纏ったクラスメイト達が忙しなく右へ左へ動いている。

これでは駄目だ。

きちんと役割分担は振っていたはずなのに、人数が足りないせいで自分の役割以上のことをしている。

そして間に合わないところは誰かが助けに入る。

結果的に何をやったのか、何をまだしていないのか。

それを一々確認しなくてはならなくなっている。

正直に言ってしまえば『予想通り』だ。

さて、どうすればこの状況を打開できるか。

これぐらいのことは最初から予想がついていた。

だから、考えなくても対処ぐらいはできる。


「俺は、オーダーを受け取って伝える!木原と長谷川君はコンロ!それぞれ、カレー側と麺類のスープ側で分かれて下さい!原田さんはトッピングの位置について下さい!一気に注文を消化してしまいましょう!」

俺はそう告げるとオーダーが書いてあるメモ用紙に目を通す。

これは......想像以上に溜まっているな。

「お前も調理手伝ってくれよ!それと何で俺だけ呼び捨てなのさ!!」

「こういう仕事が一人いた方がオーダーは速く回せるの!あと呼び捨ては愛情の証だろ!?ほら、さっさと仕事しろ!!」

「ヒィッ!救いは無いんですか~。」

「終わったら救いは来るさ!昼前なのにこんなにオーダーがたまってるんだから、昼からはもっと忙しくなるぞ!!」

「ほへ~~~」

木原が気の抜けた声を出している。

今まで寝込んでいた奴が言えることではないが、少し皆には頑張ってもらわなければいけない。

その為に俺も頑張る。


「これ3番テーブルに運んで!こっちは11番だから!」

カツカレーととんかつ定食をそれぞれカウンターに差し出す。

「分かりました!行ってきます!」

小日向さんがメイド服姿で意気込みながら去っていく。

「ああ、行ってらっしゃい......」

イカンイカン、見とれている場合じゃない。

それから順調に注文の滞りは消えていった。

厨房の中の人数が少しずつ増えたというのもあるのだが、自分の役割に専念できるようになったということが大きいだろう。

「......佐々木さん。」

「原田さん。どうしました?」

引っ込み思案の原田さんが話しかけてくることは滅多にないので、こちらはそんな驚きを隠しながら答える。

「あの......とんかつとキャベツの千切りが......大分減ってきました......」

減るのは当たり前だが急いで確認に回る。

確かに減るペースが速い。

カウンターから覗いて(すぐる)と内藤を呼び止める。

「とんかつ用の豚肉10パックとキャベツ5玉、頼めるか?」

「行ってくれば良いんだな?」

「あぁ、頼む。そんなに急がなくても大丈夫だが、早ければ早いほど良い。後、クラスメイトが見つかったらシフトじゃなくても声かけといてくれ。お前たちの代わりだ。」

「多分、結構今の状態でも回ってたからその心配はないと思うぞ。」

「了解。じゃあ、行ってらっしゃい。」

傑と内藤は着替えもせずに飛び出していった。

「これで良いですか?」

こちらを見つめる原田さんに声をかける。

「......はい!」

長い前髪から覗く目が少し笑っていたような気がした。


具材が届いたら、役割分担の配置を作り変える。

とんかつは長谷川君、キャベツの千切りは原田さんに調理してもらう。

二人とも惚れ惚れする手さばきだ。

とても俺はあんな風にはできない。

俺も少しぐらいは料理ができる。

でも彼らと自分には根本的な違いがある。

つまるところ、俺は料理がそんなに好きじゃないが、彼らは料理が好きなのだ。

俺は特に何も考えず、ただただ食べるために料理を作ってきた。

そこに上手くなろうという思いは無かったし、出来ることならしない方が楽だと思いながらしてきたのだ。

あんなにキャベツの千切りが早くできる訳もなく、とんかつの揚がり具合を品定めしたこともない。

こんな言い方は陳腐だが、今の彼らはとても輝いていると思った。


そして俺たちの戦いは昼過ぎと言うピークを迎える。

佐々木達の厨房での戦いは後半へと続きます。

佐々木の体力は持つんでしょうか......ちょっと心配です。

でも佐々木なら何とかやってくれるでしょう!

ということで次回は水曜日に投稿です!

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