不可能なんかじゃない
文化祭の準備が連日に渡って続いていた。
万年帰宅部の俺にとってこれは良い経験である。
ただ「面倒臭いか?」と聞かれるとそうじゃないと答えられる自信はない。
これは乗り気ではないとかそういう事ではなくて、ただ単に体質の問題だ。
自分でも思うが、そういう面倒臭い性格をしているのだ。
慌ただしく人が動く。
俺が手伝えるのは飾り付けを作ることぐらいだ。
機材を運ぶのに男の手が必要なのだが、それはほかのクラスの動向を見てから決めようとなったので、今の男子ははっきり言って手持ち無沙汰だった。
今1番忙しいのは衣装作りをしている人達だった。
俺も手伝えれば良いのだが、何せ集中力がすぐ切れるので裁縫は向いていないのである。
「男子ー!買い出し行ってきてー!」
「ほいほーい!」
俺が行く前に仕事を取られてしまった。
「悪いな、佐々木!恨むなよ!俺も仕事がないんだからな!」
そう言ったのは木原だった。
ここで一緒に行くという選択肢を提示しないアイツを恨まないで居られるはずがない。
はぁ、と溜息をついた。
「はいはーい!稲原が、とっておきの新鮮な情報を仕入れてきましたよー!」
ガラガラと音をさせて入ってきたのは噂好きの稲原さんだ。
とっても楽しそうな顔をしている。
胸ポケットからメモ帳を取り出して何かが書かれたメモを2、3枚ビリビリと破る。
「これです!」
「これは......!」
そこに書かれていたのはクラスの番号とそれぞれの出し物だった。
あのHRから3日間ぐらいしか経っていないにも関わらず凄い情報収集能力だ。
自分はコミュ力低めなのでこんなことはできない。
中々、噂というのも馬鹿にできないなと感じた。
そのメモ帳には大体の情報が書き込んであった。
遊びの出し物や劇、意味不明な物まである。
ゴリラパンチってなんだよ...
まぁ、自分に関係があるのは飲食店なので出し物の名前や一言メモなどから推測する。
見当たるのはカフェ、軽食店、お持ち帰り出来るものを作っている店だろうか...
それぞれ2店舗ずつぐらい。
若干の被りがあったようだがそこまで気にするかぶりではないらしい。
個人的に言わせてもらえれば......ラビットハウスと聞いてすぐにカフェの名前だと分かってしまったことが少し恥ずかしいぐらいだろうか......
しかし、これは......
何をすればいいんだろう。
「これ......入る隙間がないですね。」
「そうね...軽食系が全部ジャンルとして取られているわね。」
「多少の被りは仕方ないんじゃないか?」
「でもこれ以上入れると、全部他がやっていることの真似になる。はっきり言って軽食分野では、もう入れないと言って良いんじゃないか?」
よし、と言って内藤が立ち上がる。
何か決めたようだ。
「軽食分野は諦めよう。他の出し物を考えるんだ。」
「それは.........」
教室中が黙り込む。
それは本末転倒であり、無理難題だ。
「もう衣装だって作りかけてるじゃない!それは無責任なんじゃないの!?」
「しかし、遅かれ早かれこのままでは被りが出てしまうことは分かっている。それならば早いうちに決断を下した方が得策だ!」
「それは......」
一理ある。
だが、それは最善策ではない。
何より、準備が台無しになってしまう方向に話を進めない方がいいのだ。
それなら被りが出てもやった方がマシである。
しかし...もっと...良い策が、あるはずだ...
議論は激しくなっていた。
辞める派と続ける派が一進一退の攻防を続けていた。
もっと良い案が...あるはずなのに...全く、思い浮かばない。
「佐々木君。」
「小日向!...さん。」
「何か考え事してるみたいですね。」
「あぁ。」
「三祭の事ですか。」
「......あぁ。」
「私はその意見に賛成だし、多分皆その意見に賛成してくれると思います。」
「へ?」
「なんたって、佐々木さんですから。この状況を見てそれでも何かで悩める佐々木さんですから。全部の意見より良いモノを出してくれるはずなんです。」
まだ決まってないんだぞ、というツッコミがのどにつっかえてなかなか出てこない。
そのままその言葉を飲み込んで...考える。
この計画で...大丈夫なのか?
「この中で料理ができるやつって何人ぐらいいるんですか?もちろんカップラーメンやゆで卵ではなくて、簡単な料理でも良いから作れる人間です。」
それはあまりに唐突だった。
皆が困惑する。
「あの~...私、料理なら少しできます...けど。」
引っ込み思案でなかなか話さない子だ。
名前をなんと言っただろうか。
それを皮切りに少しずつ手が上がる。
「それは、たこ焼きひっくり返すだけとか、そういうのでも大丈夫なの?」
「もう少し、できた方が良いですね。野菜切ったり、肉切ったり、味も調えられなきゃいけないかもしれません。」
「なら、ごめんだけど私は無理っぽいなぁ。ほんとにごめんね。こういうの苦手で...」
「いえ。構いません。これは人数確認なのでそういうことを聞いてくれるのはむしろありがたいです。」
そもそも、軽食店は無理なら、食事屋をやめるというのがダメなのだ。
人数は多分、足りている。
下ごしらえがしっかりできていれば、10人もいれば入れ替わりでシフトが組めるはずだ。
「軽食店ではありません。少しボリュームのある、普通の食事屋をしましょう。」
「それは......!」
一見して聞くと、あまりにも無謀だ。
そもそもそんなことが出来る訳がないというオーラが満ち満ちている。
でも決めつけてしまうのは早計だ。
「普通の食事屋でそれなりに美味しい物を作る。それなら被りは出ないでしょう。」
「それは...無理なんじゃない!?」
「例えば、とんかつのメニューがあるとします。キャベツの千切りは朝のうちに沢山切っておいて、とんかつは無くなってきたらまとめて油で揚げる。ご飯はまとめて大目に早炊きすれば何とかなるし、学校内のどこかを借りれば広い飲食スペースも確保できるでしょう。」
「それはそうだけど...」
「出来ます。メニューさへ工夫して考えれば支度はまとめてできるはずです。」
「出来るの...?」
「やるんです。」
「誰が?」
「みんなで。」
こうして俺たちの厳しい戦いが始まった。
三浜柳祭編、学祭の出し物は本格的な料理屋...?!
そんなこと出来るのでしょうか......
彼がそう言うのなら大丈夫!なのでしょうか?
不安は残りますが、次回は土曜の夜です!
土曜の夜という響きが懐かしい...
私は昔、異世界単騎特攻という小説を書いていてだな...(隙自語)




