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日に日に状況は悪化していた

 交渉は成立しチーターと政府の仲は保たれた。眼鏡と田中オルクスが政府の仲間入りを果たし、政府は少しずつチーターに歩み寄ることになるだろう。

 これからの世の中はチーターにとって今より確実に生きやすくなるはずである、多分。


 しかしそんなことよりも俺には目先の問題が迫ってきている。それもだいぶ重たいやつが......


「二次対策......完全に出遅れた!!」


 国公立大学の一般入試は大体の場合、共通テストと二次試験の二つの点数を足し合わせて決まる。共通テストが全員同じ試験問題を受けるのに対し、二次試験は大学独自の問題を出してくる。共通テストが終わってから二次試験が始まるまで約1カ月強。この間に二次試験の問題の対策を行わなければならない。

 受験生、特に現役生にとってこの時期の二次対策はとてつもない可能性を秘めている。人によっては二次対策でぐんと成績を伸ばす受験生も居るらしい。特に浪人生よりも時間の限られている現役生の方がその傾向は大きい。

 そんな中、俺は試験対策を出来るだけ行ってはいたものの、例のいざこざにかかりきりになっていたせいで十分に二次対策に取り組めずにいた。これは同じ学校を受験する相手よりもディスアドバンテージとなることは明らかだった。


「これ......大丈夫か?」


 俺の頭の中は焦燥感と恐怖に支配されつつあった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「と、宗利君は考えているはずです! ここに集まってくれたメンバーでどうにか宗利君のサポートをしてあげたいと考えています!」


 そう言いながら小日向時雨は放課後の教室の教卓を軽く叩いた。その様子はさながら熱血教師のようだった。


「つっても、俺たちに何が出来るっていうんだ? 俺、もう自由の身になったからここに居るだけで推薦組は二次試験の勉強なんてしてないぞ」


 後ろめたそうにそう言ったのは内藤である。内藤は推薦合格で大学に合格していた。推薦は小論文と面接試験、それに共通テストの結果を使って合格を判定するものが多いため普通の受験生よりも早く合否が出る。不合格なら一般入試を受ける必要があるが、内藤の場合はそうではなかった。ゆえに二次試験の勉強はしていないのである。


「それはー、ですね......これから頑張って勉強して対策箇所を教えてあげるとか......?」


 時雨の苦し紛れの返答に追い打ちをかけるように違う場所から声が飛んでくる。


「私、就職組、もっとムリ」


「ムムム......」


 そう言ったのは雨姫宇鷹だった。雨姫は戸籍云々のこともあるし、大学に行くよりも就職する道を選んだ。公立高校なので就職する人間も少なくない。佐々木のように国立大学を目指す人の方が稀ともいえる。


「でも、宗利は助けてあげたい。でも何をすれば良いか分からない」


「そこなんですよねー......」


 雨姫の言葉に時雨は少し驚いていた。誰かのために何かをしてあげたいという雨姫の姿は自分のことで精いっぱいだった昔の雨姫からは想像もつかない姿だった。感慨深い気持ちになりながらも時雨は解決策を探っていた。


「一般入試の人たちは受験で忙しいから来てくれなかったし、一体どうすれば良いものか......過去問を見て似たような問題を選出することぐらいなら出来ますかね?」


「むずかしい......のかな?」


 雨姫が首をかしげている。


「あのー、私、高校入ったばかりであんまり良く分かってないんですけど、おにーちゃんって今そんなにヤバい状況なんですか?」


 後ろからおずおずと声をかけたのは由香だった。その言葉にその場に居た全員が苦しい表情をした。


「「「ヤバい」」」


「結構危機的状況だろうな。あのいつもの表情を見ているだけで推薦組の俺でも分かる」


「そうですね。ただでさえセンターの点数が悪かったところに追い討ちでアレですからね。あの時の毎日のスケジュール聞きましたけど、思わず顔が青ざめましたよ。私なら耐えられないですね」


「......ヤバい」


「嘘っ......おにーちゃんの合格率、低すぎっ......!?」


 由香が絶望した表情でその事実に直面する。


「でも、どうしましょう......私は普通に二次の勉強もしているのですが......さすがに私が教えられるぐらいのことはもう教えられるでしょうし......」


 呼びかけたが集まったのは時雨を含め四人だけだった。この時期はみんな忙しいのでこれだけ集まっただけでも稀なのだろうが、この面子では少々心もとない。

 そんなことを思っていた時、教室の扉が開く。全員の視線がそこに向けられた。


「やぁ! 諸君ら、遅くなったな! 我が名はオルクス=ルシフェノン! 魔王の13人目の堕とし子にして――」


「えっと、それで今後の方針ですが――」


「ちょっと待つのだ! 我が来たことを無かったことにするではない!!」


「え、でも、そんな、ねぇ......」


 全員の視線が期待のまなざしから興味なさげなものへと変わっていく。時雨が反論を言おうとして口ごもったのはおそらくその反論が偏見の塊のような反論だったからだろう。


「なんだその目は。私では力不足だというのかね」


「いや実際この成績上位者が集まるクラスに居ないんだから実力不足だと思われても仕方ないだろ」


「はっ! 笑わせてくれるではないか! 我が違うクラスに据え置かれているのはそんな小さい理由ではないわ! 我がここより劣るクラスに位置付けられているのは、ここのやつらに我の影響が及んでしまうことを危惧した教師たちの畏怖の現れであるぞ!」


「すごいな......臆面もなくその言葉が言えるのか」


 その言葉の意図することはつまり拗らせた中二病がこのクラスに悪影響を及ぼしてしまうのではないかと毛嫌いされたせいだということである。それをなぜ本人が知っているのかは分からないが......


「一体どうしたものでしょう......」


 時雨はこの状況を見て小さくため息をついた。果たして私達が宗利を助けることは出来るのだろうか、と。

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