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いざ! 修学旅行!

 京都に着いた俺たちはホテルに荷物を預け軽く昼食を取った後、再びバスに乗りバスの窓から見える京都の街並みを眺めていた。


「ほら、京都には高い建物や派手な建物が並んでないだろ。これは京都の景観条例によって景観が保持されているんだ。例えば屋外に派手な看板を出してはいけなかったり、地域の基準となる建物の高さの三分の二の高さの建物までしか建ててはいけなかったり、さらには建物の面積によって表示できる看板の大きさまで変わってくるんだ! 例えばあのローソンの看板は――」


 俺はその中でも一番興奮していたと思う。いや、一番興奮していた。だってそうだろう? 調べていたものを自分の目で見られる! 鉄道オタクだってアニメオタクの聖地巡礼だって同じだ。

 俺は今、移動する美術館の中に居る!


「とても楽しそうですね」


「あぁ、とても!」


 時雨はそんな俺を和やかな目で見つめていた。いや、見守ると言った方が正しいだろうか。


「何か、あれだな。恋人同士っていうよりも――」


「子供とそのお母さんみたいな感じね。『男の子はカブトムシ』とかいう言葉をどこかで聞いたことがあったのを思い出したわ」


 木原と新浜さんが半ば呆れ気味にそんな姿を批評する。

 原田さんは批評家たちを見ながらまぁまぁ、となだめる。


「良いんじゃないかな......楽しそうだし」


「まぁ、トシは何かにはまるとかなりのめりこむタイプだからな。いつだったかラノベをあいつの家に預けた時、中二病が再発しかけてたことがあったような気がするよ」


「お前がラノベを!?」


「いや、そっちかよ。結構好きだぞ、俺」


 木原は傑がラノベを持っているという事実に驚いているようだった。新浜さんは別にそこまで驚いていないみたいだが、「黒狼団なんていうところに入っていたぐらいだからまぁ、そうね」と言っているところを見ると、どうやら俺が中二病だった事実を飲み込んでいるようである。


「うぉ! 見えてきた!」


 俺の声に反応して他のやつらも窓の外を覗く。

 おぉ~、という感嘆の声。


「あれが清水寺か......」


 この修学旅行の最初の目的地、清水寺に辿り着いた。


「うぉー! この角度! パンフレットとかでよく見る感じの坂の角度! この風景! いや~、京都! 京都だよ!!」


「あー、確かに。この風景、見たことある気がします」


 バスを止めた駐車場から歩いてすぐ長い長い坂に辿り着く。両側には古い家屋の土産物屋が立ち並び、幻想的な雰囲気を醸し出す。

 これがパンフレットなどでよく撮影されている清水坂である。

 京都にはこういう良い雰囲気の道が至る所にあるらしい。日本で今の時代もこんな雰囲気を醸し出すことが出来る街並みはたぶん数えるほどしかないだろうに。


「土産物、何買っていくかなぁ。八つ橋? お茶? それとも木刀??」


「お! シショーもやはり木刀に興味があるのデスカ!? やはり京都はニンジャのアジト......シュリケン、クナイ、マキビシ! カタナも買えるなら買いたいデス――あっ! 何するネー!?」


「邪魔しないの」


 新浜さんは突然割って入って来たフランの襟首をつかみ体を引きずってゆく。

 傑が「じゃあゆっくり歩いてこいよ」と手を振ってその後ろに続く。


「まず清水寺に行きませんか? 土産物は帰りに買いましょうよ。それに八つ橋は生ものなので今日は買わない方が良いですよ」


「あぁ。確かに、一理あるな、うん。危ない危ない。大荷物を持って歩かなければならないところだった」


 心臓がバクバクして、これ以上ないほど気持ちが高揚している。

 俺は遊園地であまり楽しめる人間ではない。それよりは動物園や美術館とかで楽しめるタイプだ。ようは下調べをして知識をひけらかしながらその知識のすり合わせを行うのが楽しいのだ。そんな俺にとってこの修学旅行はこれ以上ないほどの娯楽と言って良いだろう。

 そしてそんな話をニコニコと聞いてくれるとても聞き上手な彼女が居れば......俺でなくても下調べして話したくなるんじゃないのか?


「にしても結構静かだな」


「えぇ。コロナの影響で観光客がめっきりと減っていますからね」


「京都はこの観光客減でかなり財政が苦しくなっているからな。外国人観光客が減ったり、俺たちみたいな修学旅行の学生が減ったりしたのがかなり痛いみたいだな。早く観光客が戻ってくれると良いんだが」


「そうですね」


 普通なら観光客がいっぱい居るはずのこの場所も、今は比べ物にならないほど閑散としている。少しずつ観光客が戻り始めているにしてもこの数では到底全盛期のころとは比べ物にならないだろう。土産物屋が大打撃を受けているという話をしているとこちらに向かって呼び込みをしている店主さんたちがなんだかかわいそうになって来たので、その辺で小さいストラップを買うことにした。これならかさばらないだろうということだった。

 小さいお寺のストラップを二人で買った。その小さなストラップをちょこんと持って、時雨が俺の顔を覗き込んで小さい声で言う。


「おそろいですね」


 その言葉に、そのしぐさに、少し、どぎまぎしてしまう。あざとい。あざと可愛い。

 思えば一緒に何かを買うなんてことこれまでに数えるほどしかなかった。揃いの参考書を買った時もおそろいですね、なんて言わなかった。まぁ、参考書では言わないだろう。

 そうか......おそろいか。


「大事にしなくちゃな」


「えぇ。そうですね」


 それから談笑して少しすると目的の場所にたどり着く。


「そしてここが目的地の清水寺だな。目の前に見えるのが仁王門でその後ろに見えるのが西門だ。仁王門は解体修理があったこともあって結構鮮やかで新しめなんだが、西門は1600年ぐらいに再建されたものが残っている。これもなかなか風情があるな」


「1600年ぐらいですか......江戸時代が始まってすぐぐらいですかね?」


「そういうことになるな! そんな時代からこんな立派な建物が残っているなんて......木ってすごいんだな」


「何ですかその感想。そこまでうんちくを話しておいて」


 時雨がくすくすと笑う。

 だって、そう思うだろう。人間の体なんて400年も置いていたら形も残らないに違いない。

 改めてこの時代の建築のすごさを見せつけられる。


「この調子で歩いていたら夕方までに全部回れませんよ?」


「た、多分大丈夫だろ」


 そう言いながらもここに来るまでに一時間かかっていたことに驚く。今は3時。夕方の5時半までが制限時間だが、もしかしたら間に合わないかもしれない。俺は名残惜しさを感じながらも次の場所へと向かうことにした。

 最初の目的地は清水寺です! いやー、定番中の定番スポットですね。皆さんも行ったことがある人が多いのではないでしょうか?

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