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状況を変えてゆけ!

 俺は降り立った瞬間に状況を理解する。あらかじめ予想した状況の範囲内だったからだ。

 目の前に倒れていた自衛隊員たちとその足を物理的に引っ張っている山田さんを掴む。自衛隊員はいきなり腕を掴んできた俺に動揺しているようだったが、状況が飲み込めていないのか振りほどこうとはしなかった。そして今にも逃げようとしている猫谷に向かって大声を張り上げた。


「猫谷! 時雨! 俺に捕まれ!」


 声が届くと同時に時雨が動き出し、一足遅れて猫谷が走り出す。

 相手の追手たちが眼前に迫る。どちらが触れるのが早いか、焦燥と緊迫感の中で感覚を研ぎ澄まし......猫谷の指先が俺に触れた瞬間に携帯端末のボタンを押した。

 直後、俺たちの姿は消えて俺たちに触れられなかった操り人形たちが残り香に折り重なった。


 そんな様子を俺たちは、元居た場所と呪い女の軍勢が居る場所の反対側の迷路の陰から見ていた。


「危なかったですね......」


「そうだな。あそこで猫谷がもうどこかに行ってたら、詰みだったかもしれん」


「そうね。今ほど宗利さんに日頃から媚びを売っていて良かったと思ったことはないわ」


「宗利くん。あとでじっくり話を聞かせてもらいますからね?」


「言っとくが何もされてないし、俺は時雨一筋だからな」


 時雨が頬を赤らめる。そしてポカりと拳を当てながら、そういうのはここじゃないところで言ってください、と小声でつぶやく。

 もはや愛を語るのに恥ずべきところが一つもない。自分は無敵の人になってしまったようである。

 そんな様子を少し離れたところから見ていた自衛隊員たちが口をあんぐりと開けていた。


「えっと、君は......」


「佐々木と言います。ここにいる三人と同じく一応能力者ですがあなたを傷つける気は毛頭ありません。それとこれはまだ貸してもらいます」


 そう言いながら先ほどつついた携帯端末を見せる。

 自衛隊の男たちは驚いた顔になった後、銃口を俺......いや、俺たち能力者に向けた。


「三人と同じくってことは、ここに居る全員能力者なのか? 聞いていないぞ、そんなこと。それにその携帯端末を持っているということはお前が奪った犯人......いや、全員グルだったのか」


 なるほど。大体どんな方法で丸め込んだのかが分かった。

 俺は両手を上に挙げながら冷静に受け答えする。


「全員で協力してあなたたちを騙したことは認めます。ですが、そうするしかその場を穏便に済ませる方法は無かったとも思っています。そしてこの状況を乗り越えるためには争っている暇はありません。今、銃口を向けるべきは自分達ではないんじゃないですか?」


 隊員はちらりと向こう側を見た。そこには呪い女が取り逃がしてしまったことを歯がゆく思いながら爪を噛んでいる姿があった。そして片手間にタンスの中をまさぐっている。

 その姿を見た隊員は舌打ちしてため息を吐きながら銃を降ろした。そしてもう一人の隊員にも銃を下せと命じる。


「確かにアレをほっとくのはマズい......しかし、そうか。操られてたのか、俺たちも」


「全然気づきませんでしたね。思えばこの子たちと最初に出会った時、上官が取り押さえようとしてたことぐらい......」


「待て、そんなの記憶にないぞ......あぁ、なるほどな。つまりそこら辺の記憶がやられてるのか」


 隊員たちは自分たちの過ちに呆れるようにため息を吐いた。


「それにしても宗利君はよく私たちのいる場所が分かりましたね。ずっと端末で私たちのことを見てたんですか?」


「あー、いや、多分この辺りだろうな、と思って」


「んー......なるほど?」


 彼女の納得がいかないようなので俺は携帯端末を見せながら説明する。


「俺が端末を持って行ったから、隊員と君たちの移動手段は徒歩しか残されていなかった。そして君たちにはその場に居座るか、その場から動くかの二つの選択肢があって、動くとしたら山田さんを抑えながら進むのは難しいだろうから山田さんの向かうところに進むだろうと思った。山田さんが向かっている場所は呪い女の場所だというのは大体分かっていたし、騒動がこの辺りで起こっていることは知っていたから、あの場所から呪い女の場所までのどこかに五人組かそれ以上の集団があればきっとそれが君たちだろうと思って飛んで来たんだ」


「......やっぱり宗利君はすごいですよ」


 時雨は感心したように言った。褒められるというのはなかなか気持ちがいい。

 俺は感心する時雨の手を握って言った。


「でも、これは俺だけの力で成し得たことじゃないんだ」


「え?」


「全ては時雨があの状況をどうにかして、その後も無事でいてくれたらという仮説をもとに成り立っているんだ。つまり最大の功労者は君なんだよ」


「宗利君......」


「あんたら、所かまわずって感じねぇ。さすがの私もこの状況で二人の世界には入れないわ」


 猫谷がジト目でこちらを見つめてくるので不意に二人の世界から引き戻された。

 そうだ。今はアレをどうするかが一番問題だ。

 呪い女は爪を噛みながら一つの藁人形をタンスの中から取り出した。その人形は眼鏡をかけていて髪型を見る限りは女性のような感じだった。あの女は一人一人の藁人形にあんな凝った装飾をつけているのだろうか。愛情深いというか執念深いというか......その姿に俺はどこかで見覚えがあるような気もした。呪い女はその藁人形を手で持ち背中を指でつつく。


 その瞬間、俺のダメチートが発動した。つまりそれは猫谷よりも近い位置に発動した人間が居るというわけで――


「うぅ、あぁあああああああああああ!」


「見ィツケタ!」


 山田さんのレーダーが脳内に浮かび、山田さんが大きな声を張り上げる。

 おそらくあれは山田さんの人形。そして山田さんは操られて大きな声を出してしまった。つまり、人形の背中をつつかなければ人形を操ることは出来ないということで――!


「猫谷! 合図したら前方のやつらの記憶を全員消すことは出来るな!?」


「何? 別にできるけど――ってえっ!?」


 俺は猫谷の腕を掴み、呪い女の方へ駆け出した。

 呪い女はこちらを横目でチラリと見て目を見開いた。タンスの中に手を伸ばしている最中であり、無防備な時間だったからである。呪い女は慌ててタンスに手を突っ込み人形に手を触れる。


「今だ!! 消せ!!」


「全く、人使いが荒いわ、ねっ!!」


 呪い女はタンスの中に手を突っ込んだまま動かなくなった。目はキョトンとしており、何が何だか分からないという感じである。それもそのはず。数分の記憶を失えば、俺たちと出会ったことは忘れてしまう。そしてその時、俺たちの方を見ていなければ......


「襲撃されたことにも気が付かない!」


「ッ!?」


 操られてる人間たちをかき分けて呪い女の目の前に躍り出る。

 俺が目の前に現れても何が起こったのかパニックで分からない。気持ちは良く分かる。

 だが、それに気が付けないのは致命的だ!


「取ったッ!」


「き、キサマァァァァッッ!!!」


 俺の手には山田さんの人形が握られていた。

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