何をするべきなの?
大量の能力者反応......一体何が起こっている!?
その反応が壁をもろともせずどんどん近づいてくるのが分かる。
一体何が原因だ? このままそれらがここに来たら何が起こる? これから俺はどうすれば良い!?
大量の反応が現れた原因。これだけ大きなことが起きているのだから発生の原因の足掛かりぐらいは掴んでいて当然のはずだ。大量の反応が一つの場所に集まった原因は?
「......山田さん!」
そういえばここに瞬間移動してくる前、山田さんに異変が起こった。山田さんの意識はなくなって意思疎通が出来なくなり、誰かに操られているかのようにどこかへと歩き出したのだった。山田さんはそれを『呪い女の能力のせい』と言っていたが、もしもそれが本当だとしたら、呪い女に呪いをかけられた真理の探究者のメンバーが同じところに集まっていると思われる。
それはなぜか? 分からない。なぜこちらに向かっているのかも分からない。
わかるのは呪い女がここに訪れることはあまりいい方向には転ばないだろうということだ。
「決まったか。どちら側に着くか」
ぐーさんが尋ねる。嫌な性格だ。
ぐーさんは呪い女のことに対処するための方法について、頭をフル回転させて考えていることを知っている。そのことに頭のリソースを割いているため俺が正しい判断を下すのは難しい。それを知っていてこのタイミングで聞いてきたのだ。余裕のない状況でも正しい判断が出来るか試しているのだ。
「まだ決められていないです」
「......」
「でも俺はこの判断で良かったと思える最良の選択肢を選びます。それは俺の場合、最終的にどちらの被害も一番少なくなる選択肢です」
「机上の空論だな。理想論とも言う」
ぐーさんは拳を握りしめる。割れた床の上で踏ん張れる足場を見つけるために足で瓦礫をかき分けた。
「だが、後悔しない選択肢を選ぶというのは俺も同じだ。せいぜい手遅れにならないようにな」
「はい」
ぐーさんは膝をくんっと曲げた瞬間に消えた。破裂音が白勝のもとで鳴り響く。
何をするにしてもあまり時間は残されていない。
何をするべきか。
今からどこに向かうのが最善だろうか。
呪い女を止められるのが一番良い。だが、今俺がそこに向かったところで上手く行くだろうか。
呪い女の能力を俺はまだ完全に知っているわけじゃない。壁を無視してこちらに進んできているということは、呪った人間の能力を使い壁を破壊している可能性が高い。つまり、呪った人間の能力を使うことが出来るか、使わせることが出来るか、どちらかは出来ると考えていい。そんなもの俺の能力の上位互換ではないか。俺一人では止められはしないだろう。
だがあかりやサチの力を借りることは出来ない。サチを置いてあかりだけ連れて行くことはあかりが承知しないだろうし、サチとあかりの両方を連れて行けば、ここで固定しているチーターと自衛隊員を開放することになる。この状況で開放されれば、解放された人はこの戦いに巻き込まれてしまいかねない。
「俺に力を貸してくれる人がそれ以外に居るとするなら......」
俺はマップ上に表示される無数の点を見つめる。
そして狙いの場所を定めて押した。
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意識がもうろうとしながらも歩く山田さんに後ろから着いて行く。
そんな私たちの前方に広がったのは信じたくない光景だった。
そこには数十人の少年少女と自衛隊員が集まっていた。
その中心に居るのは癖のある髪の毛の女の子で、その子を取り囲むようにたくさんの人が立っていた。周りの人はみんな意識がないみたいで、状況からして彼女がこのチーターを操っているのだろう。
「あれはここのエリアを任されていた隊員じゃなかったか?」
「それがなぜこんなところで能力者なんかと一緒に」
「とりあえず様子を見てみませんか?」
「そうだな。何が目的なのかは知らんがあれだけの人間は私たち二人ではどうすることもできんだろう」
私たちは物陰で山田さんを引き留めながら彼女を見つめる。
その女の子の隣に居る数人の人は何やらタンスのようなものを持っていた。彼女はそのタンスから何かを取り出した。
「あれは......藁人形?」
「気味が悪いな」
彼女はその藁人形を持ちながら何か企むようにニヤリと笑った。
彼女は藁人形の背筋をいやらしい手つきでなぞった。目の前に居る男が痙攣するようにびくつく。
彼女は次にその藁人形の背中を二回タップした。
目の前に居る男はだらりと腕を垂らしながら彼の体を反転させ、壁に向かいあう。
そして――爆ぜた。
壁は触れることなく爆発し、彼女たちはその方向へと進んでゆく。
その瞬間にここに居る全員が感じ取った。この女の子には多分かなわない。手元に持っている銃弾なんかではどうにもできないだろう、と。
「ま、まずい......君たち、逃げるぞ!」
呆然としていた部下の隊員はその言葉に正気を取り戻し、そして自分の犯した罪に気が付いた。
茫然自失の状態に陥っていた隊員の手の力はついつい緩んでしまい、そこから山田さんがすり抜けていたのだ。
「あっ!」
山田さんを捕まえようとして物陰から出てしまう。
そして目が合う。
「あ......」
部下の顔が青ざめる。
「ああ、まだ居た......呪う、呪ってやるノロウノロウノロウノロウ!」
どうしよう。
山田さんと彼を見捨てて向こうの陰に隠れれば、もしかしたら自分と猫谷さん、上官さんは捕まらなくて済むかもしれない。
でもそんなことをして良いんだろうか?
宗利君ならそうするだろうか。
「しないですよね、多分」
でも、どうしたらいい?
何をすればいいの?
「き、君! 逃げるんだ! 速く」
「そうよ。彼女サン。ここで共倒れしようとするなら私は逃げさせてもらうわ」
部下さんのもとに何人かの操られた人たちが走る。部下さんは山田さんを連れて走って逃げようとするが、山田さんがいきなり彼の腰をがっちりと掴んだことによって尻もちをついてしまう。
居ても立ってもいられなくなった上官さんが銃を構えながら向かってくる能力者との間に立った。
「う、撃つぞッ! 止まれ!」
止まる気配はない。
私のチートが再使用可能になるためにはもう少し時間が居るし、私にはどうすることも――
目の前に何かが現れたのが見えた。
いきなり何もないところから出てきたその人を見た瞬間に、私はとても安堵した。
冷静に考えてもその人にこの状況をどうにかすることが出来るような力があるとは思わないけれど、その人ならどうにかしてくれるという根拠のない確信があった。
「ごめん。遅くなった、時雨」
「いや、いつも狙ったみたいにベストタイミングですよ。宗利君」