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大きすぎる野心

 轟音が鳴り響く。天井は焼き切れ、空が顔を覗かせる。光の盾は一瞬で消え、ボロボロに砕け散る。

 人に当たれば一撃で死ぬだろうと思われる攻撃。

 それは目の前に仁王立ちする男から発せられたのだった。

 

「やっぱりお前は裏切りものだったんだなぁ。ずっと俺はそう思ってたぜ?」


「誤解だ、と言ったら分かってもらえるか?」


「裏切者の言葉は信用しねぇよ。そもそも俺は人を信用したことがねぇ。信用できるのは力。圧倒的な力だけだ」


 男は拳を握りしめ、俺の目と鼻の先まで近づく。俺はその男の顔を見上げた。

 見るだけで分かる圧倒的な体格の違い。チートがどうとかは関係なく、ただ大きくて強い。まるで格闘家のような気迫をこの男から感じていた。


「強いやつが勝つってのはいつも同じだ。不変の摂理ってやつだ。俺はそういうシンプルなのが大好きだ」


 大男が俺の胸倉を掴み、壁に放り投げる。まるでソフトボールでも投げるかのようなフォームで体は壁に叩きつけられる。

 激痛。

 背中に電撃のような痛みが走る。背骨を打ったからなのか、手足がびりびりと麻痺したようになり、思うように動かない。

 チートは......使っていない。


「分かりやすいよなぁ。権力、女、金、名声、地位、そして強さ! 持ってれば困ることなんかねぇ」


 一歩一歩こちらに近づいてくる。


「ば、化け物!」


「や......やめ」


 俺は自衛隊員が銃を構えるのを止めようと、伸びない腕を伸ばそうとする。

 誰も傷ついてほしくない。目の前の光景を見ているとそんな理想論が甘えのように感じられる。兵士はまるで猛獣に猟銃を向けるように人に銃を向け、それに臆することもなく大男は彼に近づいてゆく。一触即発ではなく、もう開戦しているのだ。


 耳をつんざくような銃声が鳴り響く。

 一度引き金を引いてしまえば、もう止める者は何も無かった。次から次へと銃口から鉛玉が発射され、彼の腕は彼自身が制御を超えた振動に震える。

 だが、それで大男が止まることはなかった。


「良いねぇ。力と力の真っ向からのぶつかり合い。強い方が勝つ。どこからどう見ても真っ当だ。誰も文句のつけようがねぇ。文句をつけるためには文句が付けられるだけの力が必要だからな。話し合いなんて力を持たねぇぜ」


 大男の体に触れた弾丸は動きを止めていた。まるで固い鋼の板に叩きつけられたかのように弾丸がぐにゃりとぺしゃんこになっていた。兵士は弾のでなくなった銃をぽとりと落とした。

 チートは......使っている。当然だ。

 相手のチートが何なのか、はっきりとしたことは言えない。だが、あの極太のレーザービーム。光の盾。弾丸を止めたこと。これらから察するに、おそらく光のようなエネルギーをそのまま放出したり実体化させたりする能力なのだろう。 

 その大きな幅の応用の効かせ方。普通では太刀打ちできないような圧倒的な力。まさにチートと呼ぶにふさわしい力だ。


 だが、ここで諦めてはいけない。

 ここに来た意味がない。


 体は再び自由を取り戻しつつある。俺は横の自衛隊員に向けて呼びかける。


「体術に、自信は、ありますか」


「いや、え? 体術? あんな銃も効かないやつに――」


「自信は、ありますか?」


 兵士が息を呑む。

 

「一般人に勝てるだけの体術です」


「一応、一般人なら......ボクサーとも一度やって勝ったことがある。もちろんプロボクサーじゃないが」


 その答えを聞いて、俺は一つの勝ち筋を見出す。

 限りなく細い勝ち筋。だが、ここまで勝ち筋の見えない暗闇だったのに対し、そこに一筋の光が入るだけで一気に視界が開けてくる。


「なら大丈夫です。自信をもって立ち上がってください。そしてあいつに立ち向かってください」


「お、俺がか?」


「自分に考えがあります」


 俺はよろけて立ち上がる。

 兵士は倒れそうになる俺の体を支える。


「信じて良いんだな?」


「はい。ただしこれをやるにあたって条件があります。絶対に相手を倒そうと思わないでください。勝ってやろうとか、もっと先に進もうとか、そういうことを一切考えず、相手の攻撃を処理することだけに専念してください」


「そんなので本当に......分かった。信じるしかないんだろう? 俺はこんなところで死にたくない」


「ありがとうございます」


 兵士は銃を捨ててファイティングポーズをとった。


「へぇ。あんな口車に乗って俺とやろうなんていい度胸じゃねぇか。果たして俺の強さとお前の強さ。どっちが正しいか、正々堂々やりあおうじゃねぇ――かッ!!」


 何のためらいもなく拳を振る。

 兵士はその拳を紙一重で避けた。


「あぶっ!?」


 拳を繰り出す時、大男はチートを使わない。

 つまりその時点では一般人と同じである。ただの腕っぷしが強い一般人だ。その攻撃なら冷静に対処すれば避けられないこともないだろう。自分にはできないが。

 次々と繰り出される攻撃が面白いように受け流される。さすが日頃から鍛えている人は違う。


「ちょこまか動きやがってっ!」


 大男が拳を振りかぶる。だが悪意のあるチートが発動する時、俺はそれを察知する。察知してしまう。悪意と共に背中に悪寒のようなものが走り、これからダメチートが発動してしまうことを予期する。いつもそれを恐れている。

 だが今回限りはそれがあって本当に良かったと思う。


「下がって!」


 兵士は目を丸くしてのけぞった。拳の中から光が漏れ出る。

 のけぞりと降りぬかれない拳の間にぽっかりと隙間が空く。

 俺は目の前に盾をイメージしながら手元の端末に触れた。


「!?」


 俺は拳とのけぞった体の間に瞬間移動し、盾を相手の体に押し付けながら相手の体に覆いかぶさる。

 鍛え上げられた体でも体勢が悪ければ姿勢を保てない。


「倒れろッ!」


 刹那、盾が強く光り輝いた。盾から発せられたエネルギーで大男が壁まで吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされた大男は壁に体をめり込ませた。壁にはヒビが入り、五体投地で壁にめり込む。

 やりすぎてしまったか......?


 そう思ったのもつかの間だった。


「やってくれるじゃねぇの」


 大男は不敵に笑った。

 やっぱり幹部の名に恥じない強さですね。

 こういうキャラはめっちゃ好きです。


 今回は投稿遅れてすみません......できるだけ遅れないようにがんばりたいんですけどね。

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