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考える暇もない

「この場所はチーターの力じゃなくて、魔法で出来てるってことだ」


 それを聞いた山田さんは周りを見渡し、眉を顰める。

 俺は説明を付け加えた。


「昔、俺と時雨はFPSゲームの世界に吸い込まれたことがあるんだ」


「ゲームの世界に? それは能力を受けてということですか?」


「いや、少し違う。俺たちはそのFPSの世界で最後まで勝ち残ることが出来たんだが、その時の報酬としてゲームマスターに会うことが出来たんだ。そのゲームマスターはこの空間が魔法で出来ていると言ったんだ。魔法はチートの根源みたいなもので、その根源の研究の成果がこの空間だというふうなことを言ってた。この空間はそれにそっくりなんだ」


 あの時は天井が無かったものの、その点を除けばこの空間はあの場所にそっくりだった。

 あのゲームマスターがなぜそんなことを知っていたのか、そしてなぜあの空間を作り出すことが出来たのか。その答えはあの太った男が政府の人間だったと考えれば全て合点がいく。


「つまりあのゲームは政府の試作品だったというわけだ」


 しかし、なぜこんな場所に移動させたのか。その答えがまだ一つに絞り切れていない。

 一つ考えられるのは、こちらの作戦を崩壊させたいという魂胆だ。地の利をなくさせるという意味でも利点がある。二つ目は各々を分断し、こちらの戦力を削ぐことである。

 だがどちらも決定打にはなり得ない。地の利が無くなったところでこちらは作戦すら立てていないし対策もしていなかった。ただ圧倒的な力でねじ伏せるだけである。各々を分断したところで同じである。相手がこちらに対峙する人数も分散してしまうので戦力を効率よく削ぐことは出来ないだろう。


「ということはもしかしてレーダーの範囲がいつもより狭まっているのもその魔法とやらのせいということですか?」


「......どういうことだ?」


 山田さんが頭を抱えながらこぼした言葉に俺は耳を疑った。


「いつもは大体50km圏内までならレーダーでサーチすることが出来るのですが、今はせいぜい10km圏内が限度です。この迷路の全体像を把握することは出来ていますが、確実に範囲が狭まっていると感じます」


 山田さんは目を細めて遠くを見つめるようにしながらそう言った。


「時雨、チートが弱まっているように感じるか?」


「いいえ......体は何もされたように感じません。使ってみないと分からないかもです」


 俺はダメチートでレーダーを観察するが、あまり違いは分からない。言われてみれば縮まっているような気もするが、違いが分かるほどレーダーについて熟知しているわけではないというのが現実だった。

 しかし山田さんの言っていることが本当であれば、おそらくそれが相手の狙いだろう。


「この場所ではチートの効果が五分の一になる。それが本当なら、白勝対策にもなり得るというわけだ。もしも白勝とぐーさんが対立し、ぐーさんがこの場所の効果を受けなければ白勝のチートよりぐーさんの魔法が優先される可能性がある」


「ぐーさん?」


「ぐーさんは俺の知り合いでチートとは違う魔法が使える人だ。その魔法は相手のチートを変えること。つまり白勝にぐーさんが勝ったら白勝の『何ににでも勝利する能力』を変えることが出来るということだ」


 それがもしも成し遂げられるならそれは白勝対策になり、もう一度真理の探究者に攻め入る理由になるということだ。そして少なくとも政府は成し遂げられると確信している。


「不味い......非常に不味いな」


 まずは誰かと合流しなければならない。

 そう考えて俺はレーダーを覗き込む。すぐ近くに人は居るが、誰なのかは分からない。


「なぁ、隣に居るチーターがいったい誰なのか――」


 山田さんなら隣に居るチーターが誰なのか分かるかもしれない。そう思って聞こうとしたがそこで山田さんの異変に気が付く。頭を抑えたままうずくまっている。ちょうどあかりに攻撃された時のような感じだった。だが俺は何も感じないので、あかりの範囲攻撃ではないことはすぐに分かった。


「どうした!? 具合が悪いのか!?」


「いえ、多分、これは......呪いの効果で......」


 そう言うと山田さんはがっくりとうなだれた。

 呪いの効果? あの幹部の呪い女の効果がなぜここで発動している? 呪い女も混乱しているということか? あの女のチートの効果は、藁人形に呪う対象の血液をかけると、その方に対して呪いをかけることができ、呪いをかけられた人間は体の自由が利かなくなったり遠隔で傷をつけることが出来るようになったりする能力だと聞いている。もしもそれが能力の一部分だったとしたら?


「ありえない話じゃない、か」


 うなだれていた山田さんが顔を上げる。だが様子がおかしい。正気を失ったまま操り人形のようになっている。

 一歩一歩踏み出してどこかに行こうとするので、俺は慌てて山田さんを引き留める。

 次々に起きる出来事に俺の頭はパンク寸前だった。


「何が起きているんです?」


 その時雨の声が聞こえて俺は我に返った。時雨の問いに答えるため俺は頭を働かせて情報を整理する。


「俺たちは魔法でこの場所に閉じ込められた。そしてチートの効果を弱体化されている。さらに今は呪い女が能力を発動させたらしいって感じか......」


 何のために?

 能力を発動したのには必ず理由があるはずだ。

 俺の頭が思考モードに入ろうとしたその時だった。

 時雨が俺の隣に近づいて小声でつぶやく。


「誰か来るみたいです」


 その声で思考モードはぴったりと静止した。

 耳を澄ますと確かに向こう側から足音が聞こえてくる。しかもどんどんこちら側に近づいているようだった。まるでこちらの位置に気が付いているような......


「もしかしてあのゲームのマップ機能を相手が持っているということはありませんか?」


「......なるほどな」


 あのFPSゲームにはマップ機能があった。もしも相手がその機能を駆使できるのであれば――


「こちらの場所は全てわかっているということか」


 完全に先手を取られた。

 相手がそれなりの対策は取ってくるだろうなと思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

 これはさすがにこちらも切り札を使うしかないか......?


 その時、はるか遠くで光が見えた。

 まるで広大なエネルギーが集まっているかのような光。

 敵が出したのか、それとも味方が出したのかは分からないが、とても嫌な予感がする。

 なりふり構っている場合ではない。こちらも切り札を切るしかない!


「時雨!」


「はいっ!」


 パァンという乾いた音が鳴り響いた。

 いつだって、どんな喧噪が鳴り響いていたとしてもこの音は透き通って聞こえる。それは周りが静まり返るからであり、俺と彼女の二人だけがこの世界の中で動けるようになるからだった。


 時が止まった。

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