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一人が寂しいとは限らない

目が覚めたのは白い部屋。

重厚感のある鐘の音がテンポを刻む。

真ん中に三角座りをしている女の子が座っている。

......なんだ...ここ。


とりあえず近づいてみる。

『来ないで...』

どこから声が聞こえてきたのかは分からないが、それでもこの声が彼女から発せられたものだと分かる。

来ないでと言われたからって行かなければ何も分からない。

『来るな.........来るな!』

おっと。

注意が入ってしまった。

流石にこれ以上は近づいてはいけないらしい。

でもまだ10m以上も距離がある。

ただ声が届かないわけではない。


「ここ、どこだよ。」

「知らない。」

「あんた、誰だよ。」

「教えてあげない。」

「どれぐらいの間ここにいるんだ。」

「今、いつなのかわかんないからわかんない。」

さっきからずっとこの調子だ。

最初は丁寧な感じで話していたが、途中から気力が失われてしまった。

うなだれて、横に寝る。

こんなところに居たら...時間の感覚もなくなってしまう。

多分一時間ぐらい経ったんじゃなかろうか。

その間、眉一つ動かさずに三角座りし続けている少女も大概だが。

長いツインテールは地面まで届いている。

むすっとした顔をしている。

服は...制服みたいだが、うちの高校ではない。

仕方ない。

ここから出る方法も分からないなら時間をかけるしかない。

幸い何もすることは無いのだから。


「なぁ、お前、こんなところに一人で楽しいか?」

「楽しいとかそういう問題じゃない。出られないからここにいるの。」

「...もしかして、お前も出られないのか?」

驚いた。

これは彼女のチートだと思っていたのに...違うのか?

なら尚更厄介だ。

出る方法が全く思い浮かばない。

彼女に出してもらえれば良いと思っていたがそう簡単にはいかないらしい。

「あなた、どうしてここに来たの?」

「知らないうちに入ってきてた。ここに来る前に体が消えた...」

そう、それが一番厄介だ。

現実世界の自分は今どうなっているのだろう。

まさか、このまま戻れないなんてことも...ありえない話ではない。

「うたかの時とおんなじだ。」

「うたか?」

「あ、あたしの、名前。あまひめうたか。降ってくる雨に...お姫さまの姫...宇宙の宇に...飛ぶ鷹」

雨姫、宇鷹。

「なんか...すごい名前だな。」

キラキラネームが云々言っている現在でもそうは無い名前だ。

「ここにきてどれくらい経つんだ...あ、体感で良いから。」

「とっても長く...」

考え込んだ表情になる。

見た目的には同じぐらいの年なのだが、こうして横顔を眺めているとなんだか年下のように感じてしまう。

「やっぱり......分からない。」

「寂しくは...ないのか?」

「それは...ない。もう慣れたし、この中だったらおなかも減らないし、眠くもならないし、苦しいことはない。」

「でも、楽しいこともない。そうだろ?」

「あっちの世界に比べれば...何もないほうが楽しい。」

ああ、と少し納得がいった。

向こうの世界が楽しくなかったのだ。

確かに特段楽しいことはそんなにないかもしれない。

ここにいることが苦痛ではないのだ。

どこまでも続く白い部屋。

何もない。

常人では気が滅入ってしまうだろうに。

この子にもいろいろあるようだ。

「気が変わった。色々話そうか。」

「え...?私、話すのは嫌...苦手...」

確かに俺も話すのは苦手である。

現にもう少し良い誘い方があっただろうと今になって思う。

「じゃあゲームをしよう。」

俺も少し興味が沸いてきたのだ。

楽しいことを知らない彼女を楽しくしてやろう。


とはいえ。

この白い部屋にはゲームがある訳でもないし、彼女は体力的にはあまり自信がないという。

だが、俺も俺だ。

昔から人とはあまり付き合いがうまくなかったせいか一人遊び、ないし二人遊びには慣れている。

それはそれで誇れることではないのだが...

「しりとりなんてどうだ?ラ攻めプ攻めとかいろいろあるけど、考えてみると楽しいかもしれない。」

まぁ、もちろん俺は使わないけれど、と付け足す。

「.........分かった。やってみよう。」


しりとりに始まり、連想ゲーム、いっせーのせ、戦争、など素人のとっつきやすいものから大喜利やなぞかけなどちょっと頭を使うものも遊んでいく。

「ふぅ。久しぶりにこんなに遊んだ気がするよ。」

雨姫の時折こぼれるうめき声が、結構癖になる。

「...確かに。結構...疲れたかも。」

「まぁ、慣れてないことするのは疲れるからな。少し休憩しようか。」

彼女は何か考えるそぶりをしてしばし沈黙する。

「いや...もうちょっとする。こんな機会めったにないから...」

「じゃあ、そうしよう。後悔してもしらないぞ。もう立てないくらい疲れさせてやるからな!」

少し心に火が付いた。

自分がしたことが人の心を動かしている。

それがとてつもなく心地よかった。

彼女と自分は根本的なところで何か似ているのかもしれない。

こういうのを『腕が鳴る』ということだろうか。

自然と笑みがこぼれた。

それを見て彼女の目尻が下がる。

彼女が、笑った。

開かずの間編です!

白い部屋に謎の少女。

素性も知れぬ相手に佐々木は親しみを感じているようです。

依然として脱出方法は分からないまま。

さて、彼らの運命や如何に?!

明日も連続投稿!

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