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選択肢を作り出すのは自分自身だ

「私は――」


 かぼそい声が聞こえた。


「私はあかりちゃんと一緒ならどこへ行っても良いよ」


 少女はこの状況を打開するために一生懸命決意をした。

 しかし、その決意だけですべてが変わることはない。


「私は――サチにそういう覚悟をさせたくなかったんだよ。これから死地に向かう兵隊がするような覚悟をさ。サチにはそういうの似合ってないし向いてない。警察にバレないし誰からも責められないからって人を殺すことなんてできないでしょ」


「あかりちゃんは、その、殺したことあるの?」


 長い沈黙があった。

 サチは何かを察したようだったが、答えはあかりの口から語られた。


「殺したことはあるよ。三人ね。ちょうど今のあんたたちみたいに組織から命令されて他校に行ったんだ。仲間になることを拒否した他校の生徒は組織から見て危険人物になるわけで、だから殺した。そうしなければ私が組織に歯向かったことになってしまうから。同じようなことが三回あったんだ」


 サチは大きく目を見開いた。

 これまではそんなそぶりを見せなかったのかもしれない。そして自分がどれほど守られていたのかを実感したのだろう。

 サチは俺に問いかける。


「あなたもそういう風に入れられたの?」


「そうだな。脅迫されて仕方なく入った。それより前に三回うちの学校に襲撃されてて、その時襲撃してきたやつらは全員警察送りになった。今、どうなってるのかは分からない」


 サチはこれ以上目を開けないんじゃないかというぐらい大きく目を見開いて驚きを示していた。


「そっか......みんな無理やり入れられた人ばかりなの?」


「そうですね。大部分がこちらからアプローチした人と言えるでしょう。機会さえあれば寝返りたいと思っている人も少なくないと思われます」


 サチはその言葉を聞いてうつむいたまま言葉を飲み込んでいた。

 やがて顔を上げてあかりに向かって意思を伝える。


「やっぱり私だけ特別扱いなんてされたくないよ。それに私を守るためにあかりちゃんがつらい目に合ってるなんて聞いたら、私は......この生活を送り続けることなんてできない」


 それを聞いたあかりがとても悲しそうな顔をする。


「私はサチを特別扱いしたいんだよ! だって私にはもうサチしかいないんだよ! ちょっと無理をするぐらい全然かまわない! ここに居るかぎり組織に狙われるのなら、サチさえ良ければ学校を移っても良いし、海外に行っても構わない! なぁ、それが良い! 一緒に逃げよう!」


 どんどんあかりがパニックに陥っていくのが分かった。

 彼女はこれまでサチを守るためだけに頑張って、ようやく幹部まで上り詰めたのだ。その結果が守りたい相手からの拒否だったら、自分でもこんな風に冷静ではいられなくなるかもしれない。

 もちろん本人にそのつもりはないし、冷静でないあかりを見ても現状が把握できていない。


「落ち着け。確かに海外まで逃げれば真理の探究者がらみではどうにかなるかもしれんが、海外で高校生二人が生きるのはなかなか無謀だと思うがな」


「そんなものこの力があればなんだって出来る! 恐喝でも何でもできるでしょ!?」


「それじゃここに居るのと変わりはしないだろ。その行為をサチに否定されたら、次はどんな手があるって言うんだ? ここから逃げることはもう根本的な解決になりはしないんじゃないのか?」


 反論が出来なくなったあかりががっくりとうなだれる。

 サチにぎゅっと手を掴まれる。

 おそらくこのままじゃ双方が納得できる答えどころか、サチとあかりが納得できる方法すら選び取ることはできないだろう。


 選べないなら作れば良い。

 全員が納得できる方法を。


「つまり、あかりはサチを面倒ごとに巻き込みたくない。サチはあかりに迷惑をかけたくない。俺はサチを真理の探究者に入れたい。これらの要件を満たすことが出来れば良い。サチが真理の探究者に入ることと面倒ごとに巻き込まれないことを両立させればいい。そうだな?」


「それが出来ないからこうやって迷ってるんじゃないか」


 真理の探究者に入っても面倒ごとに巻き込まれない方法。

 それは俺のような立場になることではない。幹部はいつもは比較的安全でも必要な時になれば必ず駆り出されることになる。だから非情にならざるを得ないときもある。

 普通のチーターとして普通の団員になることでもない。彼らは使い捨てだ。任務を達成するか、人を殺すか、警察送りにされるかのどれかしか行く末がないことを俺は知っている。

 ならどうすればよいのか。


「山田さん。君は普段どんなことをしてる?」


「私ですか? 私は、そうですね......レーダーによる能力者の探知が主な仕事ですが、スケジュールの管理などもしています」


「彼女のようなポストであれば、比較的問題に巻き込まれるようなことは少ないだろう。つまり山田さんのようなサポートに回れる能力がある、逆に言えばそれしかできないからそのポストに着かせるしかないと組織に思い込ませれば良い」


 あかりが俺の顔を唖然とした顔で見つめている。


「そんなことができるの?」


「あぁ、少し良い方法を思いついてな。ただし条件がある」


「聞くよ」


「俺に協力してほしい。サチの能力を偽らせてもらう」


「わかった」


 どうやら俺はあかりの納得を得ることが出来たようである。

 サチを見る。こちらと目が合ったので、これで大丈夫か、と目で確認する。「ありがとう」という声が小声で聞こえ、俺の出した解決法がサチにも受け入れられたことを確認する。

 こうして俺たちの話し合いは円満に終わった。


 この時、俺たちは気が付いていなかった。

 この会話を知る人間がここに居る人以外にも居たということを。

 俺たちのこの会話が後に自分の首を絞めることになることを。

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